「くっ、殺せ!」と屈服した女騎士を拾ったので虐待することにした。

歩く、歩く。

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68話 セレヴィが甘えてくるようになった

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「セレヴィ様、筋肉落ちましたよね」

 セレヴィの髪を梳きながら、ノアはそう言った。
 試しに二の腕をつまんでみると、むにっとした感触が返ってくる。セレヴィは苦笑し、

「朝の鍛錬は続けているが、強度を落としているからな。鎧も着なくなったし、以前のような力仕事もしなくなった。体が鈍っても仕方ないさ」
「ノアも同じですっ。けど体力的にはかなり楽になったんですよねぇ、メイドのお仕事も慣れると楽しいですし、騎士よりこっちの方が向いてたみたいですっ。お給金もいいですしっ」
「そこ重要だな。ああ、こんなものでいいぞ」

 ノアに整えてもらった髪型を眺め、セレヴィは目を細めた。髪は大分伸びて、背中にかかるくらいになった。
 うなじで髪を纏め、荷物を手に取った。今日も今日とて、仕事が待っている。ガレオンと会える大事な時間だ。

「休日にすまないな、支度の手伝いをしてもらって」
「いいんですっ、セレヴィ様のお傍に居られるのがノアの喜びですから。人間界よりもセレヴィ様と一緒に居られて、毎日充実してますっ」
「そう言ってくれると私も嬉しいな。じゃあまた、時間がある時に頼んでもいいか?」
「勿論ですっ! ところでセレヴィ様はいかがですか? 今の生活、充実してますかっ?」
「そんなの決まってるだろう」

 セレヴィは柔らかく微笑み、ペンダントを握った。

「人生で今が一番幸せさ」

  ◇◇◇

 執務室に入る前、セレヴィは前髪を撫でつけた。
 ガレオンに会う前の最終チェックだ。彼にはいつでも、最高の自分を見てもらいたい。いじらしい乙女心の表れだ。
 さて行くかと頬を叩くなり、肩を叩かれる。「ぴっ!」と声を上げて振り向くと、

「入るのに随分手間をかけているな」
「ガレオン……今日は珍しく遅いな」
「ふん、兵どもから何度も声を掛けられてな。お前との事でだ。道中、変に絡まれたりしていないか?」
「とりあえず何もないよ。……中、入ろう?」

 廊下で立ち話をしていると落ち着かない。こう、誰かから覗かれているような気がして。
 執務室内で二人きりになるなり、セレヴィはガレオンの背中にもたれた。ぐりぐりと頭をこすりつけると、ガレオンは困り顔で肩をすくめた。

「職場で甘えるなと言っただろう」
「頼む、少しの間こうさせてくれ」
「まぁ、構わんか。ほどほどにしろ」

 ガレオンは意外と甘い男だ。セレヴィが満足するまでされるがままにしてくれる。
 好きな男に触れているだけで、こんなにも幸福感で満ちるなんて。貴族の頃は許されなかった自由な恋愛を、セレヴィは心行くまで堪能していた。
 もっとガレオンに甘えていたい。と言うか丸一日いちゃつきたい。もっと言えばぎゅっと抱きしめてもらいたい。セレヴィは全身からハートを振りまき、全霊でガレオンを堪能していた。
 出来るならキスだってしてほしいが、それはちょっと高望みしすぎか。

「楽しむのはいいが、仕事に支障をきたすなよ」
「問題ないとも、昨日の時点で今日の用意は済ませてある。じゃないと、ガレオンに触れないからな」
「仕事の効率上がったのは喜ぶべきなんだろうが、なんか複雑な気分になるな。何はともあれ、いい加減満足しただろう。業務を始めるぞ」

 ガレオンが離れ、名残惜しさにセレヴィは頬を膨らませた。
 でもガレオンの言う通り、自分達の双肩に領民の生活が懸かっている。今は我慢すべきだ。
 困っている人々のために働く。両親から受け継いだラーゼフォン家の魂に懸けて、領民の期待に応えねば。
 気持ちを仕事モードに切り替え、セレヴィは仕事の支度をした。

「それでは、本日の予定をお伝えします」
「聞こう」

 ガレオンも素早く魔王の顔となる。二人の一日が、始まりを迎えた。

  ◇◇◇

 デスクワークを終えた後、ガレオンは城下町へ視察に出向いた。
 ここ暫く姿を見せていなかったからか、多くの人が集まってくる。ガレオンは一人一人に対応し、変わりがないか聞き込んだ。
 これで得た情報を全部記憶するのだからとんでもない男だ。領域内に住む全員の名前も憶えているのだとか。
 セレヴィも覚えるよう努力してはいるものの、城下町の住民だけで精いっぱいだ。スペックが違いすぎる。

「セレヴィ様もご機嫌麗しゅうようで、なによりです」

 セレヴィにも多数の人が握手を求めてくる。彼女も領民達から慕われるようになっており、街に出ればガレオンと同じくらいの人気を集めていた。
 魔界に来て以来、ずっと人々のために働き続けてきた結果だ。ひたむきな彼女の積み重ねが認められた証拠である。

「それにしてもセレヴィ様がガレオン様の伴侶となられるなんて、今でも驚きです」
「けれどもお似合いですからね、どうかガレオン様をよろしくお願いいたします」
「いや、あの……はい……」

 セレヴィは赤面した。ある馬鹿ダークエルフのせいで、二人の仲は領内全員に知れ渡っているのだ。
 ガレオンとしてはセレヴィに負担を掛けないよう、暫く関係を隠すつもりでいたのだが。マステマ曰く、「どーせすぐ気づかれるんだから別にいいっすよね」だとか。
 そのせいで、休暇に街へ出るとあっという間に人に囲まれるようになってしまった。最近は眼鏡や帽子を被って変装しないと落ち着いて過ごせない。

「ガレオン様、挙式はいつ頃を予定されているのですか? 我々一同楽しみにお待ちしていますよ」
「時が来たら伝える、それまで余計な詮索はするな。セレヴィに負担がかかる」

 さらりと気遣われ、セレヴィは喜び半面、詮索してほしくもあった。
 もっとガレオンについて語りたいからだ。なので出来れば思い切り突いてほしいのだが、ガレオンはあまりいい思いをしないだろう。ここは我慢するしかない。

「ふふ、お二人のお子様が楽しみですね」
「お子っ……!」

 セレヴィはまた赤面してしまう。魔王と結ばれるという事は当然世継ぎを作る役目があるわけで。
 ガレオンが発言者に一喝し、その場は収まるも、セレヴィはうつむいたまま顔を上げられない。
 ガレオンと事に及ぶ覚悟は出来てはいるが、不安は尽きない。セレヴィはそうした経験など一度もないから。と言うか手を繋ぐだけで心臓が爆発しそうになるのだから、いざ本番を迎えたらどうなる事やら。
 でも好きな人と肌を重ねるのは、相当な憧れがあった。
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