【完結】貴方が好きなのはあくまでも私のお姉様

すだもみぢ

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第十二話 ロケット

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 部屋に戻って本でも読もうかなと思って踏み出したら、足にカツン、と何かが当たった。

「あら、これ……」

 蹴っ飛ばしそうになってしまったそれを見れば、足元にデュークから貰ったロケットが落ちていた。

「え?」

 慌てて胸元を調べるが、ちゃんと自分はロケットを下げている。

「もしかしたら、これデュークのかしら?」

 拾い上げると、カララン、と音がした。

「あれ? なんか音がする」

 ロケットを振るとカラカラとやはり中から音がして。

「ロケット自体にそんな仕組みとかないわよね?」

 自分のロケットを取り外して振ってみるが、中から帽子飾りが揺れる感触はするが、音はしない。デュークは硬質なものを入れているから音が出るらしい。
 随分と音が響くなぁと思ったが、そういえば匂い袋の代わりにもなると言っていたのを思い出した。中の音が外にも響くのは、わざと隙間を作っているからに違いない。

「なるほどねえ。そんな仕組みになっているのね」

 感心しながら両手のものを見比べていたら、片方の手のロケットがふっと消えた。

「え?」
「ここに落としてたなんて……」

 驚いていたら、これを探しながら戻ってきたのだろうか。デュークが息を切らしながらロケットを手に掴んでいる。
 いつの間にドアを開けていたのだろうか。遅れてドアがバタンと閉じた大きな音がした。
 ロケットが消えたと思ったのは、デュークが取り上げたからのようだった。しかし。

「そっちが私の……っ」
「え?」
「触らないで! 返して!」

 慌ててデュークの手から自分のロケットを取り上げようとするが、驚いたデュークが私の手を反射的に避けてしまったので身長差でロケットが高い位置に持っていかれてしまう。

「……何をしているの?」

 私とデュークがもみ合っていると、ちょうど玄関のドアが開き、母と姉が入ってきた。
 デュークがそちらに気を取られている隙に強引にデュークの腕に縋りつき、体重をかけて引いて下げさせれば、彼の手から自分のロケットをもぎ取る。
 そして持っていた方をデュークに押し付ける。その拍子に、中からカラカラ、と音がした。間違いない、こちらがデュークのだ。開けなくてもわかる。
 ああ、こんなことにならないように、チェーンを交換したり、外に自分のイニシャルでも刻んでおけばよかった。そう思ってももう遅い。

「ご、ごめん……」
「……」

 私が無言でロケットを首から下げると、ようやく安心して気が抜けた。
 別に私のロケットをデュークが取り上げようとしたわけではないのはわかっている。しかし、中に入っているものを、誰にも知られたくない……いや、デュークにだけは見られたくなかったから。
 ようやく気持ちが落ち着けば、デュークに申し訳ないことをしたという思いがわいてきた。

「ううん、私こそ、ごめんなさい……」

 私がデュークに向かって頭を下げていたら、落ち着いた声に諭された。

「……で、あなたたち、仲直りしたのかしら? もういいの?」
 私たちを眺めていた母の言葉に、はっと二人して気まずい顔を晒すことになった。
 別に喧嘩をしていたわけではないのだが、あの瞬間だけ取り上げたらそのように見えただろう。

「お帰りなさい」
 とりあえず、母と姉にそれは言っておこう。
「はい、ただいま」
 何もなかったように流してくれたのが嬉しい。人前でもみ合っていたのはみっともなかったが、このように感情的に行動したのはいつぶりだろうか。
 
「お揃いのロケットなのね」
 ふぅん、と姉が私をちらりと見てから、デュークを見る。
 何か言いたいのだろうかとドギマギするが、姉が何も言わずにそのままデュークの方に手を差し出した。

「デューク、ありがとう。お父様のところへの御用でしょ。私が受け取るわ」

 お姉さまの目がデュークが持っている封筒に注がれている。封蝋の印章を見て、彼がここに来た用事を察したらしい。

「いえ、ちゃんと自分で持っていきます」
「そう? それではお願いね」

 デュークが断ると姉が頷き、お疲れ様ですと他人行儀に頭を下げるが、デュークがロケットを首から下げようとしているのを見て、口を開いた。

「そのロケット、留め金部分がダメになっているんじゃない?」
「ああ、それで落としたのか」
 そう呟くと、そのままロケットをズボンのポケットに入れて出ていこうとする時に、姉がもう一度彼に声をかけた。
 
「デューク、夕食は食べていくのでしょう?」
「いえ、今日は失礼させていただきます」

 姉の言葉に丁寧にだが、淡々と答えるデュークに少し違和感を感じる。
 以前はもっと砕けた話し方をしていたというのに。
 姉は変わらないのに、デュークの方が姉に距離感を感じているような接し方をしている気がする。
 
「そう、じゃあ気を付けて帰ってね」

 黙ったままぎこちない笑みを浮かべて去っていったデュークはいったいどうしたのだろう。
 私が首を傾げていたら、ため息をついたお姉さまに、小さくコツン、と額を突かれた。

「デュークの気持ち、もう少し考えてあげましょうね」

 そんなことを言われたけれど。
 私がデュークの気持ちを蔑ろにしたとでもいうのだろうか。

 姉に注意されたことの意味がわからなくて、困惑するだけだった。
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