「くっ、殺せ!」と屈服した女騎士を拾ったので虐待することにした。

歩く、歩く。

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69話 初心な女である

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 視察で茶々を入れられたものの、その後の仕事もつつがなく終了した。
 いかに好いてる男が隣に居ようと、魔王の秘書たる心構えを忘れたりはしない。ガレオンは仕事に一切手抜きがなく、気を抜けばあっという間に置いていかれてしまう。
 何しろこの男、一ヶ月分の業務を一日で片付けてしまうのだ。……そんなのに付いていけるセレヴィも十分化け物である。

「今日は終わりだ、ご苦労だったな」

 終業と同時にガレオンの表情が柔らかくなる。オフ状態に入ったようだ。セレヴィはまだ、仕事の緊張感が取れないまま。
 オンオフの切り替えが早すぎてついて行けない、筋金入りのプロだ。
 ガレオンは肩の力が抜けていないセレヴィに手を伸ばし、頬を撫でる。優しい手つきにうっとりし、セレヴィはだらしない顔になった。

「落ち着いたか?」
「うん……手、握ってもいいか?」
「構わん」

 大きな手を握ると、セレヴィは幸せな気分になった。少しひんやりして、硬い感触。ガレオンの感触だと思うと、とても愛おしく感じた。
 彼の手を握っていいのは自分だけ。優越感に浸り、セレヴィははしゃいでいた。それはもう、表面上平静を装っているが、心のセレヴィは幸福のあまり踊りまくっていた。

「この後約束はあるのか? ノアやマステマ辺りが取りつけてそうだが」
「いや、今日はないんだ。ガレオンも都合がいいなら、その、私の部屋に来ないか? アバドンには及ばないが、夕飯を作らせてくれ」
「悪くない。手伝ってやろうか」
「私がへこむからやめてくれ、ガレオン器用だから、立場が逆になってしまう」

 ガレオンの料理の腕前はプロ以上だ。この魔王、出来ない事がマジでない完璧超人なのだ。

「そ、それで、それでだな。もしよければでいいんだが……部屋に行くまで、手を繋いでもらってもいいか? 嫌ならいいんだ! 誰かに見つかればそれこそ質問攻めにあうだろうしマステマに見られた日にはどうなってしまうか」
「いいぞ」
「そうだよな、ダメ……え?」
「何困惑している、この世界の主は誰だ? 俺が何をしようが俺の勝手、奴隷どもに文句など言わせはしない。だから好きにしろ、お前の思うように接してみるといい。俺の全てはお前の物でもあるのだからな」

 遠回しに「守ってやる」と言われ、セレヴィは遠慮せずガレオンと手を繋いだ。所謂、恋人繋ぎだ。ガレオンと深く結ばれているようで、口元が緩んだ。
 ……腕を組んでみても、大丈夫だろうか。
 恐る恐る、ガレオンの袖をつまんでみた。そしたら瞬時に察してくれて、ガレオンから腕を出してくれた。
 ガレオンの腕を抱き留め、セレヴィは目を細めた。
 こうしていると実感する、ガレオンと恋仲になっているんだなと。触れているだけなのに、こんなにも幸せな気持ちになれるなんて。

「ガレオンを好きになれて、よかったよ……」

  ◇◇◇

「……んで、手料理作って一緒に食って、そんで?」

 夜も深くなった頃、セレヴィの部屋にマステマが来ていた。
 一緒にチーズをつまみつつ、さっきまでの出来事を話していたのだが、

「そんで? と言われても……多少雑談してお開きになっただけだが」
「……思春期っすかっ!」

 何故か台パンされ、セレヴィはびくりとした。

「いやいやいやあーたね、常識的に考えるっすよ。恋仲の男女、部屋で二人きり、食事もしたなら当然「デザートに私をどうぞ」っすよ! なぁーにそんだけで解散して満足気な顔してんすか!」
「んなっ!? い、いいだろ別に! 第一そんなやらしいセリフが言えるものか、はしたない女だと思われたらどうするんだ!」
「別にいーんすよあーたがそう思われてもあーしにゃダメージねーっすから」
「無責任の極みだな貴様」
「主様ならちゃんと責任取ってくれるっすから自分からガンガン誘惑するべきっすよ! 男ってのは既成事実作って逃げ道塞いどかねーとダメっす、女を部屋に連れ込んで発酵食品食ってる場合じゃねーっす! ほれ今すぐ主様の部屋突撃して一発ヤッてこいっす!」
「やめ、押すな! まだ部屋に入った事ないんだから恥ずかしいだろうが!」

 文字通り背中を押すマステマと取っ組み合いになり、どうにか踏みとどまる。マステマはため息を吐きながら後頭部を掻き、

「ってか、まだ主様の部屋入ったことないんすか」
「そりゃ、女が男の部屋に入るってのは、……な事する意思表示なわけで……その、心の準備が出来てないというか……」
「自分の部屋に男連れ込んでるじゃねっすか、ある意味それ自分から誘ってるようなもんじゃねっすか」
「あ、いや、えーっと……それはその、なんて言いますかそのぉ……」
「大方、色恋沙汰が初めてで勝手が分からない感じっすか」
「(コクン)」

 セレヴィは灰色の十代を送ってきた。若くして騎士団に入り、両親を亡くしてからは実家の運営にも奔走され、青春の大半を奪われていた。彼女は思春期がすっぽ抜けたまま育っていたのだ。
 そのせいもあり、今になってやってきた甘酸っぱい青春に戸惑っているのである。

「んーまぁ、あーたの境遇は理解するっすけど、これじゃあ先が思いやられるっすよ」
「大丈夫、ガレオンは「お前のペースでいい」と言ってくれているからな。私の覚悟が決まるまで待たせてしまうけど……今は彼の優しさに甘えさせてくれ」

 突然の惚気話。マステマは鼻で笑った。
 からかわれるからマステマには話していないが……ガレオンは別れ際にキスしてくれたのだ。深く愛されている実感があるからセレヴィは安心していた。と言うか昨日の好きを軽く超えさせてくれるなあの魔王。
 セレヴィの本音としては、多少強引でもいいからガレオンから抱いてほしいのだけれど。好きな人と繋がるのって、どんな感じがするんだろう。

「あーたスケベな事考えてるっすね。覚悟決まってねー癖に妄想だきゃあ滾らせてるっすかこの色ボケ騎士」
「え!? 私そんな顔してたか!?」
「肯定してどうすんすか。あーた意外とむっつりスケベっすね。んじゃあーしはその覚悟とやらを促してやるっすよ。ほれこの雑誌見るっす」
「なんだ? ……本当に何だこれは……!」

 セレヴィは耳まで赤くなる。マステマが持ってきたのは下着のカタログだ。
 載っているのはスケスケのネグリジェやら、布面積が少ない物やら、見るだけで恥ずかしくなる下着ばかり。セレヴィは照れて雑誌を閉じてしまった。
 でも興味深々に、薄くページを開いて覗き込んでいる。初心すぎる反応だ。

「城下町で新装開店した場所があるんすけど、これがまた色々売ってるんすよぉ。一緒にどっすか?」
「どっすかって……こんなふわぁ~おな物買えるわけ……」
「のわりにゃ超眺めてるじゃねっすかぁ、男轟沈させるにゃこれくらいやらねーとっす」
「……一人じゃ決められないから、一緒に来てくれるか……?」
「ラジャっす」

 雑誌で顔を隠すセレヴィを、マステマはニマニマしながら撫でまわした。
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