kings field 蜂蜜とエリクサー

祥々奈々

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風車小屋

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 「エミーでいいいわ」
 宿に泊まるのは危険だ、二人は街はずれの風車小屋に宿を借りた。
 「相変わらず凄いわね、素手なら負けないかもと思っていたのに」
 「東郷流徒手術、一応初段だ」キラリと目が光った。
 「しょ、しょだんて何?」
 「師父は偉大だ、塾で段持ちは私を含めて四人しかいなかった、貴方は基本的に自分の力の伝え方を分かっていない、打ち方、蹴り方の修得よりも先ずは身体操作が重要だ」
 「私のサバットなんてダーク・エリクサーの身体強化に頼ったもので付け焼刃よ、基本練習なんてしてこなかった、やっぱり分かるものなのね、道場に通っていたということかしら、お金持ちだったのね、意外だわ」
 エミーは首を振ってお金持ちの言葉を否定する。
 「塾とは孤児院のこと、師父は父であり武道の師でもある、二歳から修練を積んだ、でも剣の方が得意だ」
 「二歳!?剣は何段なの?」エロースは少し呆れた。
 「二段だ、これは塾で一番だった」ドヤ顔で胸を張る、エロースに対する警戒心はみえない。
 「分かんない娘だね、私は貴方を殺そうとしたのよ、こんなに簡単に信じていいの」
 「私・・・いや、俺にはもう一つ特技がある、意識した相手の感情と共感できる、貴方からは敵意を感じない、私を騙すことは簡単ではない」
 「俺?俺ってどういうこと・・・まさか」
 「そう、私は男性、騙すのは上手いの」
  「はっ!いろいろ驚きすぎて疲れたわ」
 「エリクサー飲む?」
 「あの時のやつ?」
 「そう、私用だけど効果あったでしょう」
 「いつも持っているの」
 「ふふんっ、いいでしょ」
 「いや、なんか会話が微妙におかしいよ」
 「どこか間違っていたか?指摘してくれ、改善する」
 「妙な事を言うのね、まるで機械みたいじゃない」
 「私が普通でないことは理解している」「貴方は期待できる、教えてほしい」
 覗き込む瞳は吸い込まれるほどの深淵。
 「何を期待しているの?」
 「幸せを」
 「あの時もそう言ってくれたわね、でも分かんないよ」
 「貴女には心がある、きっと探せる」
 「何の話なのか分からないわ」
 「そのうちきっと分かる」
 「そういうもの?まあ、オルガを助けられればそれでいいわ、私が貴方の期待に応えられるか分からないけれど、なんでもあげる、命であっても構わない」
 旧フラッツ家マナーハウスを襲った時の剣呑さは失せていた、エロースの表情には愁いの影が差している、親友を落としてしまった後悔が深く刻まれていた。
 「私はここに彼の地の帰還者、アポサル・クロワと五百メートルの距離を狙撃する暗殺者の情報を得るためにきた、何か知っていることはないか」
 「アポサル・クロワは弩級戦艦ザ・ノアにいるわ、たぶん今頃はこのアルカディアの近海にいるはずよ、目的はこの地の選民候補を乗船させることとダーク・エリクサーをばら撒いて次世代の種蒔きをすること」
 「次世代?子供に遺伝させようとしているのね」
 「その通り、自分たちの不老不死のための食糧として種蒔きしている」
 「食料!それはカニバリズムのことを言っているの」
 「文字通りよ、特に肝臓や心臓にはダーク・エリクサー以上の効果があるらしいわ、私は試したことがないから真偽は定かじゃないけれど」
 「・・・・・・」エミーの指が首元に伸びる。
 「それから暗殺者の件は恐らくアダムと呼ばれていた帰還者の二人だと思う、帰還した際に大怪我をしていてずっと治療中だったから会った事はないけれど、異世界の高度な銃器を扱えると聞いていたわ、彼らなら射程五百メートルが可能なのかもしれない」
 「彼らは船が嫌いらしい、極力陸路で移動すると聞いていたからザ・ノア出航の時も何か彼の地の乗り物で移動しているはず、恐らく近くにいるわ」
 「帰還者アダム・・・・・・」
 帰還者が他にもいたのは有益な情報だ。
 「それから・・・・・・エミー、身体のどこかに鱗状の痣のようなものはない?」
 「なぜ知っている、前にも聞かれたが、その時は無かったのが今は背中一面に出現している、痛くも痒くもないので放ってあるけれど原因はやはりエリクサーなのか」
 「背中一面?そんなに大きく」
 「ああ、だんだん大きくなって今は首の下から腰まで広がっている」
 シャツを捲ると菱形の白蝶貝がプラチナの輝きを放っていた。
 「!!」「やはり貴方は・・・・・・イブかもしれない」
 「ミトコンドリア・イブのこと?」
 「知っているのね、ノスフェラトゥが最も欲しがっている血、それが彼の地、始祖たるアールヴ・イブよ、教団は貴方の事も疑っていたの、その痣は見せない方がいいわ」
 「出自不明の私が彼の地の出身である可能性・・・・・・無くは無いが、元からあったものではない、エリクサーが原因なら出現も一時的なものだろう」
 ティアのことまで打ち明けることはしない、神獣の血は更に尊い。
 「始祖アールヴは不死に近い長命だという話よ、クロワが最も欲しいもの、ノスフェラトゥ(不死者)は言葉の通りの意味」
 「不死などあり得ない、生きていれば必ず死ぬ、撃たれても切られても簡単に死んでしまう、私も同様だ、死なない生き物は既に死んでいる」
 「報酬には十分な情報だ、明日アルカディアのマナーハウスを調べよう、突入するのは明後日だな」
 
 夜遅くになって風が強くなってきた、ギイギイと軋みながら風車が回っている。
 雲の間から月明かりが差し込む、静かに目を閉じているエミーの顔を白く照らす、まるで妖精のようだとエロースは少し見とれていた、しかし一度戦闘となれば氷の鬼神となって敵を屠る、彼女、いや彼の中には双極となる二面性がある。
 ダーク・エリクサーを飲んだ後には必ず彼の地の夢を見た、天を突く山の裾野は地平線の果てまでその斜面を伸ばし、深く刻まれた谷の底は暗く見えない。
 いつも見上げていた景色、畏怖と焦りの記憶。
 黄金のエリクサー、エミー用のエリクサーを飲んでから見える角度が変わった、その景色を見下ろして空を飛び回る感覚、そこには郷愁と謝恩がある。
 自然に涙が流れてしまう。
 きっと、エミーは始祖アールヴの系統、その血の記憶が夢を見せている。

 不思議だ、ハウンドでいた頃は暴力に血が湧き立った、出撃前夜は興奮と期待で眠れなかったものだ、今は違う、明日戦う事が怖い、痛みと死が怖い、誰かを傷つけ死なせてしまうことが怖い。
 身体を固くしても何処からか震えがやってくる。
 気配を感じて目を上げると優しい表情のエミーが隣に腰を下ろした、自分のマントで肩を包んでくれる。
 「大丈夫、私が付いている」共感とはこういう事か、見透かされていたことが恥ずかしくもあり嬉しくもあった、年甲斐もなく顔を赤くしてしまう。
 「ありがとう・・・・・・情けないわ」
 「・・・・・・」
 身体を寄せ合うとエミーの体温を感じる、穏やかな暖かさに恐怖が溶けていく。
 風の音がショパンの音色に変わる、その夜エミーの小さな肩に頭を預けたままエロースは暖かな空を漂う夢を見ながら眠りについた。
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