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第二十四話 世紀の女帝 <デュークの回想2>
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「私が知らない間に、そんなことが……?」
驚いて目を瞬かせているカリンを見て、大きくため息をついた。
「もう混じりっ気なしの全部、本当のことだからな」
嘘をついてるなんて思いません、と首を振るカリンが可愛い。ものすごく可愛い。この愛らしさを表すような語彙力が俺にないのが悲しいくらいに可愛い。
首を振る度に揺れるさらさらの栗色の髪に何度口づけたいと思ったことか。
こんな可愛い子が傍にいるのに、なんで俺がヨーランダを好きになるなんて思うのだろう。
****
世間一般には世紀の淑女と呼ばれているヨーランダだけれど、俺からしたら世紀の女帝にしか思えない。
そんなこと、姉を淑女と信じているカリンには絶対に言えないのだけれど。
俺がカリンが好きだというのを知っているのでヨーランダは容赦がなかった。
彼女視点からしたら、俺は可愛い妹を奪っていく男そのものだったのだから。
女性不信になりそうなくらい……ヨーランダはスパルタだった。
手紙の出し方1つでも、まず字が汚い、時候の挨拶が時期外れ、言葉の選び方のセンスがない、とダメ出しの嵐。赤字で添削されて突き返されて。
服装も、生地から色の選び方から、季節、服を着る場所やら、光源やらも意識して選べと叩きこまれ、服なんて着ていればいいじゃないかと思っていた自分を絶望に叩き落とした。
話す内容にも教養を見せろと課題図書を出され、その内容に関してまとめて送ってこい、半年に1度はやってきて、自分の出すテストを受けろと命じられた。
――テストの度にカリンと会えると思うからこそ、耐えられたような気がする。
「カリンと話せる権利」と「しごき」という飴と鞭が俺には最適と見越していたようで、ちゃんと何かと二人きりの時間も作ってはくれたようだったが、やはり厳しいことは厳しくて。
一度なんか、せっかく話が盛り上がりそうだったのにヨーランダが飛んできた。そしてカリンを優しく部屋に追い払うとドアを閉めた途端に、地獄のお説教タイムが始まった。
「なんで思っている相手と話す内容が軍記物なのよ!戦争物なのよ! 貴方はカリンと恋仲になりたいんでしょう? 少しはロマンチックな話題にしなさいよ!」
「カリンが俺と同じものが好きだというのが嬉しくて……」
「それなら二人で絵を見るとか、親密度を上げるような努力をしなさい。ただでさえ貴方の好感度、マイナスからスタートなのよ、それ自覚しているの?」
指を突きつけられての好感度マイナススタートという指摘に、ぐうの音も出なかった。
プレゼント1つ渡すにも厳しいチェックがあった。
「今度、王都に行くから、カリンにプレゼントをしたいんだけれど、何がいいと思う? 今評判の帽子店があるみたいだから、鮮やかなオレンジ色の帽子なんかどうかな」
と相談をすれば。
「なんでそこで濃いオレンジ色の帽子をプレゼントしようとするのよ。貴方はいつの季節に住んでいるのかしら。これから夏になるんだから、その人のイメージと合わせて涼し気な淡い色を選びなさいよ」
と、侮蔑の混じった目で見られてしまった。
「カリンの目は空のように淡いブルーよ? その色に合う色を選びなさい」
「どうせなら色も君が選んでくれよ……」
「私が選んだ色をカリンにまとわせてどうするの。他人に選ばせた色の帽子を贈られたなんて言ったら、百年の恋も冷めるわよ! 自分で考えなさい!」
と蹴飛ばされそうな勢いで怒鳴られた。
淑女はどこいった……?
「あと、カリンだけでなく私にも送りなさいね。下心がばれるわよ。社交界デビュー前の男が単独で女を口説くなんて10年早い!」
と、厳しくはあったが、なんだかんだ言って色々と便宜を図ってくれてはいた。
ヨーランダはカリンの好みの色、花、本などを細かく教えてくれたが、あまりにもガードが固いので、我慢しきれなくなってヨーランダの目を盗み、カリンを連れて街に出たこともあった。
ヨーランダをダシにすれば、カリンは断らないだろうと策略を練って。
ヨーランダの方にもデートをお膳立てをしたのだから、絶対にこちらに邪魔は入らないと踏んで、カリンの元に駆け付けたあの日。
二人きりでの初めてのデートは最高だった。
カリンを独り占めできた半日。
彼女がヨーランダのためにプレゼントを買っている隙に、彼女にと買ったブレスレット。それは彼女は受け取ってくれないかもしれないと思えば渡せなくて、違うものを探して飴の花束を見つけた。
自分の勇気がなくて踏み出せず、一緒に過ごせなかった幼い日を塗り替えたくて。
それと君の唇に、間接的にでも触れたかったと言ったら、清純なカリンは破廉恥だと俺を罵るのだろうか。
飴越しに触れた唇に、それだけで緊張していたなんて、君は知らなかっただろう……。
***
――カリンと仲良くなるためにした努力の日々が、走馬灯のように流れていった。
「デューク?」
鈴の鳴るような声とでもいうのだろうか。ずっと聞いていたいその涼やかな声にはっと我に返った。
一瞬、追憶に耽っていた。目の前のカリンが不思議そうに自分を見つめているのを、見つめ返す。
会う度にどんどんと大人に、花開いていくカリン。その君にどれだけ自分が心惹かれていることか。
その事を君は知らない。
「これだけは信じてくれ」
ヨーランダに、みだりに女性の体に触るなと言われていたが、カリンの手を握りしめて、その空色の目をじっと見つめた。
ああ、陛下に拝謁した時より、狩りで唐突に熊に遭遇した時より緊張する。
「俺は君のことがずっと好きだった。本当の俺は女性を喜ばせるようなことなんて言えないし、センスだって悪くて、大事な時に大事なことも言えない、どうしようもないやつだってわかってる。でも」
あの春の日に君に再会して、笑顔を見たいと思った日から。
「君のことだけをずっと想ってる」
驚いて目を瞬かせているカリンを見て、大きくため息をついた。
「もう混じりっ気なしの全部、本当のことだからな」
嘘をついてるなんて思いません、と首を振るカリンが可愛い。ものすごく可愛い。この愛らしさを表すような語彙力が俺にないのが悲しいくらいに可愛い。
首を振る度に揺れるさらさらの栗色の髪に何度口づけたいと思ったことか。
こんな可愛い子が傍にいるのに、なんで俺がヨーランダを好きになるなんて思うのだろう。
****
世間一般には世紀の淑女と呼ばれているヨーランダだけれど、俺からしたら世紀の女帝にしか思えない。
そんなこと、姉を淑女と信じているカリンには絶対に言えないのだけれど。
俺がカリンが好きだというのを知っているのでヨーランダは容赦がなかった。
彼女視点からしたら、俺は可愛い妹を奪っていく男そのものだったのだから。
女性不信になりそうなくらい……ヨーランダはスパルタだった。
手紙の出し方1つでも、まず字が汚い、時候の挨拶が時期外れ、言葉の選び方のセンスがない、とダメ出しの嵐。赤字で添削されて突き返されて。
服装も、生地から色の選び方から、季節、服を着る場所やら、光源やらも意識して選べと叩きこまれ、服なんて着ていればいいじゃないかと思っていた自分を絶望に叩き落とした。
話す内容にも教養を見せろと課題図書を出され、その内容に関してまとめて送ってこい、半年に1度はやってきて、自分の出すテストを受けろと命じられた。
――テストの度にカリンと会えると思うからこそ、耐えられたような気がする。
「カリンと話せる権利」と「しごき」という飴と鞭が俺には最適と見越していたようで、ちゃんと何かと二人きりの時間も作ってはくれたようだったが、やはり厳しいことは厳しくて。
一度なんか、せっかく話が盛り上がりそうだったのにヨーランダが飛んできた。そしてカリンを優しく部屋に追い払うとドアを閉めた途端に、地獄のお説教タイムが始まった。
「なんで思っている相手と話す内容が軍記物なのよ!戦争物なのよ! 貴方はカリンと恋仲になりたいんでしょう? 少しはロマンチックな話題にしなさいよ!」
「カリンが俺と同じものが好きだというのが嬉しくて……」
「それなら二人で絵を見るとか、親密度を上げるような努力をしなさい。ただでさえ貴方の好感度、マイナスからスタートなのよ、それ自覚しているの?」
指を突きつけられての好感度マイナススタートという指摘に、ぐうの音も出なかった。
プレゼント1つ渡すにも厳しいチェックがあった。
「今度、王都に行くから、カリンにプレゼントをしたいんだけれど、何がいいと思う? 今評判の帽子店があるみたいだから、鮮やかなオレンジ色の帽子なんかどうかな」
と相談をすれば。
「なんでそこで濃いオレンジ色の帽子をプレゼントしようとするのよ。貴方はいつの季節に住んでいるのかしら。これから夏になるんだから、その人のイメージと合わせて涼し気な淡い色を選びなさいよ」
と、侮蔑の混じった目で見られてしまった。
「カリンの目は空のように淡いブルーよ? その色に合う色を選びなさい」
「どうせなら色も君が選んでくれよ……」
「私が選んだ色をカリンにまとわせてどうするの。他人に選ばせた色の帽子を贈られたなんて言ったら、百年の恋も冷めるわよ! 自分で考えなさい!」
と蹴飛ばされそうな勢いで怒鳴られた。
淑女はどこいった……?
「あと、カリンだけでなく私にも送りなさいね。下心がばれるわよ。社交界デビュー前の男が単独で女を口説くなんて10年早い!」
と、厳しくはあったが、なんだかんだ言って色々と便宜を図ってくれてはいた。
ヨーランダはカリンの好みの色、花、本などを細かく教えてくれたが、あまりにもガードが固いので、我慢しきれなくなってヨーランダの目を盗み、カリンを連れて街に出たこともあった。
ヨーランダをダシにすれば、カリンは断らないだろうと策略を練って。
ヨーランダの方にもデートをお膳立てをしたのだから、絶対にこちらに邪魔は入らないと踏んで、カリンの元に駆け付けたあの日。
二人きりでの初めてのデートは最高だった。
カリンを独り占めできた半日。
彼女がヨーランダのためにプレゼントを買っている隙に、彼女にと買ったブレスレット。それは彼女は受け取ってくれないかもしれないと思えば渡せなくて、違うものを探して飴の花束を見つけた。
自分の勇気がなくて踏み出せず、一緒に過ごせなかった幼い日を塗り替えたくて。
それと君の唇に、間接的にでも触れたかったと言ったら、清純なカリンは破廉恥だと俺を罵るのだろうか。
飴越しに触れた唇に、それだけで緊張していたなんて、君は知らなかっただろう……。
***
――カリンと仲良くなるためにした努力の日々が、走馬灯のように流れていった。
「デューク?」
鈴の鳴るような声とでもいうのだろうか。ずっと聞いていたいその涼やかな声にはっと我に返った。
一瞬、追憶に耽っていた。目の前のカリンが不思議そうに自分を見つめているのを、見つめ返す。
会う度にどんどんと大人に、花開いていくカリン。その君にどれだけ自分が心惹かれていることか。
その事を君は知らない。
「これだけは信じてくれ」
ヨーランダに、みだりに女性の体に触るなと言われていたが、カリンの手を握りしめて、その空色の目をじっと見つめた。
ああ、陛下に拝謁した時より、狩りで唐突に熊に遭遇した時より緊張する。
「俺は君のことがずっと好きだった。本当の俺は女性を喜ばせるようなことなんて言えないし、センスだって悪くて、大事な時に大事なことも言えない、どうしようもないやつだってわかってる。でも」
あの春の日に君に再会して、笑顔を見たいと思った日から。
「君のことだけをずっと想ってる」
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