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第八話 誕生日前
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「最近、デューク来なくなったわね……」
「気になるの?」
お母様とお姉さまと刺繍をしていた時に、なんとなく気になっていたことを口にすれば、お姉さまの眉がぴくりと動く。
それに対してお母様はのんびりと糸の始末をしていた。
「それなら、今度の貴方の誕生日パーティーにお呼びしなさい」
「やっぱりしなければならないの?」
私の誕生日は夏の終わり。毎年、社交シーズンで家族が領地を出払う前に開きたいと言われていたけれど、ある年齢からか、華やかな場所で主役となるのが苦手であることに気づいてから、パーティは開かずに家族の内でささやかに祝うだけにしてもらっていた。
「毎年、開きたくないと貴方がいうから誕生日パーティーは開かないでいたけれど、今年は絶対に開かなければダメよ」
そう母に言われてため息をついた。理由はわかっている。
私の来年の社交界デビュー前に、いいかげんに娘の交友関係を広げさせたいという魂胆なのだ。
親として娘を心配してくれるのはわかるけれど、よりによって自分の誕生日にそんな拷問のようなことをしたくないとも思ってしまうのはいけないことだろうか。
私が気乗りしないのを見てとったのか、姉が割り込んでくれた。
「無理する必要ないわよ。カリンだって社交界でのお披露目が終わったら、知り合いが増えるでしょうし」
「そうやってヨーランダがカリンを甘やかすから、どんどんと引っ込み思案になるのでしょう?」
「そんなことないわよ。カリンは芯が強い子よ。いざとなればお友達くらいダースで作れるわ」
「ヨーランダ、ふざけないで!」
なぜか母と姉の言いあいになってしまった。
いまさらパーティーを開くにしても、誰を呼べばいいのかもわからない。こういう時は母の友人の子供とか、姉の友達の妹とか、そういう伝手をたどるものなのだろうか。
昔はリントン辺境伯家に対してだけ引きこもりだったのが、今ではすっかり他の人に対しても没交渉になってしまって、引きこもりの伯爵家の娘として他の家からは見られているのではないかと思う。
特にヨーランダが有名人な分、自分への注目が増しているようで、ますます怖くなって出づらくなっている。
かといって、我が家でパーティーを開く時には、最低限の挨拶だけはするようにはしているので外部への私の生存確認にはなって、本当はミュラー伯爵家の末娘は存在しないのではという噂は否定できているのだが。
こんな私が将来社交界に入って、ちゃんとやっていけるのか不安である。絶対に姉と比べられることだろうし。
「お父様とお付き合いのある家の子弟しか招かないわ。安心なさい」
母がそういって話を打ち切ってしまう。ああ、これはもう何を言っても無駄だ。決定事項なのだろうから、と諦めるしかなかった。
私の誕生日パーティーとはいっても、私が何をするでもなく、母が全てを取り仕切ってくれていた。しかしせめて招待状くらいはと、そちらの準備に携わることにした。
同じ言葉を、何度も繰り返して書いて。飽きるのと疲れはどちらが先に来るものだろうかと考えていた時だった。
「あ……」
招待状を出す相手の中にデュークの家名を見つけた。
震える手でペンを取り、招待状を書き始める。特別綺麗な字で書けるように祈りながら、緊張しながらとにかく丁寧に一心に字を綴る。
他の人へ書くのより、倍以上の時間を書けて、同じ文言を書き上げた。
会心の出来だとほっとしながら、自分の字を見つめる。そこに書かれた『お待ちしております』という言葉にそっと。
「この日だけはどうか、私のために来てくださいますように」
そう、呟いていた。
「気になるの?」
お母様とお姉さまと刺繍をしていた時に、なんとなく気になっていたことを口にすれば、お姉さまの眉がぴくりと動く。
それに対してお母様はのんびりと糸の始末をしていた。
「それなら、今度の貴方の誕生日パーティーにお呼びしなさい」
「やっぱりしなければならないの?」
私の誕生日は夏の終わり。毎年、社交シーズンで家族が領地を出払う前に開きたいと言われていたけれど、ある年齢からか、華やかな場所で主役となるのが苦手であることに気づいてから、パーティは開かずに家族の内でささやかに祝うだけにしてもらっていた。
「毎年、開きたくないと貴方がいうから誕生日パーティーは開かないでいたけれど、今年は絶対に開かなければダメよ」
そう母に言われてため息をついた。理由はわかっている。
私の来年の社交界デビュー前に、いいかげんに娘の交友関係を広げさせたいという魂胆なのだ。
親として娘を心配してくれるのはわかるけれど、よりによって自分の誕生日にそんな拷問のようなことをしたくないとも思ってしまうのはいけないことだろうか。
私が気乗りしないのを見てとったのか、姉が割り込んでくれた。
「無理する必要ないわよ。カリンだって社交界でのお披露目が終わったら、知り合いが増えるでしょうし」
「そうやってヨーランダがカリンを甘やかすから、どんどんと引っ込み思案になるのでしょう?」
「そんなことないわよ。カリンは芯が強い子よ。いざとなればお友達くらいダースで作れるわ」
「ヨーランダ、ふざけないで!」
なぜか母と姉の言いあいになってしまった。
いまさらパーティーを開くにしても、誰を呼べばいいのかもわからない。こういう時は母の友人の子供とか、姉の友達の妹とか、そういう伝手をたどるものなのだろうか。
昔はリントン辺境伯家に対してだけ引きこもりだったのが、今ではすっかり他の人に対しても没交渉になってしまって、引きこもりの伯爵家の娘として他の家からは見られているのではないかと思う。
特にヨーランダが有名人な分、自分への注目が増しているようで、ますます怖くなって出づらくなっている。
かといって、我が家でパーティーを開く時には、最低限の挨拶だけはするようにはしているので外部への私の生存確認にはなって、本当はミュラー伯爵家の末娘は存在しないのではという噂は否定できているのだが。
こんな私が将来社交界に入って、ちゃんとやっていけるのか不安である。絶対に姉と比べられることだろうし。
「お父様とお付き合いのある家の子弟しか招かないわ。安心なさい」
母がそういって話を打ち切ってしまう。ああ、これはもう何を言っても無駄だ。決定事項なのだろうから、と諦めるしかなかった。
私の誕生日パーティーとはいっても、私が何をするでもなく、母が全てを取り仕切ってくれていた。しかしせめて招待状くらいはと、そちらの準備に携わることにした。
同じ言葉を、何度も繰り返して書いて。飽きるのと疲れはどちらが先に来るものだろうかと考えていた時だった。
「あ……」
招待状を出す相手の中にデュークの家名を見つけた。
震える手でペンを取り、招待状を書き始める。特別綺麗な字で書けるように祈りながら、緊張しながらとにかく丁寧に一心に字を綴る。
他の人へ書くのより、倍以上の時間を書けて、同じ文言を書き上げた。
会心の出来だとほっとしながら、自分の字を見つめる。そこに書かれた『お待ちしております』という言葉にそっと。
「この日だけはどうか、私のために来てくださいますように」
そう、呟いていた。
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