【完結】貴方が好きなのはあくまでも私のお姉様

すだもみぢ

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第七話 夏の日のおでかけ

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 そんな夏のある日、事件が起こった。
 姉が出かけてしまって屋敷にいない日に、唐突にデュークがやってきたのだ。しかも父たちのいる本館ではなく、私や姉の住む離れに直接来たのだから、作為的だろう。
 慌てふためくメイドに指示し、とりあえずいつもの応接間に通すようにする。

「デューク、いらっしゃいませ。申し訳ありません。本日、ヨーランダは外出しております」
「ああ、うん、知ってるよ。知ってて顔を出したんだ。それに先触れも出さずにきたから、会えないの前提だしね」
「どうなさいましたか?」
「今日はカリンに用事なんだ。よかったら一緒に街に出掛けてほしいんだよ」

 カリンなら家に大体いるとはいえ、会えてよかったと、デュークは笑顔を見せる。
 こんな突然に、一体どういうつもりだろう、と思いつつも外出のお誘いに心が浮き立ってしまった。
 これはもしかして、デートというものでは、とも思うが、そんな風に思うのははしたないと、自分を否定する思いもあって。

「ヨーランダへのプレゼントを、一緒に選んでほしいんだ」
 そう続けて言われて、嬉しさが急速にしぼむと同時に納得もした。
 そういえば、そろそろ姉の誕生日だった。

「そういうことなら喜んで」

 私も姉へのプレゼントを選びたいから。
 この内緒のお出かけには共犯にメイドたちも引き込んで。お父様たちにも、もちろんお姉さまにも内緒に、とお願いをする。持って帰ってくるお土産が口止め料代わりだ。

「カリン、その帽子、かぶってくれてるんだね。似合っている」

 領内とはいえ、街に下りるならとそれに見合う格好に着替えた私だが、デュークから貰った帽子をかぶることは外せなかった。
「ありがとうございます、気に入ってます。でも、私にまでお気遣いいただかなくてもよかったのですよ」
「そんな大したものではないから気にしないで」
 そういうデュークに苦笑しかできない。
 デュークは少し、女心が分かってないなと思う。
 贈り物をする際、姉だけでなく妹の私にも、と気遣ってくれるのは嬉しいが、恋人とその妹にお揃いだったり同等レベルだったりするものを贈っていいのだろうかとも思う。
 姉は気にすることないと言っているが、やはりどうしても気にしてしまう。恋人なら差別化してほしいのではないかと思うが、姉は男性からプレゼントを貰い慣れているのか、まるっきり気にしている素振りがない。

「私なんて誘わなくても、デュークのセンスなら、お姉さまは喜ぶと思うんですけれど」
「そうでもないかな」

 そう言ったデュークの顔色が少し悪いような気がする。

「デューク?」
「なんでもないよ。カリンもプレゼントを選ぶんだろ?」

 そして私の案内で、若い子に人気のガラスの専門店に入る。
 そこで主に扱っているのはただのガラスではなく、クリスタルガラスと呼ばれるものだ。アクセサリーも多く扱われている。
 宝石ほど値が張らないが、しかし上質なカッティンググラスは人気で、自分用にはちょっとお高くてもプレゼントには最適だ。
 お小遣いはもらっていても、私の場合はほとんど本に消えるので、こういう綺麗なものを誰かのためにでも買うのは、ちょっと心が躍る。
 こういう女性向けなところはあまり来ないのか、居心地が悪そうにデュークが辺りを見回している。
 そして、手近なブレスレットのコーナーに近づいていった。

「指輪と違ってブレスレットだったら、サイズ考えなくてよさそうかな」
 店に入った時の様子を見て、プレゼントをし慣れてないのかと思ったが、そんなこともなさそうだ。
「ヨーランダは鮮やかな色を好むよね……この辺りかな。どう思う?」
「ああ、お姉さまにぴったりですね」

 紅い珊瑚とキラキラ光るガラスが組み合わさり、金のチェーンで繋がったブレスレットだ。

「そして、君はこれが好みかなと思うんだけれど、どう?」
 瑠璃とクリスタルガラスが銀のチェーンで繋がっているシンプルなブレスレットを指さされる。
 深い藍色とガラスの煌めきが美しくて、ため息をついてしまった。

「やはりデュークのセンスは間違いがないですね。いつもうちにお土産に下さるものも、この姉へのプレゼントの選び方も素晴らしいですしね」
「君のお墨付きなら安心かな」

 私の方は、姉のためにガラスで作られたペンを選び、一緒にインクも包んでもらうことにした。

「君のおかげでいいものが選べた。ありがとう」
「こちらこそ。連れてきていただき、ありがとうございました」

 店から出て、いい買い物ができたと喜びながら、メイドたちへの賄賂……もとい、お土産を買いにお店を物色している時だった。
 
「今日、付き合ってくれたお礼」
 目の前に唐突に、ばさっと華やかな色が溢れた。

「綺麗……」

 キャンディの花束だ。
 色のついた包み紙が花びらのようになっていて、ぱっと見では本物の花束に見えてしまう。
 その中の1本を取り出すと、デュークは器用に片手でその包み紙をはがし、はい、と私の口に飴を入れてくれた。柄の部分が棒付きキャンディーのようになっていて持てるので、手を汚すこともない。

「少し子供っぽいかと思ったけれど、もう、どんどんとこういうのが似合わない歳になっていくから、今のうちに君に渡したかったんだ」
 俺の自己満足だからもらって? と照れたように鼻を掻くデュークに、胸の奥がツキン、と痛む。
 
「あ……ありがとうございます」

 彼の言葉に、自分の子供の時期が終わっていくのだ、と思い知らされた。
 今はまだ子供だと許されているから、姉の恋人とこのように一緒に出掛けることもできるけれど、いつか、このように二人きりで出かけることもなくなるのだろう。

 二人が結婚したならば、家族として私はデュークの傍にいられるのだろうか。
 それもダメだ。大人の男女が二人きりで出かけていたら、どんなに清い関係だとしても、痛くもない腹を探られるだけだろうから。

 そしてハッとする。

 私は何を考えているのだろう。
 それ以上は考えてはいけない、と心の動きに蓋をする。


 口の中の飴は、甘いはずなのに、なぜかひどく苦く感じた。 
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