「くっ、殺せ!」と屈服した女騎士を拾ったので虐待することにした。

歩く、歩く。

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17話 再度引き回しを行い、脱走の意思を削いでいく

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 マステマの言葉を借りるわけではないが、城下町へ遊びに出るのは初めてだ。
 改めて見てみると、本当に活気に溢れた街だ。まだ訪れていないエリアも沢山あるし、どこへ行けばいいのか迷ってしまう。

「あーた、市場行った事あるっすか?」
「仕事で何度か。だがじっくり見た事はないな」
「ならまずはそこ行くっす、適当に見てるだけでも楽しーっすよ」

 マステマはステップを踏みながら先に行ってしまう。随分と機嫌がいいようで、とても楽しそうだ。
 市場には様々な露天が並び、色んな物が売っている。食品は勿論、工芸品や古本、花等々、つい目移りしてしまう。
 屋台も数多く並んでいて、いい匂いが漂っていた。そういえば、朝食を食べずに来ていた。

「んっ。んんんんっん」

 マステマがクレープを差し出した。チリソースに大きなソーセージを巻き付けた豪快な一品。彼女もがっぷり咥えていて、何を話しているのか分からない。

「んっんー、んんっんー」
「口に突っ込んでる物どうにかしてから話せ……なんだ、食えと?」
「んー、んんんっんん、んんんんん」
「だからまず飲み込め、お前わざとやってるだろ」

 気持ちはありがたいので貰うけど。
 クレープだけに留まらず、マステマは次から次へと屋台を回っては、セレヴィに食い物を運んでくる。量が多すぎてとても食べきれなかった。

「ふごふご、ふごふごふーご、ふごごっごー」
「牛串咥えながらしゃべるな、それよりいつまで食ってるつもりだ」
「いーじゃねーっすか、うみーんっすから。あーたはもうギブっすかー?」
「お前の胃がおかしいんだ、何品食べた? 覚えているだけでも三十品は超えるぞ」
「まだ三分くらいしかいってねーっすよ」
「ダークエルフの胃は化け物か……!?」

 結局その後も十品を食いつくしてしまった、恐ろしい容量である。
 市場を抜けて市街地に出ると、またマステマが腕を引いてくる。連れてこられたのは、大衆浴場だ。

「こんな日の高い内から風呂か?」
「高い内だからこそ入るんすよー、いいもんすよー、ぜーたくな気分味わえるっすから。ほれとっとと入るっす」
「おいこら、だから無理やり引っ張るなと……もういい」

 何度言っても無駄だ、諦めよう。
 大理石で作られた浴場内は明るく、開放的な空間になっている。真昼間から、たっぷりのお湯に満たされた浴槽に、思い切り足を伸ばして浸かる。確かに贅沢だ、しかもこれが無料で利用できるというのだから驚きだ。

「ふはー、いー気分っすよねー。どーっすか? 昼風呂いいもんっすよ」
「まぁ、悪くはない」
「まーたまたぁ素直じゃないんすからぁ。にしても貧乳かと思ったっすけど、へぇこれはまた、意外と……よーよーねーちゃん、いー体してるっすねぇー」
「オヤジかお前は……ひゃん!? 何をする!?」
「うーんやっぱり中々のもん持ってるじゃねっすかぁ、着やせするタイプとは見抜けなかったっす。でもあーしの方がでかかったっす(ドヤァ)」
「胸で女の価値は決まらんからな(イラッ)。にしても……綺麗な体になったものだ」

 魔界へ来る前、セレヴィの体は古傷だらけだった。騎士として多くの現場に駆り出される内に蓄積された傷だ。
 その全てが消えているのだ。体が作り変えられた副作用で、傷跡が取れたらしい。
 いかに騎士でも年頃の女。セレヴィにとって傷は、大きなコンプレックスだった。そのせいだろうか、綺麗な肌を見る度に、セレヴィは喜びを感じていた。

「自分が女である事を、思い出したよ」
「なぁにを今さら。ほれ、髪洗ってやるっすからこっち来るっす」

 言われるがまま、マステマに洗髪される。流石はメイド長と言った所だろうか、性格はがさつなくせに丁寧な手つきで、気持ちよかった。

「思い出すっすねー、あーたが来た時もあーやって頭洗ってあげたっすよねー。いやー懐かしーっす」
「たった一ヶ月前の話だろう、懐かしむには最近過ぎる」
「いーじゃねーっすかー、あーしらがソウルフレンドになった記念すべき瞬間っすよー」
「いつ誰が誰と友人になったんだ?」
「まーたまたぁ、満更でもねーくせにー」

 否定はしなかった。魔界に来て日が浅いセレヴィにとって、気兼ねなく話せるのは彼女だけだから。少々、いやかなり、否相当うざったいが、騒がしい彼女のおかげで孤独を感じずに済んでいた。
 口には出さないけど。だって言ったら絶対調子づくだろうから。

  ◇◇◇

「っかー! 昼酒サイコーっすねぇー、この一杯のために生きてるっすー」

 浴場から出た後は酒場に連れ込まれ、ビールを酌み交わしていた。
 風呂の次は酒、らしさ満点と言うかなんと言うか。ぐびぐびジョッキを一気飲みする様はメイドというより工事現場のおっさんである。
 日の高い内からアルコールなんて、騎士としてこんな背徳許されるのだろうか。

「何ぼさーっとしてるんすか、泡消えちゃうからとっとと飲んだ飲んだ」
「あ、ああ……」

 促されるまま飲んでしまい、チョリソーをぱくり。これが妙に美味かった。
 悪い事をしているのに、なんだか楽しいな。

「あーた、全然遊び慣れてねーんすねぇ。人間界に居た頃何してたんすか?」
「騎士としての仕事と、家の運営だな。休みと呼べるような時間は、なかったよ」
「まだ若いのに灰色の人生送ってたんすねぇ、貴族ってもっと気楽なもんかと思ったっすけど。ほら、狩りしたり美術品買って観賞したり」
「まぁ、そうしている者達が居るのは確かだ。ただ、私の場合家の事情がな」

 目を伏せたセレヴィは、ジョッキを一気に煽った。
 セレヴィには余裕なんか無かった。若くしてラーゼフォン家を背負う立場となり、独り必死になって戦っていたから。
 つい、表情が曇ってしまう。思い出すのは、暗闇の中で溺れそうになるような、息苦しい記憶ばかりだから。

「聞いちゃいけねー事聞いちまったっすかね」
「いや、気にしないでくれ」
「じゃ気にしないっすわ」
「軽く受け流されるのもそれはそれでむかつくが」
「あーためんどくせー女っすねぇー、どーすりゃよかったんすかー? 頭でも撫でてほしかったんすかー?」
「要らないよそんな気遣い。そんな事をされるより、書店に案内してもらったほうが助かる」
「書店? 別にいっすけど」

 という事で本屋へ向かい、目的の小説を探した。
 確か、今日が発売日だと聞いていたが。

「店主、放浪者シリーズの新刊は置いてあるか」
「あるよ。残り一冊、運がよかったねお姉ちゃん」
「よかった、それをくれ」

 魔界に来てから、セレヴィはある小説シリーズに嵌っていた。タイトルはと言うと。

「「放浪者バルバトス」っすか? 意外っすね、堅物なあーたがこんな俗っぽいタイトル読むなんて」
「図書室にあったのを読んでから、気に入ってしまったんだ。荒っぽくも人情味に溢れた主人公が魅力的で、つい読み込んでしまってな」
「へー、有名なシリーズっすけど、あーし活字嫌いだから読んだ事ねーんすよね」
「最高だぞ、毛嫌いせず読んでみろ」

 表紙には、身の丈を越える櫂型の木刀を担いで誇らしげに胸を張る、袴姿の男が描かれている。これが主人公のバルバトスだ。
 自由気ままに世界を旅する彼は、困っている人を放っておけない正義感の強い男だ。行く先々で様々な事件に巻き込まれ、時には首を突っ込んで、豪快に解決していく漢気溢れる物語である。

「彼は酒好きでな、街に着くととにかく酒を求めるんだ」
「ほーん、あんな感じに?」

「おい店主、酒を出してくれ」

「そうだ。人たらしな性分で、酒を飲んでいるといつの間にか多くの者達に囲まれてな」
「ふーん、あんな感じに」

「やぁドンさん! 久しぶりだな」
「元気してたか、調子はどうだい」
「まぁぼちぼちだ、そっちは奥さんと仲良くやってるのか?」

「そうそう。そしたら自然と厄介事の話が入ってきて、偽悪的な台詞を残しながらそれを解決しに行くのさ」
「へーん、あんな感じに」

「いやー、この間怒らせちまってなぁ。全然口も利いてくれなくなっちまったんだ。ドンさんどうにかしてくれねーかなぁ」
「馬鹿野郎、自分の女くらい自分でどうにかしろ。だがまぁ、女がいつまでも不機嫌なままってのは、男として放っておけないな。しかたねー、頼まれてやるよ」

「ああ、あんな感じに、自分から面倒事に首を……突っ込んで……」

 ぽとりと本が落っこちた。
 視線の先に居るのは、身の丈を越える櫂型の木刀を背負い、無造作な髪型のドンさんと呼ばれている袴姿の男。もとい、




「なんだ女、俺をじろじろ見やがって。この色男に惚れちまったか?」
「……何をやってるんだガレオンんんんんんんんん!?」




 コスプレした魔王ガレオンであった。
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