「くっ、殺せ!」と屈服した女騎士を拾ったので虐待することにした。

歩く、歩く。

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73話 魔王自ら出向かねばならんようだ

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 ルシファーと合流するまでに、ガレオンは市井の様子を見て回った。
 港町は活気があり、問題なさそうに見える。だが聞き込みをしていくと、様々な声が届いてきた。

「近頃、魚がこの辺りを離れているというか、怯えているような気がするんですよ」
「それに何というか、海から得体のしれない気配がするというか……時々変な影が見えるんです」
「どんな影ですって? すんごくでかいんですよ。ドラゴンでも海に潜ってるんですかね」

 奴隷どもの声を聞く内に、推測が確信に変わっていく。やはり今回問題となっているのは、ヒガナと同種の存在のようだ。
 念のため、三人を配置しておいてよかったな。
 医療施設やインフラ等の問題点を確認し、対策をセレヴィに指示した後、漁港へと向かった。ガレオンが姿を見せるなり、責任者が出迎えてくる。

「ようこそおいでくださいましたガレオン様、ご来訪を心待ちにしておりました」
「報告は受けている。被害に遭った奴と会わせろ」
「かしこまりました。……おい! ルドルフ、ガレオン様だぞ」

 呼ばれてやってきたのは、左腕を失った魚人だった。彼が自分の船を指さすなり、セレヴィが口元に手を当てた。
 漁船が真っ二つに食いちぎられていたのだ。それもたった一口で。ガレオンも眉間に皺をよせ、腕を組んだ。

「分かんねぇけど、網引いてたらいきなりでかい奴が飛び出してきて、船をひと飲みしたんだ。おかげでこの通りさ……まぁ、腕一本だけで済んだのは幸いって奴だな……」
「海域は分かるか」
「南東に二十海里だ。なぁ頼むよガレオン様、あの化け物を倒してくれ。じゃないと仲間達も安心して仕事に出れないし、家族が干上がっちまうよ」
「誰に向かって物を言っている。そのつもりでなければここに来るわけないだろう馬鹿が」

 ガレオンは不敵に笑い、「肉体錬成」で魚人の腕を治してやった。
 復活した腕に魚人は驚き、泣いて喜んだ。ガレオンは踵を返し、

「今日中に片を付ける、お前達は帰ってブランチでも楽しんでいろ。明日からまたこのガレオンのために働くがいい!」

 漁港中から歓声が上がった。口だけでなく、行動して実現するからこそ、人は彼についてくるのだ。
 しかも、丁度間のいい事に戦艦が入ってきたではないか。
 ガレオン海軍が保有する巨大な戦艦、ベルゼビュートだ。見る者に威圧感を与える、桎梏の戦艦である。

「どーもー! どーもどーもー! ルシファーただいま参上いたしましたー!」

 船首にルシファーが立ち、両手を振っていた。頼もしい援軍だが、ちょっと身を乗り出しすぎではないか?

「ルシファー! 少し下がれ、落ちるぞ!」
「え、なんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 耳に手をかざした瞬間、ルシファーが墜落した。んでもって戦艦に巻き込まれ、海の藻屑と消え去った。

「ま、まだ死んでないですよ……! うふ、でも死の淵を味わう感じ、最高だった……!」
「だから飛ばなかったのかお前」
「本当に死んでも知りませんよ……」
「大丈夫! ドエムは不死身ですので!」

 妙な説得力のあるセリフだった。

「ともあれ、行くとするか。セレヴィ、お前はここで待っていろ」
「ですが、私はガレオン様の騎士です。御身を守る立場の者が、安全な場所に居ると言うのは……」
「今回は相手が相手だ、連れて行くわけにいかない」
「……足手まといと、言いたいのですか?」
「俺の帰る場所になれ。お前が待っていてくれるだけで支えになる」

 セレヴィの額に口づけし、戦艦へと向かっていく。セレヴィは赤面するも、ガレオンに付いて行こうと食い下がった。
 すると彼女の肩を掴む者が現れた。

「はーいここまでっすよー」
「マステマ? なぜここに」
「そら観光に決まってるっすよー。ここは主様に任せて、あーたは待ってるっす。んじゃ主様ー、こっちは任せろっすー」
「しっかり守れよ」
「お、おいお前今日……そういえば休みじゃなかったよな? くそ、グルかお前!」
「はいはいグルタミンだろうがグルコサミンだろうがあーたはお留守番っすよ、いい子なんだから聞き分けるっす」

 喚き続けるセレヴィを後目に、ガレオンが戦艦へ向かう。魔王の騎士なのに、ついて行くのが許されないのか。
 出航する戦艦を見送り、セレヴィは俯いた。
 マステマは耳をほじくると、慰めるように彼女の肩を抱く。

「そんなに寂しがるこたぁねぇじゃねっすか。主様が死ぬわけじゃあるまいに」
「だが……魔王の騎士として、主君の傍に居られないのは……」
「んじゃ、現場に行ってなんか出来るんすか? ヒガナを前に何もできず、守られるばかりだった娘っ子に」

 セレヴィは言い返せなかった。筋力は落ち、剣術も鈍り、彼女は以前のように戦えなくなっている。仮について行っても、ガレオンの足を引っ張るだけ。腰の剣はもうほぼ飾りと化していた。
 それでも……命を彼と同じ比重で賭けたいのだ。大事な人が知らない所で危険な目に遭うなんて、そんなの嫌だから。
 もしかしたら両親のように、ガレオンも帰らぬ人になるかもしれないのだから。

「あーたは主様とあーしの大事な人っす、んなあぶねー場所に放り込めるわけねーっすよ。それにここでも主様のためできる事はあるっすよね」
「……彼の帰りを、迎える事」
「正解っす。んまぁ、事務仕事でもしときゃいいんじゃねっすか? 視察もしといた方がいいだろうし、あーしも手伝ってやるっす。ほれ、こっちおいでっす」

 マステマに手を引かれ、セレヴィは漁港での仕事へ向かった。
 ふと戦艦を見ると、既に豆粒ほどに小さくなっている。ガレオンが遠ざかる寂しさから、胸が痛んだ。
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