【完結】貴方が好きなのはあくまでも私のお姉様

すだもみぢ

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第二十三話 真相 <デュークの回想>

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「いいかげん、今度こそお隣のお嬢ちゃんと仲直りしてこい!!」

 年に1度は訪れるミュラー伯爵領。そこに行こうとしている馬車の中で父上に一喝された。

「そんなこと言われても、カリンが俺の前に顔を出さないんだし」
「元はと言えばお前がカエルなんか投げたからカリンが泣いたんだろ!」

 お前のせいなんだから、お前が謝ってこい、と怒鳴られる。
 俺がカエルを投げたのではなく、カエルが勝手に飛んだのだけれど。そう言ったらますます父上は怒りそうだから言わないけれど。
 俺には仲が悪い女の子がいる。仲が悪いというより、嫌われているだけだけど。
 初めて会った時に、彼女に嫌われるようなことをしてから、もう徹底的に避けられていて、仲直りのチャンスすらもらえなかった。

「俺のことが嫌いなら、顔を見せない方がいいんじゃないの……?」
 そういう思いもあって、こちらから近づかなかった。
 だって、可哀想じゃないか。
 俺だったら、嫌いな相手なんて顔も見たくないのだけれど。
「そんなこといって、いつまでも自分の罪と向き直らないと後悔するわよ」
 母上にもそういわれて、俺の味方が誰もいない状況。
 着いた早々、行ってこいと放逐された。

 仕方がない。もし会いに行っても、相手が顔を見せてもくれなかったらそれまでの話だ。
 そう思って一人で勝手知ったるよそ様の邸内をとことこと歩いていった。とはいっても、庭師や外に出る顔見しりの使用人などとは挨拶しながら行き会ってはいたのだけれど。

 ミュラー伯爵邸は何度も来ているから知っている。本館の改修工事に伴い、カリンとヨーランダの姉妹は離れに移されたから、カリンに会うなら離れの館に行かなければいけない。
 こちら側にはあまり足を踏み入れたことはないが、離れの庭園も綺麗だな、と入っていったら誰かがいた。見るからに愛されて育てられているのがわかるような、どこもかしもが綺麗に整えられたような娘。

「カリン……?」

 見た瞬間にカリンとわかった。
 彼女と挨拶くらいはしていたけれど、彼女はいつも俯いていたから、顔立ちの記憶もあいまいで。しかし、その瞳の色は覚えていたから。
 久しぶりのあの空色の目が、不思議そうに自分を見つめていた。
 あの時、初めて会った時、涙いっぱいで睨まれたきり、彼女の目が自分を映すことはなかったけれど、今、また彼女が自分を見つめている。

 ――うわぁ、可愛い……。

「場所をお間違えでは?」

 そう問いかけられて、自分が無言で彼女を見つめていることに気づいた。

「あ、ヨーランダに挨拶を」

 ――そう、とっさに嘘をついていた。

 本当は、カリンに会いに来た。
 カリンに謝りにきたというのに、こんなところに何しに来たんだ、お前に用事はないだろと心の中で言われた気がして。
 大嫌いな男が、唐突に自分に会いに来ただなんて、自分だったら嫌すぎるから。
 だから「ヨーランダに挨拶を」と、嘘をついてしまったのだ。

 カリンをもっと知っていたら、彼女がそんな意地悪なことを思う子ではないのが分かったのだろうけれど、彼女のことを、その時はほとんど知らなかったから。

 あの時の大泣きしていた小さな女の子はレディに育っていて、きちんと用件を聞いてくれた。なのに俺は、あの時のことを謝れずにいて。
 カリンはヨーランダを呼びにいくと、さっさと部屋に引き上げてしまった。そりゃそうだろう。

「どうしたの? デューク」

 俺にいきなり呼び出されたヨーランダからしたら、何の用だろうと思うのも当然だろう。
 しかし、俺は先ほど会ったカリンのことで頭がいっぱいで、さっそく彼女の姉に相談をした。

「カリンと仲良くなりたいんだ」
「あらあら」

 率直に正直に打ち明けたら、微笑ましそうに笑われてしまった。

「少なくとも、大嫌いから普通程度に、俺が傍にいても逃げない程度には仲良くなりたい」
「……望みが低いわね」

 どうして今までもっと早くカリンに謝りに来なかったのだろうと後悔した。
 ただ彼女と仲良くなって、もっと話したい。彼女に笑顔を向けてほしい。そう思うだけだったのだが。

 ヨーランダは、うんうん、と頷いている。

「カリンは可愛いわよね。大公家のところに似合いの年頃の男の子がいるみたいだから、妻にと望まれるかもしれないし」
「う……っ」
「デュークはカリンとお友達になるくらいでいいの? それならそれでいいのだけれど」
「そ、それ以上を望むように……なるかもしれない」
「どっちなのかしら?」
「いや、友達以上になりたい」
「そう……それなら、いい男になりなさい」

 ヨーランダはきっぱりと言い切った。

「カリンが貴方を好きになってしまうくらい、魅力的な男になりなさい。今の貴方はまだまだダメ。でも、貴方が本気でカリンが好きで、カリンに釣り合いたいと願うなら、私が協力してあげなくもないわよ」
「本当か!?」
「ええ」

 その時のヨーランダは、それこそ後光が差して見えた。その時は。
 彼女は椅子から立ち上がるとまっすぐに歩いてきて、淑女の笑みで圧力をかけてくる。その迫力に思わず頭を引いてしまった。

「その代わり、貴方も私にも協力してくれない?」
「何を?」
「私ね、マクスルド卿が、好きなの。デューク、彼と私の仲を取り持ってくれないかしら」
「マクスルド!?」

 その名前を聞いて驚いた。
 大人しくて、活発な自分と対照的に家の中にこもっていることが多い自分の従兄。
 知っているのはものすごく頭がよくて、本が好きだということと、あと女性と見まごうばかりの美形であるということ。

「じゃあ、頼むわよ?」

 肩を1つ叩かれて。

 そうして、自分と彼女は協力関係になった。
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