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姉として、先輩として
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神の前で愛を誓い合った、生まれたばかりの夫婦に拍手を送る。
弟の陽介は照れくさそうに、それでも幸せそうな笑顔を浮かべながら、拍手に会釈で応えていた。
つい一年前までは、家の中でしか生活できなかったのに、彼は遥香と……いや、サニーと出会ったことで、随分と変わった。
式が進み、二人のなれそめは姉の自分の取り持ちであると紹介されて、今ではもう昔のことになってしまったことを振り返る。
確かに自分が縁で、この二人は出会った。
白いウエディングドレス姿の遥香がこちらを見る。その目が何かを言いたげなことに気づかないふりをして目をそらした。
ウソをついているという罪悪感と、ウソがばれるという不安感。
彼女の目をまっすぐ見られなくなったのは、それが仮想空間だとはいえ、弟と立場を入れ替えた時からではなかった。
二つ年下の、可愛い後輩が、ずっと自分を慕ってくれていたことには気づいていた。
彼女がさりげなさを装って、自分に近づいてきているということにも。
最初は可愛いと思って、なついてくれる彼女を懐に入れていた。
しかし、そのなれなれしさに度が過ぎたら、どこかで突き放さなければならないタイミングをも見計らっていた。
中学時代からも自分に陰に陽に付きまとう遥香から、内心で距離をとるようしていたのだ。
だからこそ、ゲーム内とはいえ、自分を独占しようとするサニーの振る舞いにわかってしまったのだ。
このサニーは遥香だと。
自分は頼られると相手を守りたくなるお節介なところがある。それを自分でも自覚している。
しかし自分の保身が優先だ。
そこまでお人よしになり切れるわけではないと、どこか人付き合いに冷めた部分があるのもわかっていた。
優等生で人あたりがよくて、ゲームの中でも頼られる存在。
どこの趣味の世界でもしばらくいれば、そんなキャラクターを演じている自分になってしまう。
好きだった弓道でも、時間潰しに始めたゲームでも。
要するに、飽きたのだ。そんな自分にも。
サニーが遥香であると気づいたのが、ゲームから離れるとどめになっただけで、もっと早くゲームから離れるべきだった。
しかし、飽きたからといってアカウントを突然消してしまうのも惜しい気がする。
つぎ込んだお金と時間とレベル、なによりキャラクターに対する積み上げてきた他のプレイヤーからの信頼は、それはそれで価値にもなったから。
そんな時に、外の世界に興味を持てなくなってしまった弟の存在を思い出した。
弟はゲームが上手だ。
元々ゲームを教えてくれたのは彼だった。
だから、彼ならロードを引き継いでくれるのではないか、そして遥香も引き取ってくれるのではないか。
そう思った。
遥香は典型的なお嬢様だし、同じ学校だったから、彼女の実家が資産家なのも知っている。
彼女が異性と縁がないということも知っていたし、遥香の両親が彼女に甘いのも知っていた。
陽介と遥香がうまくいけば、その実家をも将来陽介を金銭面で支えてくれるに違いない。
今のままなら、いつか自分が引きこもりの陽介の面倒を見なくてはいけなくなったかもしれないが、その未来の不安から解放もされるのだ。
そして、自分の思惑はうまくいったのだ。
降るような祝福の拍手の中、二人が歩み去っていく。
その後ろ姿に拍手を送りながら心の中でつぶやいた。
結婚おめでとう。
私のいないところで二人で幸せになってね。
私も私で幸せな未来を迎えるから。
■END■
弟の陽介は照れくさそうに、それでも幸せそうな笑顔を浮かべながら、拍手に会釈で応えていた。
つい一年前までは、家の中でしか生活できなかったのに、彼は遥香と……いや、サニーと出会ったことで、随分と変わった。
式が進み、二人のなれそめは姉の自分の取り持ちであると紹介されて、今ではもう昔のことになってしまったことを振り返る。
確かに自分が縁で、この二人は出会った。
白いウエディングドレス姿の遥香がこちらを見る。その目が何かを言いたげなことに気づかないふりをして目をそらした。
ウソをついているという罪悪感と、ウソがばれるという不安感。
彼女の目をまっすぐ見られなくなったのは、それが仮想空間だとはいえ、弟と立場を入れ替えた時からではなかった。
二つ年下の、可愛い後輩が、ずっと自分を慕ってくれていたことには気づいていた。
彼女がさりげなさを装って、自分に近づいてきているということにも。
最初は可愛いと思って、なついてくれる彼女を懐に入れていた。
しかし、そのなれなれしさに度が過ぎたら、どこかで突き放さなければならないタイミングをも見計らっていた。
中学時代からも自分に陰に陽に付きまとう遥香から、内心で距離をとるようしていたのだ。
だからこそ、ゲーム内とはいえ、自分を独占しようとするサニーの振る舞いにわかってしまったのだ。
このサニーは遥香だと。
自分は頼られると相手を守りたくなるお節介なところがある。それを自分でも自覚している。
しかし自分の保身が優先だ。
そこまでお人よしになり切れるわけではないと、どこか人付き合いに冷めた部分があるのもわかっていた。
優等生で人あたりがよくて、ゲームの中でも頼られる存在。
どこの趣味の世界でもしばらくいれば、そんなキャラクターを演じている自分になってしまう。
好きだった弓道でも、時間潰しに始めたゲームでも。
要するに、飽きたのだ。そんな自分にも。
サニーが遥香であると気づいたのが、ゲームから離れるとどめになっただけで、もっと早くゲームから離れるべきだった。
しかし、飽きたからといってアカウントを突然消してしまうのも惜しい気がする。
つぎ込んだお金と時間とレベル、なによりキャラクターに対する積み上げてきた他のプレイヤーからの信頼は、それはそれで価値にもなったから。
そんな時に、外の世界に興味を持てなくなってしまった弟の存在を思い出した。
弟はゲームが上手だ。
元々ゲームを教えてくれたのは彼だった。
だから、彼ならロードを引き継いでくれるのではないか、そして遥香も引き取ってくれるのではないか。
そう思った。
遥香は典型的なお嬢様だし、同じ学校だったから、彼女の実家が資産家なのも知っている。
彼女が異性と縁がないということも知っていたし、遥香の両親が彼女に甘いのも知っていた。
陽介と遥香がうまくいけば、その実家をも将来陽介を金銭面で支えてくれるに違いない。
今のままなら、いつか自分が引きこもりの陽介の面倒を見なくてはいけなくなったかもしれないが、その未来の不安から解放もされるのだ。
そして、自分の思惑はうまくいったのだ。
降るような祝福の拍手の中、二人が歩み去っていく。
その後ろ姿に拍手を送りながら心の中でつぶやいた。
結婚おめでとう。
私のいないところで二人で幸せになってね。
私も私で幸せな未来を迎えるから。
■END■
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