「くっ、殺せ!」と屈服した女騎士を拾ったので虐待することにした。

歩く、歩く。

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16話 安らぎを与えぬよう監視役を送った

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「やはり、いい剣だな……」

 剣の手入れをしていたセレヴィは、ため息交じりに呟いた。
 羽のように軽く、扱いやすい。業物の剣を帯びるのは、騎士として最上の喜びだ。
 それに魔王とはいえ、騎士として仕える者も出来てしまった。それに対しても喜んでしまっている自分が居た。
 いやいや、何を言っている。あいつは私から騎士の誇りを奪った男だ、いわば盗人が盗品を返したようなものだぞ、感謝を感じるなんておかしいだろう。
 何度も自分に言い聞かせるが、騎士としての価値を認めてくれたのも、ガレオンが初めてなわけで、気持ちが複雑に入り組んでしまう。

「ほだされてたまるか、私は人間界に戻らねばならないんだ。もっとそっちに意識を向けろセレヴィ・F・ラーゼフォン、私にはラーゼフォン家を背負う使命があるのだ」

 剣を手に入れたのは、人間界帰還への大きな一歩だ。脱走には武器が必要になる、それをわざわざガレオンがくれたのだ、愚かな奴め。
 ……だけど、脱走するとガレオンを裏切る事になる。約束を反故するのは、騎士道に反してしまう……。

「いやいやいや、魔王と守る約束などあるものか。セーフだセーフ、敵との約束なんぞあってないような物、騎士道的にセーフだ」

 欺瞞である。ともあれ剣を提げ、セレヴィは顔を上げた。
 今日は休日、貴重な脱出ルートを探す時間だ。ちょっとずつ、出来る事から始めていくのが、帰還への一歩になる。ただ、ガレオンも休日だから、蜂合わないよう注意しないと。
 気を引き締め、セレヴィは扉を開けた。




「ういーっす、おはよーございやーっす。あ、髪切った?」




 そしてすぐ閉じた。

「ってうぉーい! 折角フレンドが来たのに開始五秒でクローズザドアはねーっすよ!」
「ええいオープンザドアするな! 朝っぱらから面倒くさい奴が来てうんざりなんだ!」
「いーじゃねーっすか、休みくらい朝から気分明るくしていきやしょーよ。主様からも「お前は毎日頭が休日で羨ましい」って褒められてるんすから」
「皮肉だろうがっ、どれだけポジティブシンキングなんだお前はっ!」

 結局根負けして部屋に入れてしまった、朝からマステマは濃すぎる。
 彼女も休日のようで、オーバーオールのラフな格好をしている。部屋を見渡すと、マステマはしたり顔になり、

「ちゃーんと綺麗に部屋、使ってるんすねー。元貴族様だから掃除もできねーもんだと思ってたんすけど」
「騎士として、自分の事くらい自分でする。当然だろう」
「おーおー、主様の騎士になって張り切ってますなー雑魚のくせにー。あーたの剣で斬れるのなんて藁束がせーぜーじゃねーっすかー? ニンジン乱切りにすんのがせーいっぱいじゃねーっすかー? つーか腕力ゴリラなんだから殴った方が強いんじゃねーっすかぁー? んーーーーーーーーーーーーーーーーー?」




 げ ん こ つ!




「殴るぞ」
「殴ってから言わんでくれっす……あーたマジ腕力ゴリラじゃねーっすか……」

 マステマの頭にまずそうなお餅がぷくー。調子に乗りすぎである。
 朝から騒がしいダークエルフだ、なんか強制的に元気を引っ張り出された気がする。

「それで、何の用だ」
「あーしも休みなんすよ、暇だし一緒に出掛けねーっすか? あーた休みでも城に閉じこもりっきりっすよね、そんなじめーっとした休日過ごしてたら頭にキノコ生えるっすよ」
「お前の頭の中にはさぞかし綺麗な花が生えてそうだな」
「いやーそれほどでもー」
「褒めてないっ!」
「つーか、あーたせっかく初任給出たんだし、ちょっとくらい遊んだらどーっすか。ぜーたくしても罰当たらねっすよ」
「豪遊する趣味はない、騎士たる者質素倹約を是とし、貴族として模範ある行動を慎まねば……」
「はいはい、くどくど言ってねーで、先輩の言う事は素直に聞けっすよ。どーせほっといたら、また城からの脱出ルートでも探す無駄な努力するに決まってるっすから」

 セレヴィはどきりとした。マステマはにまりとし、

「気付いてねーとでも思ったっすか? あーた隠し事できねーっすもん、行動があからさますぎて笑えるっす。とーぜん、主様も知ってるっすよー?」
「なら、なぜ放置しているんだ……」
「必要ねーからっす、どーせあーたはこっから出られねーっすもん。つーか、人間界に戻ってどーするつもりっすか? 自分でもわーってるっすよね、一ヶ月も行方不明になって、しかも魔族になっちまった奴が戻っても、どーにもならねー事くらい」
「それは……分からないだろう。意外と何とかなるかもしれないし……何より私は、ラーゼフォン家を背負う者としての責務が……」
「かーっ、どーしてそんなに貴族の地位に拘るんすか? どー考えても、こっちの生活の方が快適だと思うんすけどねー」

 何も言い返せなかった。確かにここの生活はとても快適だ。皆優しいし、騎士としての役割も貰えたし、やりたい仕事もやれているし、人間界なんかよりも、はるかに過ごしやすい世界だ。
 だからこそ心が揺らぐ、人間界への未練が薄れる、家への拘りも消えそうになる……数々の幸せが、セレヴィの意思を削いでいた。
 だって、人間界に私の居場所なんか……。

「いや! 違う! 私は誇り高き騎士の名家、ラーゼフォンの娘! 父と母の名を汚すわけにはいかんのだ! だから、なんとしても私は……取り戻さねばならんのだ……!」
「んな搔き消えそうな声で言われても説得力ねーっすよ。要するに意地張ってるだけっすよね、なんかわかんねー肩書に縛られてるだけじゃねーっすか。結局あーたは、人間界に居る頃もずーっと奴隷だったわけっすか。貴族の名に縛られたど・れ・い♪」

「違う……私は貴族……騎士の……!」
「泣きそうにならんでくれっすよ、ちょっち言い過ぎたっす、すまねっす。からかうのはここまでっす、ほれ街に出るっすよ。どっちみち無駄な時間になるなら、楽しく無駄な時間を過ごすっす」

 マステマに押し負け、強引に連れ出されてしまった。
 まぁ、今日くらいいいだろう。マステマのせいで、やる気も失せてしまった。仕事抜きで城下町を歩くのも、また一興か。
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