「くっ、殺せ!」と屈服した女騎士を拾ったので虐待することにした。

歩く、歩く。

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92話 セレヴィを相手に格好つけたかった

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 ナラクが最後の古代兵器を潰すのと同時に、ガレオンが海上に現れた。
 空を駆けてナラクに接近したガレオンは、改めて強大な敵を目の当たりにする。想像以上にでかく、ひりつくような威圧感を受けた。
 敵に対して身震いするのは、いつ以来だろうか。
 多くの命の危機だと言うのに、ガレオンは高揚している。ナラクはガレオンの、本当の全力を出さなければ勝てない相手。そんな好敵手の存在を、彼はどこかで望んでいた。
 圧倒的な強者は常に孤独だ。愛はセレヴィが埋めてくれるが、有り余るパワーはこのナラクが埋めてくれる。
 ありがとな、俺と出会ってくれて。

「古の時代よりやってきた客に敬意を表し、俺の真の姿をお見せしよう」



「〈Grimwar〉」



 封印のシジルが展開され、ガレオンの姿が変化していく。長い銀髪に、異形の体を持った魔王となり、ガレオンは槍を握りしめた。
 ナラクもまた、ガレオンの存在を感じるなり咆哮を上げた。知能は低くとも感じるのだ、自分を脅かす敵が現れたのだと。
 魔界最強の頂上決戦が今まさに、火ぶたを切ったのだ。

 ナラクがフルパワーのビームカノンを射出し、ガレオンに迫る。それを彼はあえて真正面から受け、片手で弾き飛ばした。
 ビームは宇宙まで飛び弾けた。ガレオンの左手は焼けただれるも、「肉体錬成」によって再生される。
 この体に傷を付けるか、やはり強いなあいつ。
 雷の槍を作って発射するが、バイオミサイルの弾幕で撃ち落とされ、ナラクには届かない。撃ち漏らした数発がガレオンへ向かうが、こちらも速度を操られ、空中で止まった。

 遠距離戦はほぼ互角、ならば肉弾戦だ。
 槍を握って突撃し、ナラクもビームソードで迎え撃つ。バリアを展開し、ガレオンの侵入を拒もうとするが、ガレオンは強引にバリアを引きちぎった。

「おい、そんな拒むなよ。俺と遊ぼうぜ!」

 応えるように、ナラクはビームソードの二刀流で応戦する。残像すら捉えられないほどの、超高速の切り結びが交わされた。
 一見すると互角だが、ガレオンに分の悪い殴り合いだ。

 ナラクには「適応」の呪法が刻まれている、一度受けた攻撃は、ナラクには二度と通じなくなってしまう。
 槍による攻撃は無効化され、ガレオンが打ち負けてしまう。ナラクは膂力を振るい、ガレオンを爪で切り裂いた。
 全身を切り刻まれ、血しぶきが飛ぶ。「肉体錬成」で治しても、体力は削られる。速度を操る魔法も通じたのは一度だけで、攻撃を防ぎきれなかった。

 消耗し続ければ、ガレオンは負けるだろう。だと言うのに彼は、笑っていた。
 楽しいな、ナラクよ。お前程強い存在は、初めてだ。
 もしも俺がセレヴィと会えていなければ、ここで敗れていたかもしれないな。

「格好つけたいのさ、惚れた女には、ずっと俺に惚れていてほしいんだ」

 不純な動機かもしれない。でもナラクを倒せば、セレヴィはより俺に惚れ直してくれるだろう。
 女の前で最高の俺を見せつけるために、俺はいつだって限界を、リミットをぶっ壊してやる。だから、お前はここで死ね。

「愛してるぞ、セレヴィ!」

 ガレオンは全マナを右腕に集約させた。右拳一本だけだが、ナラクの力を明確に超えるパワーが宿った。
 それを悟ったか、ナラクが翼からマナを放出させた。文明を粉砕する、破滅の光が展開されて、地響きが沸き起こった。
 ガレオンとナラクがぶつかり合う。ナラクが放つマナにガレオンの皮膚が削げ、体が抉られていく。再生能力が、どれだけ持つか。
 まだだ、もう少し……ここだ!



「ぶっ飛びやがれぇぇぇぇぇ!」



 拳が届く距離まで強引に近づき、ガレオンは溜めていた右を解放した。
 渾身の右が叩き込まれ、ナラクが吹っ飛ばされる。一瞬で大気圏をぶち抜き、直線上の月を貫通して、真っ直ぐに太陽へ向かっていく。
 ナラクを倒すには、奴の再生能力を上回る一撃で即死させるしかない。ガレオンでもそれだけの力は出せなかった。
 ならば、外部の力ならどうだ?
 ナラクは太陽に叩きつけられた。莫大なエネルギーの塊である太陽には、いかにナラクと言えど適応する時間はない。
 数百万もの温度によって、古の最凶兵器が蒸発した。
 右拳を掲げたガレオンは、自身の勝利を確信した。ナラクは潰えた、セレヴィを脅かす敵はもう、魔界に存在しないのだと。

「……くくっ、どうだ、セレヴィ……俺は、格好いいだろう?」

 ガレオンの顔はいつも通り、不敵な自信に満ち溢れていた。

  ◇◇◇

 ガレオンが帰還するなり、セレヴィは飛びついた。
 彼が帰ってきた時点で結果は分かっている、ガレオンは約束を守ってくれたのだ。
 あんな化け物を相手に帰ってきてくれるだけでも凄いのに、勝利までもぎ取ってしまった。やっぱガレオンは凄い、自慢の……彼氏だ。
 それでも、心配だった事に変わりない。安心するなり涙が出てきた。

「よく、無事で……いてくれたよぉ……!」
「だから心配する必要などなかっただろうが。あの程度、俺にとっては道端の石みたいなもんだ」

 ガレオンはセレヴィを撫で、ようやく一息ついた。
 セレヴィを感じると、生を実感する。自分がちゃんとここに居るのだと、心から思えた。
 さて、ナラクを倒したはいいが、これからが忙しいぞ。

「全く、あの野郎。散らかすだけ散らかして逝きやがって」
「いやそうしたのガレオンだから」
「それもそうか」

 ガレオン領は無事だったが、その他の領地は悲惨な事になっている。
 ナラクが暴れたのはほんの数時間だが、残された被害はすさまじく、魔界はズタボロになっていた。代わりに魔王連合は壊滅し、ナラクが古代兵器を全滅させた事で、ガレオンに歯向かう敵も消え去った。
 つまり事実上、ガレオンが真の意味で魔界の頂点に立ったのだ。魔界の全ては、ガレオンの物となったのだ。

「これから忙しくなるな、まずは人命救助、その後は環境整備……やる事が山積みだ」
「当然私も手伝うよ、ナラクに関して何も出来なかったからな、その分しっかり取り戻すつもりだ。……公私、一緒にな」

 セレヴィはガレオンにもたれかかった。愛する者の温もりがとても尊い物に感じる。
 ガレオンもセレヴィを抱き寄せた。愛する者を守れた充実感が、疲れた体に染み渡る。
 暫く二人は、騒動の後の余韻に浸っていた。
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