「くっ、殺せ!」と屈服した女騎士を拾ったので虐待することにした。

歩く、歩く。

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81話 初心な小娘が魔王に勝てると思ったか

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 遺跡から出た後、二人は余韻に浸るように公園を歩いていた。
 ガレオンと過ごす時間はとても楽しいし、もっと続いてほしいとも思っている。そうなれば、彼が挑もうとする仕事だって来ないはずだ。

 ……二日間の休日が、魔王連合との決戦前の慰安休暇だと知っている。ガレオンですら覚悟しなければならないような相手との戦闘がこの先、待ち受けているのだ。
 力のないセレヴィでは、ガレオンと共に向かう事すら出来ない。安全なガレオン領で彼の帰りを待つしか出来ないのは、なんとも心苦しいものだ。
 本音を言えば行かないでほしいけれど、ガレオンが戦わなければ失う命も当然多く出てしまう。彼が向かうべき案件なのは、分かっている……。

「セレヴィ、あれ買ってきてくれ」

 と、ガレオンに肩を叩かれ、小銭を渡された。彼が示す先には、網戸を付けた箱が置かれていた。

「無人販売所? 何があるんだ?」
「果物だ、公園内で採れた物を安く販売しているんだよ。適当に見繕ってくれ」

 ガレオンにしては変な頼み事だ。言われた通り無人販売所へ向かうと、刻んだリンゴが詰まったカップが並んでいた。
 食べやすいようにしているのかな? そう思いつつ二個取るなり、背後から無数の気配がした。
 振り返る間もなく、セレヴィは多数のインコに襲われた。カラフルな羽の中型インコに埋もれ、セレヴィは悲鳴を上げた。

 インコは彼女の持つリンゴに夢中だ。抵抗しようにも両手が塞がっているから払いのけられない。
 ガレオンはガレオンで大笑いしていた。こいつ、確信犯だ。

「このっ、謀ったな!」
「謀るとは? この公園は動物にエサをやれるんだ、ビジターセンターで説明してもらったし、無人販売所だってあちこちにあっただろう。気づかないセレヴィが悪い」
「お前なぁ! きゃっ、こら待て、順番だ順番! 慌てなくてもリンゴはあるからっ!」

 始めこそ怒ったものの、セレヴィは基本動物好きだ。リンゴが無くなったらまた新しいカップを買い、インコと戯れた。
 ガレオンも乗っかってエサをやり、二人そろってインコまみれになる。もふもふ生物に囲まれ至福のひと時だ。むせかえるようなインコ臭も乙である。
 でもなんか、誤魔化されたような気もした。ガレオンはセレヴィの機微に敏感だ、多分セレヴィが不安になっているのを察して、気を逸らそうとしたのかもしれない。

「……ガレオン、お前が強いのは分かっている。その気になれば、魔界を一人で蹂躙してしまうほどに」
「当然の事を今さらどうした」
「それでも、一つの懸念があるんだ。あの遺物で、古代兵器について教えてくれただろう。じゃあ奴らとの争いは、どうやって終わったんだ? 私とノアの祖先が別世界へ逃げる程戦況が悪かったのなら、ガレオン達は居ないはず。魔界は古代兵器に支配された世界になっていたはずだろう? 無数に襲ってくるヒガナ達に古代人はどうやって立ち向かったんだ」

「まぁ、気づくよな。それに関しては、ほぼ俺の推測でしかない。僅かな伝承を元に立てた、あくまでも一説として聞いてくれ」

 ガレオンは長い息を吐いた。

「魔界に残された者達は、最後の力を振り絞り、奴らに対抗できる兵器を造り上げた。迫りくる無数の敵を、たった一体で蹂躙する程のな。そいつは古代兵器は勿論、人々が争う理由となった文明そのものすら消し去った。役割を終えた後、最後の兵器はプログラムされた通り自ら眠りにつき、レトロマウンテンに封印されたんだ」
「魔王連合が掘り起こそうとしているのが、その兵器……なのか?」

 ガレオンは頷いた。

「皮肉なもんだろう、滅亡から逃れるために、同様の兵器に頼らざるを得なかったんだ。で、現代にまた同じ事を繰り返そうとする馬鹿どもが居る。「自分達なら大丈夫」と過信してな」
「結局、人は学ばないものなんだな……過去の過ちから、何も感じないんだろうか」
「時間が悪い意味で痛みに慣れさせてしまうんだろう。根拠のない楽観論ほど害悪な物じゃない、誰かが止めなければ無用な犠牲が出る。となれば、力ある者が手を下さねばならないだろう? 魔界でそれが出来るのは、俺しか居ない。俺がやらねばならない責務なんだ」
「……分かっている、分かっているけど……無事に、帰ってきてくれるよな?」

 セレヴィはガレオンの背に縋った。服を強く掴み、「行かないで」と伝えている。
 ガレオンの話は、セレヴィの不安を余計に煽ってしまった。こういう所は、ガレオンの良くない所だ。
 魔界をリセットするような力を持つ相手に挑む。そう言われ、安心できるはずがない。これまでの相手とは次元が違いすぎて、いかにガレオンとて勝てるかどうか分からない。
 だとしても、戦わねばならない。魔王には、守らねばならない物が沢山あるのだ。

「俺を誰だと思っている、このガレオン・ドゥ・アスタロトに不可能などない。万一交戦する事態に陥ったとしても、負けるわけがないだろう。それにセレヴィも見ただろう? 俺の本当の姿を」
「ああ、凄く強大な力を感じた」
「あれで俺がどれくらいの力を使ったと思う? 精々五パーセント程度だ。あれでまだ、本気を出していないのさ」
「嘘だろ?」
「そんな下らん嘘を吐く男だと思うか?」

 セレヴィは言葉が出なかった。ヒガナを何度も殺して遊ぶような力がその程度なら、全力のガレオンはどれほどになるのか、想像もつかない。

「一応聞くが、古代兵器の末裔とかないよな?」
「ちょっと天才なだけの、れっきとした普通の生物だ。ともあれ、少しは安心できたか?」

 セレヴィはこくりとした。確かに魔王連合が掘り起こそうとしている怪物がどれほどの物か分からない、でもガレオンの力もまた底が知れなかった。

「出来る限り起こさないよう、迅速に事を収めるつもりだ。万一の際の対応策も用意してある、だからそう心配するな。何があろうと俺は戻ってくる、絶対にだ」

 ガレオンはセレヴィと指切りした。固い約束を交わし、セレヴィは小指を握りしめた。

「やはり、私は連れて行ってくれないんだな」
「すまんな、そいつだけは聞けない相談だ。お前を失うわけにはいかない、何があろうとお前だけは、守りたいんだ」
「……分かった、言う事を聞くよ。ガレオンが戻ってくれるのが第一だものな、私が居たら却って力を出せないと思うし……」

 不服だが、セレヴィは頷いた。ガレオンに付いて行くのは自分のわがままでしかない、大丈夫、ガレオンならきっと、帰ってきてくれる。

「それなら、明日までとことん付き合ってもらうぞ。もっとガレオンと見て回りたい所が山とあるんだ、嫌って言っても許さないからな」
「ほぉ? この魔王を、お前ごときが振り回せると、本気で思っているのか? んん?」

 ずいと詰められ、セレヴィはてんぱった。どうやら、ガレオンに変なスイッチが入ってしまったようだ。

「俺だってセレヴィを連れていきたい場所が銀河の数ほどあってな。丁度いい、そこまで言うのなら試してやろう。お前がどれだけこの魔王の本気の遊びについて来れるかをな」
「い、今まで手加減して頂いたようですね……!」

 その後セレヴィは徹底的に振り回された。経験豊富なガレオンのイケメンムーブに、経験の浅い小娘が抵抗なんてできるはずもなく。街へ帰る頃にはいろんな意味でへとへとになっていたのだった。
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