「くっ、殺せ!」と屈服した女騎士を拾ったので虐待することにした。

歩く、歩く。

文字の大きさ
74 / 93

74話 魔王一人に任せておけ

しおりを挟む
 一方のガレオンも、漁港が見えなくなるまで眺め続けていた。
 遠くとも、セレヴィがこっちを見ているのが分かる。やはり連れていくべきだっただろうか。いやしかし、セレヴィを危険な場所へ連れていくなんて出来ない。
 あいつは俺の女だ、傷一つ付けるのだって嫌だ。だと言うのに、別れ際のセレヴィの泣きそうな顔が脳裏に焼き付いている。

 くそ、やっぱり同行させるべきだったか。俺ならセレヴィを守ってやれる、それだけの力は持っている、が、しかしっ……俺の力は強すぎる。俺のせいで万一の事があったらどうするというんだ。

 頭を抱え、悩みまくるガレオン。滅多に見られない苦悩する魔王ガレオンに部下達はおろおろした。
 今から討伐する相手はそんなに強いのか。部下達はそう思っているのだが、実際は女の事で悩んでいるだけである。

「そんなに悩むのであれば連れてこればよかったのに」

 見ていられなくなったのか、ルシファーが声をかけてきた。ガレオンははっとし、わざとらしい咳払いをした。

「そうはいかんだろう、俺が本気を出せば周囲にも被害が及ぶ。お前達は訓練しているが、セレヴィは実戦から遠ざかって久しいんだ。耐えられるわけがない。それに……セレヴィの事だ。大方港で待ち続けるだろう。万一高波に浚われでもしたら危険だ」
「それでマステマをブレーキ役に配置したと。すっかり過保護になってしまってまぁ。セレヴィ嬢が羨ましいですよ」

 ルシファーは苦笑した。ガレオンはぶぜんとした顔になり、手すりに寄りかかった。

「あまり大切にしすぎてもだめですよ、彼女は未だ騎士としての誇りを持っています、主様と同じ比重で命を賭けたいと思っているはずですよ。一人だけ安全な場所で待つなんて、セレヴィ嬢には耐えられないでしょう」
「ふん、お前は随分とセレヴィの胸中が分かるようだな」
「同じドエムとしてのシンパシーって奴ですかね(キラリン☆)」
「お前はただのド変態だろうが」
「あふん! あ、ありがとうございますっ!」

 犬座りでハスハスと鼻息荒くなる変態天使。イナンナが残した負の遺産はあまりにも大きかった。
 ルシファーはさておいて、セレヴィには後日埋め合わせをしなければなるまい。何をしてやればセレヴィは機嫌を直してくれるだろうか。

 目頭を摘み、ガレオンはまた悩みだした。その姿にまたしても部下に動揺が走る悪循環。普段完璧な魔王として振る舞っている反動が悪い形で出ていた。
 そんな、一人の女で悩むガレオンを、ルシファーは微笑ましく見守っていた。

 ……主様は、良い方向に変わられたものだ。
 セレヴィと会うまではどこか無理をしているというか、イナンナとの約束が枷になって苦悩しているように見えた。
 魔王として威厳を保とうとしなくなったし、程よく力が抜けている。仕事にも影響が表れていて、領土が広くなっているのに、行政はより安定しているのだ。街の人からも親しみやすくなったと好評でもある。
 いいカップルだ、本当に。

「そろそろ、か」

 ガレオンは腰を上げた。彼は微弱な電気を放ち、周囲の状況を探る技術を持っている。索敵範囲は実に10キロにも及ぶという。

「奴をとらえたのですね」
「船を停めろ、この先は俺が行く。被害が街に行かないようバックアップを頼むぞ」
「御意に」

 船首に向かったガレオンは、爆発的な脚力で大ジャンプした。飛翔と見紛う程の跳躍にルシファーは驚嘆する。

「実際、あの人一人でどうにかなってしまうんだよなぁ」

 何しろ、三日もあれば単独で魔界を滅ぼす力を持っているのだから。

  ◇◇◇

 もうすぐ、報告にあったポイントだ。上空を走りながら、ガレオンは目を凝らした。
 いくつかの目撃情報から推察するに、相手はヒガナと同質の存在、かつて魔界を席巻した古代兵器の一つだ。
 ヒガナの一件以来、ガレオンはずっと奴らについて調べていた。太古の先祖が残した、数億もの命を奪った殺戮兵器である。

 ヒガナは指揮官として知能を持たせているが、その他の連中は破壊衝動のみで動き、目に映る生きとし生ける者を殺していくだけの危険な存在だ。魔界で対抗できるのは、恐らくガレオンのみだろう。

「全く、どこぞの馬鹿が呼び起こしたんだか」

 本来ならば彼らは封印され、地下深くに埋まっているはずなのだが。どうやらヒガナの出現以降、奴に呼応する形で封印が解けているようだ。
 証拠に他の魔王領でも出現報告を受けていて、大きな被害を出しているようだ。

「全くはた迷惑な奴だ。立つ鳥は跡を濁さないもんじゃないのか?」

 海面に着地し、ガレオンは腕を組んだ。速度を操る力で沈む速度を極限まで遅くすれば、海上を歩くなど容易い。
 周囲に電気をばらまき、敵を誘導する。ヒガナ達は生物の電気信号を感知する能力を持っているから、誘導できるはずだ。
 刹那、足元に巨影が映り込む。ガレオンがジャンプすると、爆音と共に水柱が立った。
 出て来たな。ガレオンは笑みを浮かべた。

 背に腕を生やした異形のサメだ。全長30メートル、口からは無数の触手が生え、ガレオン目掛けて伸ばしてきた。
 回避し、雷を叩き込む。しかしサメの周囲に薄い壁が展開され、弾き飛ばされた。

「ほう、防御壁か。いい玩具を持っている。流石は古代兵器……確かお前は、ボサツとか言ったか」

 主に海路で逃げる者達を襲っていた駆逐兵器だ。群れで獲物に襲い掛かる集団戦を得意とした個体だったはず。
 復活したのがたった一匹だけなのは寂しいが、久しぶりに遊べそうな相手が出てきてくれた。

「くくっ、たぎらせてくれるな。平和主義の俺だが、実の所喧嘩も好きな暴力主義でもあるんだよ」

 相反する難儀な主義である。木刀を出し、ガレオンは舌なめずりした。

「今日の晩飯はふかひれだ、セレヴィも喜ぶだろうよ」

 急接近して10トンの木塊を叩きつける。ボサツは背骨が折られ直角に曲がるも、すぐに体を再生させた。
 触手による嵐のような攻撃をしつつ、腕で印を組み、魔法を連発してくる。眩く光る球を蹴り飛ばすと、空で爆発した。
 見た事のない魔法だ。恐らく、呪法の一つだろう。余波はルシファーの所はおろか、漁港まで届いた。びりびりと大気が震え、セレヴィは両手を握ってガレオンの無事を祈っていた。

「これは……不安がらせてしまったか」

 セレヴィの泣き顔を想像し、ガレオンは困り顔だ。余裕を見せる様は、ボサツに負けるなんて、みじんも思っていないようだった。
 にしても、やはり呪法が刻まれていた。ガレオンが使っている呪法は、元を正すとこの古代兵器に搭載された装備の一つなのだ。

 故に、小さなヒトの容量では使いきれず、脳がオーバーヒートしてしまうのである。そんな代物を気合と根性だけで使うガレオンはなんなんだろうか。

「お前、フィッシュアンドチップスは好きか? 俺は嫌いだ」

 ガレオンはボサツにとびかかった。防御壁は魔法のみを無力化するようで、接近は容易だ。両腕を掴むと思い切り引っこ抜き、触手もまとめて引きちぎった。
 それからは一方的な蹂躙だ。ボサツは幾度も再生して反撃するも、ガレオンに一矢報いるすらできない。

 ガレオンの攻撃により津波が発生し、ルシファー達が必死に食い止めた。陸ではアバドンが住民を高台に避難させ、マステマがセレヴィを連れて行こうと腕を引っ張るが、

「おいこら! 波にのまれたらどうするんすか!」
「うるさい! ここに居させろ、私は騎士としてガレオンを待たないといけないんだ!」
「だーっ! ここで騎士魂発揮すんなっす! 主様遊びすぎっすよー!」

 案の定苦戦していた。

 ガレオンとて手加減は出来ない相手である。余裕そうに見えて少しでも力を緩めれば、ガレオンはボサツに食い殺されるだろう。ガレオンに瞬殺されない辺りで、ボサツの戦闘力を察してもらいたい。
 次第に再生力が落ちてくる。「肉体錬成」の呪法を持っているから分かるが、再生能力は体に負担がかかる。連続で使えば体力を消耗し、再生できなくなるのだ。

「俺と遊んでくれた礼だ、後でアバドンに美味しく調理してもらうさ」

 腕に稲妻を纏わせ、貫通力を上げた貫手で心臓を貫く。再生力を失ったボサツは回復できず、絶命した。
 終わってみれば完勝だった。ボサツに乗ったガレオンは、頬を掻いた。

「少し暴れすぎたか、セレヴィに怒られるかな、これは……」

 最強なのに、すっかり尻に敷かれている魔王であった。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

処理中です...