【完結】貴方が好きなのはあくまでも私のお姉様

すだもみぢ

文字の大きさ
25 / 26

第二十五話 ロケットの中身

しおりを挟む
 デュークがヘタレとか格好悪いとか、そんな風には思えない。しかし、彼が自分のためにものすごく努力をしてくれてたようなのは伝わった。
 そして自分が誤解をしていたのも。

「あの……その、ごめんなさい」
「いや、俺が悪いよ。ごめんな……。まさか、君からそんな心配されてるなんて思ってもみなかったからさ……。あー、でもそれは俺が君を好きで、ヨーランダにも好きな人いるのを知ってたから言えることだよな……。傍から見たら誤解受けるのも当然かぁ……。君からどう見られるかとか全然気にしてなかった。一番気にしなければいけなかったのに。お互いありえなさすぎて、考えから抜けてたよ……」

 デュークのへこみっぷりがすごくて、困ってしまう。一人反省会をしながらブツブツ言っている彼をどう慰めたらいいのかもわからず、とりあえず、その頭でも撫でたらいいのだろうかと思うが、彼の背が高くて届かない。
 そうこうしていたら、デュークにぎゅっと抱きしめられていた。

「ヨーランダとの約束なんか律儀に守らないで、もっと早く君が好きだって言えばよかったんだ。婚約したのに浮かれて、君が俺を好きだと思い込んで、勝手に両想いだと思って、肝心なことを言いそびれていたなんて、馬鹿だよ、ごめん」
「デューク」

 嬉しすぎて自然に浮かんだ目尻に浮かんだ涙を、彼は懐から出したハンカチで拭いてくれる。

「このこと、ヨーランダには黙っててくれないか? 君を泣かせたと知ったら、叱られるから」
「まさか」
「本当だよ。あの人、君のことを『カリンは私の娘も同然よ。私が神様に毎日毎日毎日毎日お祈りしてようやく生まれた妹なんだから』っていう人なんだぞ」
「お姉さまったら」

 デュークの言う冗談に思わず笑ってしまったが、なぜかデュークは複雑そうな顔をしている。

「私、愛されていたんですね」
「そうだよ。悩んでいるくらいなら言って? なんでも答えるから」
「じゃあ早速……この刺繍のハンカチは、どなたからいただいたんですか? それと、あの時、座らせてくださった時に敷いてたハンカチも……」

 彼の持っているハンカチを受け取り広げた。どちらが表かわからないような見事な刺繍だ。
 買ったものではなさそうなのは、見ればわかる。

「これ? 母上の縫ったものだよ」
「え、伯爵夫人?」
「なんかあまり気に入らないからって、息子に押し付けられてるよ。本命なのは社交界で奥様方とプレゼントしあったり、父上のとこにいったり、バザーに出したり? 失敗作が俺のところにたくさんある」
「え……」

 このクオリティのものがそんな扱いなら、私のなんてとうていデュークに渡せないではないか。
 刺繍はそれほど苦手だとも思わなかったけれど、プロ級の目を持つ人の前に出せるものではない。

「そういうことするの好きみたいだよ。いつも土産に持っていくクッキーも、あれも母上お手製のだな。カリンの大好物らしいと君の兄さんに聞いたから、いつも張り切って焼いている。なんでも母上のクッキー食べて、こんなに美味しいもの食べたの産まれて初めてだって言ったんだって? 母上がとても喜んでいたのを見せてあげたかったよ」
「きゃー、言わないでっ」

 辺境伯夫人自ら厨房に入ってるの!? という驚きより、過去の自分の言動を思い起こさせられて、恥ずかしさに顔を隠すしかない。今の自分はきっと、耳まで赤くなっているだろう。
 リントン家にばらしたのはお兄様だったとは。今度会ったら思いっきり文句を言わないと。
 もしかしたら、この家に来た時にいただいたあのお菓子も夫人の手作りだったのかもしれない。だからそれを知っていたから母が大げさに振舞い、夫人も嬉しそうにお笑いになったのだろうか。

「カリンにもっと手作りのお菓子を食べてもらいたいから、早くうちに嫁に来てほしいって言ってたな。持ち運べなかったり日持ちがしなかったりするものを、作りたいからって。俺と君が婚約することが決まって、一番喜んだの母上かもしれないな。俺はもちろん除いて」

 もうやめてほしい。どれだけ私、食べるの好きだと思われているの。
 そんな食い意地張ったような娘なんかを嫁に迎えていいのだろうか。

「家同士のメリットのある結婚ってだけでなく、君が俺の妻になってくれるのを、皆が楽しみに待っているんだよ。俺の好きな人は、みんなからもモテて困ってる……。でも、改めて言わせてもらうよ。俺と結婚してほしい」

 この目に浮かぶ涙は、きまり悪さからだろうか、それとも嬉し涙だろうか。
 もうわからないけれど、その言葉に、イエス以外は思いつかない。
 でも、心が一杯で何も言えなくなってしまって。
 自分から彼に頷きながら抱き着いて、その気持ちを態度で表すしかなかった。

 彼に抱き着いた瞬間、彼の胸元から聞き覚えのある、カラン、という音がした。

「デュークのロケットの中身には、何が入っているのですか?」
「……」

 なんでも訊いてと言われたけれど、その中身は他人に言えないようなものかもしれなくて。例えば、辺境伯家の印章指輪だったりしたら、自分が訊いていいものではないだろうし。
 だから、一瞬、言いよどんだ彼を見て、やっぱりいい、と止めようかと思ったが。
 彼は自分のロケットを外すと中をぱかっと開けて見せてくれる。中からは。

「なんですか、これ」

 薄い水色の宝石が中から転がり出て、彼の手の上に落ちた。

「アクアマリンという石だよ。でも、その石自体はあんまり意味がなくて。……カリンの目の色にそっくりだなって思って……持ってただけ」

 彼に手渡された石を手に取り、透かすようにして見る。
 自分で自分の目の色なんて意識したことがなかったから、こんな色なのか、と思わずしげしげと見入ってしまった。
 彼が身近に自分に縁のあるものを持っていてくれたことは嬉しいけれど、それを恥ずかし気もなく言われたことがなぜか自分の方が恥ずかしい。デュークはもう開き直ってしまったのだろうか。

「えっと……カリンのロケットの中に入っているものも、見せてもらっていい?」
「いいですけど……きっとわからないでしょうね」
「え、分からないって何?」

 私がロケットを開けて中の物をデュークに見せたら、思った通り、デュークは眉を寄せてそれを見つめている。
 布でできた小さなネモフィラの花を指先で摘まみ上げ、手のひらの上にのせて、うーんと唸っている。

「なんだろ、これ。見覚えあるのだけれど……」
「気づかなくていいですよ」
「気になるじゃないか」

 それがさすがに自分がプレゼントした帽子についていた飾りだとは気づけないようだ。
 なんだろうと必死で考え込んでいるデュークを隣で微笑みながら見つめる。
 
洗練されていて、センスが良くて、魅力的だと思っていたデューク。

 それが彼の努力の結果だとしたなら、きっと初めて好きになった人がくれたものを、捨てかねて取っておくような乙女心にはきっと気づかないだろう。

 でも、なんとなく、こんなデュークの方が安心できるような気がして、そっとその耳に小さく囁いた。

「私は、そんなデュークが、好きですよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

さよなら 大好きな人

小夏 礼
恋愛
女神の娘かもしれない紫の瞳を持つアーリアは、第2王子の婚約者だった。 政略結婚だが、それでもアーリアは第2王子のことが好きだった。 彼にふさわしい女性になるために努力するほど。 しかし、アーリアのそんな気持ちは、 ある日、第2王子によって踏み躙られることになる…… ※本編は悲恋です。 ※裏話や番外編を読むと本編のイメージが変わりますので、悲恋のままが良い方はご注意ください。 ※本編2(+0.5)、裏話1、番外編2の計5(+0.5)話です。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください

里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。 そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。 婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。

余命わずかな私は、好きな人に愛を伝えて素っ気なくあしらわれる日々を楽しんでいる

ラム猫
恋愛
 王城の図書室で働くルーナは、見た目には全く分からない特殊な病により、余命わずかであった。悲観はせず、彼女はかねてより憧れていた冷徹な第一騎士団長アシェンに毎日愛を告白し、彼の困惑した反応を見ることを最後の人生の楽しみとする。アシェンは一貫してそっけない態度を取り続けるが、ルーナのひたむきな告白は、彼の無関心だった心に少しずつ波紋を広げていった。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも同じ作品を投稿しています ※全十七話で完結の予定でしたが、勝手ながら二話ほど追加させていただきます。公開は同時に行うので、完結予定日は変わりません。本編は十五話まで、その後は番外編になります。

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

処理中です...