「くっ、殺せ!」と屈服した女騎士を拾ったので虐待することにした。

歩く、歩く。

文字の大きさ
28 / 93

28話 酷使し続けた女騎士の様子がおかしい

しおりを挟む
 サーカスの本隊が合流し、いよいよ公演が目前に迫っていた。
 準備は万端だ、セレヴィは息まきながらテントを見上げた。
 赤と黄色を織り交ぜた、明るい色合いのテントだ。周囲には出店が並び、動物を展示するための檻も用意されている。あとは飾りつけをしていけば完成だ。
 自分が作り上げた計画が形になった気がして、ちょっと嬉しくなってくる。

「いっやー、なんかわくわくしてくるっすねー」
「ああ……で、マステマ。仕事は大丈夫なのか?」
「リモートしてるから問題なしっす。こんだけでかい代物前にして城にこもってらんないっすよー」
「ガレオンにばれたら大変だぞ? 私は知らないからな」
「平気平気、見つかる前に戻ればいいっすから」
「ならその必要はなくなったな、丁度俺が来てやったんだから」

 マステマがぎくっとした。ぎこちない動きで振り向けば、そこにはガレオンが。

「い、いやー主様、別にさぼってるわけじゃねっすよ? ただちこーっとその、そう! 幹部として現場の状況を伺いに来たんすよ」
「下手な言い訳をするな聞き苦しい。まぁ、今回くらいは構わん。この後建設担当共に炊き出しする予定だ、そっちに回ってもらおう」
「うげー……どんだけ作りゃいいんすか~……」
「私も手伝うから、一緒に頑張ろう」

 マステマを励まし、ガレオンに頼んでいた事を聞こうとした。そしたら彼は小さく笑い、

「言う必要はない、とっくに準備はできている」

 ガレオンは指笛を鳴らした。そしたら麒麟を始めとし、ケルベロスやフェニックス、リヴァイアサンと言った幻獣が一斉にやってきたではないか。
 彼個人が調教した幻獣達だ。人を傷つけないよう教え込まれているから、展示しても問題ない。

「こんな物か? 必要ならまだ出せるが」
「充分以上です、ありがとうございます」
「礼はいらない。進捗を教えろ」
「はい!」

 セレヴィは張り切って説明に回った。内装もチラシも、チケットの手配も完璧に済ませている。後は領民達に分配するだけだ。

「悪くないな、今のままなら滞りなく進められるだろう」
「修正点はありますか?」
「ない。完璧な仕事だ、よくやった」
「……! ありがとうございます」

 セレヴィは喜びをかみしめた。ガレオンから「完璧」の一言を引き出せたのがとてつもなく嬉しくて、飛び上がってしまいそうだ。

「だが油断するな、公演が全て終わるまでが仕事だ。不測の事態に備えておけ、必要な物や人員があれば工面してやる」
「はい!」
「おーいい返事っすねー。あーたもすっかりあーしら側に着いちゃって、主様の騎士も板についてきたみたいっすねー」

 マステマに小突かれ、少し気恥しくなる。気付いたら魔界へ来て半年近く、生活も仕事も安定し、この世界に馴染んでいた。
 炊き出しを終えた後、チラシの配布に移る。城下町のあちこちにも貼り出して、大々的に宣伝して回った。
 人任せにするだけでなく、セレヴィ自身も方々に働きかけていく。街の人々は彼女に手を振り、応援の声をかけていた。

「ほら、これ食べて頑張りな!」

 八百屋がリンゴを投げ渡してきた。そしたら幾人も彼女に差し入れし、両手一杯のプレゼントをもらってしまった。
 セレヴィが頑張ってきたのを、皆知っていた。努力する彼女は次第に受け入れられて、今では城下町の人気者だ。
 いつしかセレヴィも笑顔が増えていた。多分人間界に居た頃より笑っているかもしれない。魔界での一瞬一瞬全てが満ち足りていて、心に抱えていた重しも薄れていた。
 やれやれ、ラーゼフォン家の令嬢たる私が、困ったものだ。

「……よし」

 セレヴィはガレオンへの感情を封印し続けていた。
 自分が魔王へどういった想いを抱えているのか、彼女は自覚しつつある。でも、今それを口にするのはセレヴィ自身が納得しないし、ガレオンだって認めはしないだろう。

 だから、自分もガレオンも納得できるような成果を上げたら、この想いを伝えるんだ。

 もう少しだ、ゴールが見えてきたぞ、踏ん張れ私。
 リンゴをかじり、セレヴィはラストスパートに駆け出した。

  ◇◇◇

 午後はガレオンとブラフマンによる話し合いに参加し、公演の最終調整を行った。
 ここでもガレオンがサポートに回ってくれたので、円滑に話が進んでいく。ブラフマンともかなりの信頼関係を築けてきたな。

「いやはや、こんなにも素敵な舞台を用意していただいて。セレヴィさんには感謝しかありませんよ」

 二人のために紅茶を淹れていると、ブラフマンはにこやかに礼を言ってきた。
 セレヴィは首を振り、

「私だけではありません。ガレオン様を始め、多くの方々が力添えをしていただいたからこその成果だと思います。私一人ではきっと、ここまでできなかったと思います」
「謙虚なお方だ、私どもの若い衆にも見習ってほしいくらいです。公演まであと数日、緊張してきますね。特にここまで完成度の高い舞台で行うのは、初めてですよ」
「関係ないだろう。どんな舞台だろうと、いつ開こうと、入る連中は全員初めての奴らしかいない。なら何をすればいいか、お前は分かるだろう」

 ガレオンなりの激励にブラフマンは頷いた。
 その後は通常業務を片付け、あっという間に終業になる。最近は時間が経つのがすごく早い、もっと仕事したいのにな。

「だから休むのも仕事だと言っているだろう、無理しすぎて倒れたらどうするんだ」
「大丈夫だ、自己管理はちゃんとしている。早寝早起きしているし、三食きちんと食べてるし、運動もしてるし。そっちこそ、明日は新月だぞ。体調が悪くなる日なんだし、注意しておかないと」
「俺の心配をしている場合かよ」
「お前の騎士だからだ」
「もう何度聞いたセリフだか忘れたな。言っておくが、また前みたいに俺の部屋へ押しかけるなよ。不用意に男の部屋へ入るんじゃない」
「お前は変な気を起こしたりしないだろう。ちゃんと私だってわかっている」

 魔界に来てからずっとガレオンと一緒に居れば、いい加減彼の事も理解できる。
 ガレオンは女性に対して紳士的だ、間違っても自分の欲望のまま、女性に手を出したりしない。
 そう信じられるだけの信頼を、セレヴィは抱いていた。

「全く、俺も見くびられたもんだな。先に戻る、夜更かしするなよ」
「そっちこそ。それと、放浪人バルバトスはいつ出るんだ?」
「現在執筆中だ」

 ガレオンは肩をすくめ去っていく。セレヴィも夕飯をどうするか考えつつ、城内を歩いた。
 そしたら、小さな咳が出た。
 一度だけでなく、二度三度。すぐに収まったが、喉の奥がひりつく咳だった。加えて、微かな寒気も感じる。

「……いや、別におかしくはない、よな?」

 ほんの一瞬の不調だったから、気にしないようにした。だけどもなぜだろう、嫌な予感がする。
 そう独り言ちつつ、またセレヴィは咳をした。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

処理中です...