【完結】貴方が好きなのはあくまでも私のお姉様

すだもみぢ

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第十三話 婚約の申し入れ

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「私のアクセサリー類、置いていくから、カリン、自由にお使いなさいね」

 モウト侯爵家に居を移すという前日に、お姉さまがアクセサリーを入れた箱を荷物の中から抜いてきた。
 あらかた姉のものはあちらの邸宅に移されていたが、これはまだ残されていたのだろう。

「いいの?」
「私が使うものは別にしてあるわ。結婚したらもう使えそうになさそうな幼いデザインのものばかりだし、他の男性からいただいたものなんて、彼に悪くて持っていけないでしょう?」
「バカね、そういうのこそ女の勲章よ。歳とってから後で見て、ニヤニヤするのよ」

 母の言葉にそういう時が来るのかなぁと思っていれば、姉はいいのよ、と首を振る。

「それなら、カリンに使ってもらった方がアクセサリーも喜ぶわよ」
 だから貰ってね、と押し付けられたが、どうすればいいのか対応に困ってしまう。
 とりあえず開いてみたが、思った以上に多種多様なものと、それなりの値段がしそうなものもあって、受け取るにも気が引ける。
 姉がモテていたのは知っていたが、男性からそんなに貢がれていたのね、と思うとわかっていてもさすがだ。
 自分が使おうかどうかというわけではなく、ただ眺めていたが、その中に1つ、見覚えのあるものがあって思わず手に取った。

「どうしたの?」
「ううん、なんでもないの」
 手の中に思わず隠して、そしてそれをまた丁寧に箱に入れる。
 それは、自分とデュークが一緒に出掛けた時に、彼が姉のために買ったブレスレット。
 自分とデュークの二人の思い出の物も、ここに置いてけぼりにされるのだと思うと、なんとなくあの夏の思い出までもが色あせたような気になってしまう気がする。
 そんな自分の未練を断ち切るように、パタン、と箱を閉じた。








 ――半月後。


 珍しく父の書斎に呼ばれた。

 邸宅の中でも書斎は当主として父が仕事を行う部屋。
 執事や従僕などは立ち入りを許されていても、他の者は呼ばれた時以外は立ち入り禁止が原則だった。
 何事だろうと足を踏み入れれば、母もそこにいた。
 ソファに座るよう指示をされ座れば、目の前に先ほど届いたという先触れの書簡と、これから正式な使者が来るということを告げられた。

「先にこの件について話し合っておく必要がある。リントン辺境伯から、子息デューク殿とお前の婚約の申し入れがあった」
「……私に、ですか?」
「ああ」

 父はどっかりと座り込むとなぜだろう、がっくりと肩を落としている。
 
「ヨーランダの結婚が決まるまでに時間がかかったと思ったら、カリンの方は一瞬だったな。まだ社交界に出入りもしていないというのに……」
「あなた、まだお受けすると決めたわけではないですよ」
 母は父の隣に座り、肩に手を当てて慰めている。
「カリン、そんなに急いで決める必要もないのよ? 社交界で広い世界を見て、他の人を知ってからでもいいし。でもデュークならいいと思うわね……むしろダメな要素あるかしら?」

 急いで決める必要もないと言われたその口で、母に逃げ場を潰されている気がするのだが、気のせいだろうか。
 お姉さまとデュークがお付き合いしていたという点がかなりの減点要素な気もするのだけれど、両親はその辺りは気にしないようだ。そういうものなのだろうか。
 もしかしたら、その事自体を知らなかったのかもしれないが。

「……お姉さまがいたらなんておっしゃってたかしら」

 姉はもうここにはいないけれど、思わずそう口にしてしまったら、母にたしなめられた。

「なんでもかんでもヨーランダに頼るのはやめなさい。それは貴方の悪いところよ。自分の結婚なのだから、自分で決めなさい」

 それはそうだけれど、でも……。

「とりあえずはまだ社交界デビューをしていないのだから、婚約式をいつにするかだよな。ヨーランダのようにバタバタするのはもうごめんだ」
「そうね、婚約期間が長いことで不都合はないのだしね。お相手も領地が近いからほんと楽だわ」

 ……こんな言い方をされたら、もうこの結婚は決まっているようなものではないのだろうか。
 私は小さくため息をついた。

「お受けいたします。使者様にそのようにお答えください」
 私がそういうのが分かっていたかのように、父が頷いた。
 そして私を見つめるその目が潤み、そっとハンカチで父が目頭を押さえている。歳なのだろうか。父の涙腺が緩くなっているようだ。
「そうか」
「あなた、泣かないで。カリンはまだまだ子供だから、お嫁に行くのは随分と先よ」

 しんみりとしている二人を見ていると、断った方が親孝行だったような気がしてきたが。

「あ、お嬢様」
「私のお茶はメアリーが飲んで」

 ドアを開けたらお茶を運んできてくれたメイドと入れ違いになる。
 本人よりも感傷的になっている両親に付き合ってられない、と一足先に執務室を逃げ出した。
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