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第六話 夏帽子
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――それから一年が経った。
家では兄が結婚し、家族が増えた。
最初のうちは伯爵邸で暮らしていた兄夫婦であったが、お義姉様が妊娠されてから容態が思わしくなく、夫婦とわずかな使用人を連れて、静かな別邸で暮らすこととなった。
本館に行けばいつでも会えていたはずの家族に、滅多に会えなくなると思えば淋しくて仕方がないが、仕方がない。
そして今はまだ、ここ領地にいる姉だが、夏が終われば王都の方に行ってしまう。
しかもまだ社交界デビュー前の私はこちらでお留守番。
私も本格的に淑女教育が始まり、家庭教師に来ていただいたりもしたが、お母様やお姉さまが既に教えてくださっていたこともあって、そこまで忙しく新しいことを学ぶこともなかった。
今ではこの家にいて楽しみなのは、たまに顔を出してくれるデュークの存在だけだろうか。
しかし、デュークも後継者としての教育が始まっているようで、少しずつ家に来る頻度も間遠になってはいた。
それでも姉だけでなく、私にも手紙や小さなプレゼントなどの気遣いをしてくれるのも、紳士的で嬉しかった。
お姉さまのおかげでデュークとも仲良くなれて本当によかった。
あのまま、幼い日の喧嘩別れのまま疎遠になってしまっていたら、今のようなやり取りもないままだったろう。
今ではあの時にデュークに突き付けられたカエルの大きさは、思い出の中でもちゃんと普通の大きさになっている。
「お嬢様方に、デューク様よりお届け物です」
初夏になろうとしていた頃に、王都の有名な店の箱に入ったものが届けられた。
その独特の形状の箱には、何が入っているかは外からでもわかる。
私の名前の書かかれたカードの箱を開けてみれば、淡い水色の帽子が入っていた。
「素敵な帽子……」
「カリンの目の色に合うわね」
私が箱を開くのを眺めていたお姉さまは、なぜか満足そうにうなずいている。
私の目は薄いブルーだからこそ、デューク様はこの色を選んでくれたのだろうか。
夏用のその帽子はツバが広く、これからの季節の暑さを和らげてくれることだろう。
お姉さまには大きな向日葵の造花が着いている白い帽子で、茶色のリボンが大人っぽさの表れに思えた。
私の帽子には青い小さなネモフィラの造花に、透けた白レースのリボンで彩られているが、華やかなものには気後れをしてしまう自分のことを考えてくれたのかもしれない。
私と姉をよく知っているからこその選択に思える。
「デュークって、本当にセンスいいわよね」
「そうね」
姉はそっけなく笑うが、去年の春に、この家に訪れた時の彼は、いかにも親や大人に言い含められたような、伝統的な服装だった。
彼の都会的な洗練された物腰に振舞いは、きっと姉が付き合っている間に、彼にそれとなく教えてきたのだろう。姉はそういう時の褒め方がとても上手だから。
姉は私にも「それはダメよ」などと高圧的な物言いをせず、「この方がもっとずっと貴方の良さを引き立てるわ」と言って褒めてくれる。
装うことにそれほど興味がなかった私を励まし、美しくいることは、他人に対する礼儀だと教えてくれたのも姉だった。
もし私が社交界に出て、誰からもけなされないような淑女になれたとしたら、それはお姉さまのおかげ。
私はずっとお姉さまのようになりたかった。
私には、とても無理なことだと、デュークが姉に会いに来るために来た、あの春の日からわかっていることなのだけれど。
家では兄が結婚し、家族が増えた。
最初のうちは伯爵邸で暮らしていた兄夫婦であったが、お義姉様が妊娠されてから容態が思わしくなく、夫婦とわずかな使用人を連れて、静かな別邸で暮らすこととなった。
本館に行けばいつでも会えていたはずの家族に、滅多に会えなくなると思えば淋しくて仕方がないが、仕方がない。
そして今はまだ、ここ領地にいる姉だが、夏が終われば王都の方に行ってしまう。
しかもまだ社交界デビュー前の私はこちらでお留守番。
私も本格的に淑女教育が始まり、家庭教師に来ていただいたりもしたが、お母様やお姉さまが既に教えてくださっていたこともあって、そこまで忙しく新しいことを学ぶこともなかった。
今ではこの家にいて楽しみなのは、たまに顔を出してくれるデュークの存在だけだろうか。
しかし、デュークも後継者としての教育が始まっているようで、少しずつ家に来る頻度も間遠になってはいた。
それでも姉だけでなく、私にも手紙や小さなプレゼントなどの気遣いをしてくれるのも、紳士的で嬉しかった。
お姉さまのおかげでデュークとも仲良くなれて本当によかった。
あのまま、幼い日の喧嘩別れのまま疎遠になってしまっていたら、今のようなやり取りもないままだったろう。
今ではあの時にデュークに突き付けられたカエルの大きさは、思い出の中でもちゃんと普通の大きさになっている。
「お嬢様方に、デューク様よりお届け物です」
初夏になろうとしていた頃に、王都の有名な店の箱に入ったものが届けられた。
その独特の形状の箱には、何が入っているかは外からでもわかる。
私の名前の書かかれたカードの箱を開けてみれば、淡い水色の帽子が入っていた。
「素敵な帽子……」
「カリンの目の色に合うわね」
私が箱を開くのを眺めていたお姉さまは、なぜか満足そうにうなずいている。
私の目は薄いブルーだからこそ、デューク様はこの色を選んでくれたのだろうか。
夏用のその帽子はツバが広く、これからの季節の暑さを和らげてくれることだろう。
お姉さまには大きな向日葵の造花が着いている白い帽子で、茶色のリボンが大人っぽさの表れに思えた。
私の帽子には青い小さなネモフィラの造花に、透けた白レースのリボンで彩られているが、華やかなものには気後れをしてしまう自分のことを考えてくれたのかもしれない。
私と姉をよく知っているからこその選択に思える。
「デュークって、本当にセンスいいわよね」
「そうね」
姉はそっけなく笑うが、去年の春に、この家に訪れた時の彼は、いかにも親や大人に言い含められたような、伝統的な服装だった。
彼の都会的な洗練された物腰に振舞いは、きっと姉が付き合っている間に、彼にそれとなく教えてきたのだろう。姉はそういう時の褒め方がとても上手だから。
姉は私にも「それはダメよ」などと高圧的な物言いをせず、「この方がもっとずっと貴方の良さを引き立てるわ」と言って褒めてくれる。
装うことにそれほど興味がなかった私を励まし、美しくいることは、他人に対する礼儀だと教えてくれたのも姉だった。
もし私が社交界に出て、誰からもけなされないような淑女になれたとしたら、それはお姉さまのおかげ。
私はずっとお姉さまのようになりたかった。
私には、とても無理なことだと、デュークが姉に会いに来るために来た、あの春の日からわかっていることなのだけれど。
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