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53話 誰かから覗かれている気がする
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「全く、勝手に私の体を弄って……」
「何度も謝ったじゃねっすか、まだ根に持ってるんすかー?」
「あのな、一声もかけずにやらしい事されていい気分するか?」
「喜ぶのはルシファーくらいのもんっすね、流石にやりすぎたっすわ」
昼休みの中庭で、へこへこ謝るマステマを睨み、セレヴィはため息を吐いた。
とはいえ、怒っているのは「勝手に体をいじくりまわされた事」に関してのみ。
三人から弄り回された時、不覚にもセレヴィは「悪くない」と思ってしまっていた。認めたくないが、ルシファーの気持ちがちょっとだけ分かってしまったのだ。
……こんな本音を明かせば絶対調子に乗るだろうから黙っていよう。つーかいじめられるのが好きになるとか、私ルシファー側の人間だったんかい。
「そーいや、ぼちぼち皇霊祭の時期っすねー」
「露骨に話題を変えたな。それで、皇臨祭とはなんだ?」
「年一の祝日っす。一年の半分を無事に過ごせた事を感謝して、残りの半分も無事に過ごせるよう頑張りましょうっつー目的の祭りっす。祭りの夜には灯篭を飛ばすんすけど、これがまた綺麗なんすよ。まーもう一つ、サブイベントもあるんすけど」
「サブイベント?」
「世話になった人達に感謝を込めて贈り物を渡すんすよ。特に若い奴らだと、その日に片思いしている相手にプレゼント送って告白するって風習があるんすよねー」
「風習と言うより慣例と言うべきじゃ?」
「まぁなんでもいいっす。それよか明らかに反応したっすよね」
否定はしなかった。何しろセレヴィの頭に、くっきりとした光景が浮かんだから。
「ちなみにあとどれくらいだ?」
「一ヶ月っすかね。あーた分かりやすいっすよねー、超やる気になってるじゃねっすか。まーあーしは応援してるっすよ、精々頑張る事っすねー」
マステマは呑気に応援している。ルシファーもそうだが、セレヴィの背を押す姿勢に、彼女は少し首をかしげていた。
二人にとってガレオンは絶対的な君主だ。魔界に来て半年程度のセレヴィが好意を寄せるなんて、立場上認められるわけがない。なのに二人は、ガレオンとの交際を認めるばかりか、後押しするばかり。
願ったりではあるのだが、「どうして私をそんなに推しているのか」と疑問を感じてしまうのだ。
「あーしへの贈り物も期待してるっすよー。普段あーしに随分世話になってるじゃねっすか」
「そっちこそ、私への品をどうするのか楽しみにしているぞ」
ノアやルシファー、アバドンへも考えておこう。なんて思った時に、アバドンが通りかかった。箱を何段も重ねて抱えていて、甘い香りが漂ってきた。
「おう豚ちゃんじゃねっすか。何いそいそしてるんすか?」
「おいこら失礼だろ」
「別に構わんアル、豚は豚でも料理上手の豚アルからして」
よく分からないけど、それでいいんだ。やっぱ大人だアバドンは。
「ジャム作るためサクランボ入荷したアル。明日の朝食に出すアルからちゃんと食べるヨロシ。お残しは許さんアルヨ」
「へぇ、サクランボジャムか。昔母上がよく作ってくれたな」
「ワタシのジャムも美味しいアルよ、楽しみに待つアル」
「にしても随分多いっすねぇ。ねね、一個貰ってもいっすか?」
「取ってから言うなアル」
サクランボをくすねたマステマは、何故か得意げに茎ごと食べた。
待つ事二十秒、「じゃーん」と見せつけてきたのは、舌で結んだ茎だった。
「どーっすか? あーしの特技っすよー」
「随分しょぼい特技だな、それがどうした」
「あーん? 自分が出来ねーからって人の特技けなすのはどーかと思うっすよー?」
「出来ないと誰が言った?」
挑発に乗り、セレヴィもサクランボを取った。(だから勝手に取るんじゃないアルbyアバドン)
茎だけ千切って口に含むと、三秒で結んでマステマに見せつけた。
あんぐりとするマステマに、セレヴィは勝ち誇った笑みを浮かべた。
「子供の頃から得意でな、調子が良ければ二秒で出来るぞ」
「ワーオ……てくにしゃーん」
「テクニシャン?」
「あーた知らねっすか? サクランボの茎舌で結べる奴はキスが上手いんすよ」
「……だからどうした?」
「キス上手な人は大抵床上手なんすよ、知らねんすかー?」
「は!? そんなの迷信だろう、なぁアバドン!」
「ワタシに聞かれても困るアル」
キスが上手けりゃ床上手だなんて、それではまるでマステマのようにはしたない女のようではないか。マステマなら遊んでそうだし上手そうなのは分かるが、自分が彼女と同じだと思われるのはいたって心外かつ遺憾であった。
「今物凄くあーしに失礼なモノローグが流れたような気がするっすけど、まぁそう言う事っす。貞淑そうな顔しておきながら……よもやよもやっすねぇ(ニヨニヨ)」
「何私をはしたない女みたいに言ってるんだ! そうだよなアバドン、私は決してはしたない女じゃないよな!?」
「ワタシの料理綺麗に食べてくれる上客アル。食い方汚いマステマの方がはしたないアル」
「何しれっとあーしをディスってんすか豚のくせに!」
「確かにマステマは食い散らすって感じだしな、メイド長ならマナーくらい覚えたらどうだ」
「飯くらい好きに食わせてくれっす、ってなんであーしの糾弾にすり替わってんすか!」
(……ありがとうアバドン)
小声で礼を言うと、アバドンはウインクしてきた。
彼が話を逸らしてくれて助かった。アバドンはセレヴィが困っている時に手を貸してくれるお父さんみたいな豚だ。
「中庭で何を騒いでいる?」
そんな時にガレオンが通りかかった。彼はサクランボとセレヴィを交互に見て、何かを悟ったように頷いた。
「マステマ、昼休みとは言えセレヴィをからかいすぎるな。場合によってはセクハラになるぞ」
「なんであーしに集中砲火なんすか」
「普段の行いを思い返してみろ」
「業務を完璧に行うスーパーメイドの姿が浮かんだっす」
「否定はせん。アバドン、ひとつ貰うぞ」
「なんで皆勝手に取ってくアルか」
ガレオンは茎を口に含み、すぐに出した。……綺麗に蝶結びにして。
時間にして0,1秒である。目を丸くするセレヴィとマステマの前で、更に舌だけで茎をほどいてしまう。
「ま、上には上が居るというわけだ。ジャムを楽しみにしているぞ」
「お任せアルヨ」
悠然と去っていくガレオンとアバドンを見送り、セレヴィとマステマは……
『……ジーザス……!』
こう言うのが精いっぱいだった。
◇◇◇
「主様にしては珍しい行為だったアルね、どんな風の吹き回しアルか」
「たまにはふざけてみたくなっただけだ」
「そうアルか。あの子に随分甘くなったアルな」
否定はできなかった。アバドンは箱を持ち直し、
「いい事アル。主様にも弱さの一つくらいあっていいアルよ。自覚するヨロシ、あの子は既に主様の弱点になってるアル」
「……ああ、分かっている」
「イナンナ様が心にひっかかるアルか」
一瞬ガレオンは肩を揺らした。アバドンはため息をつき、
「主様が一途なのは知っているアル、けどいつまでも引き摺り続けるのは、イナンナ様としても本意じゃないアル。イナンナ様も主様の足枷になるのは望んでいないアルよ」
「俺が説教をされねば理解できない阿呆だとでも思っているのか?」
「失礼したアル」
「俺がセレヴィに入れ込めば、あいつが狙われるリスクが高くなる。俺自身の個人的な感情で、セレヴィを危険に晒すわけにはいかない。特に、奴が近くに居る可能性が高いからな」
ノアの目撃情報から捜索を行っているが、未だに影すら捉えられていない状況だ。そもそも、相手は狡猾かつ慎重な性格。簡単に見つかるとは思っていない。
俺は二度と、大事な奴が目の前で死ぬのを見たくないだけだ。
セレヴィまで貴様に奪われるつもりはない、俺の弱点となったのなら、全てを賭けて守ればいいだけだ。
「とっとと出てこい……ヒガナ……!」
◇◇◇
『残念だが、まだ出るわけにはいかないのさ』
ガレオンの声に答えるように、ヒガナはくつくつと笑った。
ノアはいい子だ。既にガレオンのメイドとして溶け込み、彼の周囲に居る者にヒガナの仕掛けを伝播させている。
ノアには、接触した者の感覚をヒガナと繋げる仕掛けを施している。これによりヒガナはガレオンの様子をあらゆる者の目を通し、四六時中監視できる状態にしているのだ。
それにしても、なんて幸せそうなんだろう。
特にガレオンとセレヴィ。二人の様子を観察しているだけで、尊みで笑みがこぼれてしまう。初々しいまでの恋愛模様はヒガナが最も好きな物だ。
セレヴィも贈り物を喜んでくれたようだし、ヒガナとしても嬉しい限りだ。セレヴィには幸せになってもらいたいから、一番の親友であるノアを連れて来たんだ。
人の幸福とはなんと美しいのだろう。生の喜びに溢れ、希望に満ちた光景を見ているだけで、こっちまで胸が満たされる思いだ。
そんな、そんな幸せに達した、その人達が最高に輝いている瞬間をぶっ壊す時が……。
『快感、なんだなこれが』
そのためにはドラマが必要だ。ノアとの再会、そこから始まるセレヴィの奮起、背を押すガレオン。物語はカタルシスが無ければならないのだ。
二人が幸福になる姿を見たいから、ノアを放った。彼女が死なれては困るから、希望を持たせるためにセレヴィを感知できる力を与えた。物語には敵役が必要だから、あえてガレオンに自分の存在を明かした。
何もかも思い通りに回っている。しかもヒガナが手を下したのは最初だけ、あとは勝手にガレオン達が動いてくれているんだ。
『人は誰しも、幸せになるために動き、生きている。だって楽だものね、幸せになるのって凄く楽しいから頑張れるものね。頑張る姿は大好きだよ、生きている実感をこっちも感じられるから、物凄く感情移入できる。こっちも「頑張れ!」って応援出来て、達成できた時の喜びを共感できる。だからこそ、だからこそだからこそ! 全部が台無しになった時の絶望に満ちた顔が最高に映えるんだ!』
ガレオンからイナンナを奪った時の顔と言ったら、今でも記憶に残っている。しかもヒガナは決して手を下していない、全部彼らが勝手にやってくれた事。
まるで全部が自分の意のままに動いているかのような全能感がたまらない。また彼は、ヒガナに喜劇をプレゼントしてくれるだろう。
だからもっともっと幸せになってくれよ二人とも。こっちも君達の幸せを心から願っているのだから。
「何度も謝ったじゃねっすか、まだ根に持ってるんすかー?」
「あのな、一声もかけずにやらしい事されていい気分するか?」
「喜ぶのはルシファーくらいのもんっすね、流石にやりすぎたっすわ」
昼休みの中庭で、へこへこ謝るマステマを睨み、セレヴィはため息を吐いた。
とはいえ、怒っているのは「勝手に体をいじくりまわされた事」に関してのみ。
三人から弄り回された時、不覚にもセレヴィは「悪くない」と思ってしまっていた。認めたくないが、ルシファーの気持ちがちょっとだけ分かってしまったのだ。
……こんな本音を明かせば絶対調子に乗るだろうから黙っていよう。つーかいじめられるのが好きになるとか、私ルシファー側の人間だったんかい。
「そーいや、ぼちぼち皇霊祭の時期っすねー」
「露骨に話題を変えたな。それで、皇臨祭とはなんだ?」
「年一の祝日っす。一年の半分を無事に過ごせた事を感謝して、残りの半分も無事に過ごせるよう頑張りましょうっつー目的の祭りっす。祭りの夜には灯篭を飛ばすんすけど、これがまた綺麗なんすよ。まーもう一つ、サブイベントもあるんすけど」
「サブイベント?」
「世話になった人達に感謝を込めて贈り物を渡すんすよ。特に若い奴らだと、その日に片思いしている相手にプレゼント送って告白するって風習があるんすよねー」
「風習と言うより慣例と言うべきじゃ?」
「まぁなんでもいいっす。それよか明らかに反応したっすよね」
否定はしなかった。何しろセレヴィの頭に、くっきりとした光景が浮かんだから。
「ちなみにあとどれくらいだ?」
「一ヶ月っすかね。あーた分かりやすいっすよねー、超やる気になってるじゃねっすか。まーあーしは応援してるっすよ、精々頑張る事っすねー」
マステマは呑気に応援している。ルシファーもそうだが、セレヴィの背を押す姿勢に、彼女は少し首をかしげていた。
二人にとってガレオンは絶対的な君主だ。魔界に来て半年程度のセレヴィが好意を寄せるなんて、立場上認められるわけがない。なのに二人は、ガレオンとの交際を認めるばかりか、後押しするばかり。
願ったりではあるのだが、「どうして私をそんなに推しているのか」と疑問を感じてしまうのだ。
「あーしへの贈り物も期待してるっすよー。普段あーしに随分世話になってるじゃねっすか」
「そっちこそ、私への品をどうするのか楽しみにしているぞ」
ノアやルシファー、アバドンへも考えておこう。なんて思った時に、アバドンが通りかかった。箱を何段も重ねて抱えていて、甘い香りが漂ってきた。
「おう豚ちゃんじゃねっすか。何いそいそしてるんすか?」
「おいこら失礼だろ」
「別に構わんアル、豚は豚でも料理上手の豚アルからして」
よく分からないけど、それでいいんだ。やっぱ大人だアバドンは。
「ジャム作るためサクランボ入荷したアル。明日の朝食に出すアルからちゃんと食べるヨロシ。お残しは許さんアルヨ」
「へぇ、サクランボジャムか。昔母上がよく作ってくれたな」
「ワタシのジャムも美味しいアルよ、楽しみに待つアル」
「にしても随分多いっすねぇ。ねね、一個貰ってもいっすか?」
「取ってから言うなアル」
サクランボをくすねたマステマは、何故か得意げに茎ごと食べた。
待つ事二十秒、「じゃーん」と見せつけてきたのは、舌で結んだ茎だった。
「どーっすか? あーしの特技っすよー」
「随分しょぼい特技だな、それがどうした」
「あーん? 自分が出来ねーからって人の特技けなすのはどーかと思うっすよー?」
「出来ないと誰が言った?」
挑発に乗り、セレヴィもサクランボを取った。(だから勝手に取るんじゃないアルbyアバドン)
茎だけ千切って口に含むと、三秒で結んでマステマに見せつけた。
あんぐりとするマステマに、セレヴィは勝ち誇った笑みを浮かべた。
「子供の頃から得意でな、調子が良ければ二秒で出来るぞ」
「ワーオ……てくにしゃーん」
「テクニシャン?」
「あーた知らねっすか? サクランボの茎舌で結べる奴はキスが上手いんすよ」
「……だからどうした?」
「キス上手な人は大抵床上手なんすよ、知らねんすかー?」
「は!? そんなの迷信だろう、なぁアバドン!」
「ワタシに聞かれても困るアル」
キスが上手けりゃ床上手だなんて、それではまるでマステマのようにはしたない女のようではないか。マステマなら遊んでそうだし上手そうなのは分かるが、自分が彼女と同じだと思われるのはいたって心外かつ遺憾であった。
「今物凄くあーしに失礼なモノローグが流れたような気がするっすけど、まぁそう言う事っす。貞淑そうな顔しておきながら……よもやよもやっすねぇ(ニヨニヨ)」
「何私をはしたない女みたいに言ってるんだ! そうだよなアバドン、私は決してはしたない女じゃないよな!?」
「ワタシの料理綺麗に食べてくれる上客アル。食い方汚いマステマの方がはしたないアル」
「何しれっとあーしをディスってんすか豚のくせに!」
「確かにマステマは食い散らすって感じだしな、メイド長ならマナーくらい覚えたらどうだ」
「飯くらい好きに食わせてくれっす、ってなんであーしの糾弾にすり替わってんすか!」
(……ありがとうアバドン)
小声で礼を言うと、アバドンはウインクしてきた。
彼が話を逸らしてくれて助かった。アバドンはセレヴィが困っている時に手を貸してくれるお父さんみたいな豚だ。
「中庭で何を騒いでいる?」
そんな時にガレオンが通りかかった。彼はサクランボとセレヴィを交互に見て、何かを悟ったように頷いた。
「マステマ、昼休みとは言えセレヴィをからかいすぎるな。場合によってはセクハラになるぞ」
「なんであーしに集中砲火なんすか」
「普段の行いを思い返してみろ」
「業務を完璧に行うスーパーメイドの姿が浮かんだっす」
「否定はせん。アバドン、ひとつ貰うぞ」
「なんで皆勝手に取ってくアルか」
ガレオンは茎を口に含み、すぐに出した。……綺麗に蝶結びにして。
時間にして0,1秒である。目を丸くするセレヴィとマステマの前で、更に舌だけで茎をほどいてしまう。
「ま、上には上が居るというわけだ。ジャムを楽しみにしているぞ」
「お任せアルヨ」
悠然と去っていくガレオンとアバドンを見送り、セレヴィとマステマは……
『……ジーザス……!』
こう言うのが精いっぱいだった。
◇◇◇
「主様にしては珍しい行為だったアルね、どんな風の吹き回しアルか」
「たまにはふざけてみたくなっただけだ」
「そうアルか。あの子に随分甘くなったアルな」
否定はできなかった。アバドンは箱を持ち直し、
「いい事アル。主様にも弱さの一つくらいあっていいアルよ。自覚するヨロシ、あの子は既に主様の弱点になってるアル」
「……ああ、分かっている」
「イナンナ様が心にひっかかるアルか」
一瞬ガレオンは肩を揺らした。アバドンはため息をつき、
「主様が一途なのは知っているアル、けどいつまでも引き摺り続けるのは、イナンナ様としても本意じゃないアル。イナンナ様も主様の足枷になるのは望んでいないアルよ」
「俺が説教をされねば理解できない阿呆だとでも思っているのか?」
「失礼したアル」
「俺がセレヴィに入れ込めば、あいつが狙われるリスクが高くなる。俺自身の個人的な感情で、セレヴィを危険に晒すわけにはいかない。特に、奴が近くに居る可能性が高いからな」
ノアの目撃情報から捜索を行っているが、未だに影すら捉えられていない状況だ。そもそも、相手は狡猾かつ慎重な性格。簡単に見つかるとは思っていない。
俺は二度と、大事な奴が目の前で死ぬのを見たくないだけだ。
セレヴィまで貴様に奪われるつもりはない、俺の弱点となったのなら、全てを賭けて守ればいいだけだ。
「とっとと出てこい……ヒガナ……!」
◇◇◇
『残念だが、まだ出るわけにはいかないのさ』
ガレオンの声に答えるように、ヒガナはくつくつと笑った。
ノアはいい子だ。既にガレオンのメイドとして溶け込み、彼の周囲に居る者にヒガナの仕掛けを伝播させている。
ノアには、接触した者の感覚をヒガナと繋げる仕掛けを施している。これによりヒガナはガレオンの様子をあらゆる者の目を通し、四六時中監視できる状態にしているのだ。
それにしても、なんて幸せそうなんだろう。
特にガレオンとセレヴィ。二人の様子を観察しているだけで、尊みで笑みがこぼれてしまう。初々しいまでの恋愛模様はヒガナが最も好きな物だ。
セレヴィも贈り物を喜んでくれたようだし、ヒガナとしても嬉しい限りだ。セレヴィには幸せになってもらいたいから、一番の親友であるノアを連れて来たんだ。
人の幸福とはなんと美しいのだろう。生の喜びに溢れ、希望に満ちた光景を見ているだけで、こっちまで胸が満たされる思いだ。
そんな、そんな幸せに達した、その人達が最高に輝いている瞬間をぶっ壊す時が……。
『快感、なんだなこれが』
そのためにはドラマが必要だ。ノアとの再会、そこから始まるセレヴィの奮起、背を押すガレオン。物語はカタルシスが無ければならないのだ。
二人が幸福になる姿を見たいから、ノアを放った。彼女が死なれては困るから、希望を持たせるためにセレヴィを感知できる力を与えた。物語には敵役が必要だから、あえてガレオンに自分の存在を明かした。
何もかも思い通りに回っている。しかもヒガナが手を下したのは最初だけ、あとは勝手にガレオン達が動いてくれているんだ。
『人は誰しも、幸せになるために動き、生きている。だって楽だものね、幸せになるのって凄く楽しいから頑張れるものね。頑張る姿は大好きだよ、生きている実感をこっちも感じられるから、物凄く感情移入できる。こっちも「頑張れ!」って応援出来て、達成できた時の喜びを共感できる。だからこそ、だからこそだからこそ! 全部が台無しになった時の絶望に満ちた顔が最高に映えるんだ!』
ガレオンからイナンナを奪った時の顔と言ったら、今でも記憶に残っている。しかもヒガナは決して手を下していない、全部彼らが勝手にやってくれた事。
まるで全部が自分の意のままに動いているかのような全能感がたまらない。また彼は、ヒガナに喜劇をプレゼントしてくれるだろう。
だからもっともっと幸せになってくれよ二人とも。こっちも君達の幸せを心から願っているのだから。
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