【完結】義妹(ヒロイン)の邪魔をすることに致します

凛 伊緒

文字の大きさ
4 / 51
1章

第4話

しおりを挟む
「よく来てくれたわ。」
「突然お訪ねしてしまって申し訳ありません。」
「構わないわよ。今日か明日中と言ったのはこちらだもの。さあ入って。」


数日後、私はシェルラート公爵家に来ていた。メリーア様とお話する為だ。
メリーア様は黒と青が混ざった妖美な長髪を一つに結っており、青紫の澄んだ瞳を持つお方。まさに容姿端麗という言葉がお似合いな方だわ。
立ち居振る舞いも完璧で、クレスディア殿下の婚約者に選ばれるのは当然と思えた。

私とメリーア様は公爵家内の庭園に移動し、2人だけのお茶会が始まった。
様々な花が咲き乱れ、しかし丁寧に手入れされているのが見て取れる。中心にあるテーブルには菓子などが用意されていた。


「さて、今日はどうしたのかしら。」
「先ずは、出来る限り早くお会いしたいという私の我儘を聞き入れてくださり、感謝致します。」
「気にしないで。それにそう畏まらなくていいのよ?私達は友達なのだから。」


クレスディア殿下に負けず劣らずの優しさ…。そして紅茶を飲む自然な所作まで洗練されている。思わず見惚れてしまうわ。
私は尊敬しているメリーア様に隠し事はしたくない。遠回しな言い方はせず、端的にお聞きするとしましょう。


「ではお言葉に甘えて…。メリーア様、今日はお聞きしたい事があるのです。」
「聞きたい事?」
「はい。単刀直入に申しますね。『乙女ゲーム』や『ヒロイン』、『悪役令嬢』という言葉に聞き覚えはありませんか?」
「…!」


表情はあまり変わっていないが、目が一瞬見開いたように見えた。これは聞いた事があるという証拠ね。


「……何処で、誰からその言葉を聞いたのかしら。」
「セルティラス伯爵家で数日前義妹となったライラからです。」
「そう…。ライラ…、……まさか……ね。」


視線を落とし、少し落胆している様子のメリーア様。
やはり何か知っている、そう考えた私はより踏み込んでみることにした。話してくれるかは賭けだけれど、賭ける価値は十分にあるわ。


「他にも、『転生者』という言葉も言っていました。」
「!!…可能性はあると思っていたけれど、これで確定したわね……。」
「メリーア様。これはライラが手帳に書いていた内容を書き写したものです。この内容を踏まえて、ご説明して頂けませんか…?」
「……。」


話すべきか否かをかなり悩まれている様子。しかし私が差し出した紙を手に取って読むと、一呼吸おいてから話し始めた。


「ここまで見せられては、知らぬ存ぜぬで返すわけにはいかないわね…。聡いへレアなら勘付いているかもしれないけれど、『転生者』というのは前世の記憶を持って生まれた存在の事よ。そして──」


メリーア様は様々なことを教えてくれたわ。『転生者』についての詳しい事は勿論、『乙女ゲーム』や『ヒロイン』についてなども。
手帳に沿って丁寧に説明してくださったので、とても分かりやすかった。

メリーア様によると……、
この世界とは異なる世界の記憶、つまりは前世の記憶を持つ者を『転生者』と呼び、メリーア様やライラからすれば、この世界は『乙女ゲーム』という恋愛物語のようなものの世界らしい。
その中の登場人物の呼称が『ヒロイン』や『悪役令嬢』、『攻略対象』と言い、物語の主人公がヒロインもといライラだそう。

物語としては、主人公ヒロインが攻略対象達と恋に落ちていき、彼らが卒業した後のパーティーにてプロポーズ告白されれば攻略成功勝ちとなるゲームを学園中心で繰り広げる。


「『悪役令嬢』とは主人公の恋の邪魔をする敵役の事よ。ゲーム……物語では、主人公を暗殺しようとする場面もあったわね。」
「暗殺…。」
「簡単に言うと、主人公の恋の邪魔をする為に悪事を働く令嬢…。それがメリーア・シェルラートという存在なのよ。」
「メリーア様が悪事など有り得ません…!」


今、私の目の前に居るメリーア様は善良な方だわ。何をどう考えても悪人ではない。
けれど『乙女ゲーム』という物語の中では主人公の邪魔をする役。私が思うに、物語通りに進むとは限らないのでしょう。


「ありがとう、へレア。そう言ってもらえて嬉しいわ。…この悪役令嬢という存在は、物語の中で必ず不幸になるの。悪事を断罪され、国外追放になったり処刑されてしまったり…。今までの行いは、そんな未来を変える為でもあるの。」
「素晴らしいと思いますっ!」
「……??…えぇっと…?」


思わずそう口走っていた。メリーア様を困らせてしまっている…。



「素晴らしい……って、未来を変える為にしてきたことが、かしら?」
「はい。自身の為とはいえ、結果人々の為になることをしてこられたのです。素晴らしきことかと。」
「そ、そうかしら…。」
「経緯がどうあれ、メリーア様は多くの民を救う行いをしておられるのです。もっと胸を張って良いと思いますよ。私はメリーア様を心から敬愛しています。」


メリーア様は嬉しさと恥ずかしさが交ざったような表情をされている。お可愛らしい一面もあるのね。

とりあえず手帳に書かれた言葉の意味については理解することが出来たわ。
話を聞いている限り、ライラが一方的にメリーア様を悪者扱いしているように感じる。良いことしかしてきていない方に対し、「いずれ断罪される運命」などと言っているもの。何をどう考えてもおかしいでしょう。


「…ライラは自分がヒロインということに、とてもこだわっているように見えました。」
「そう……。今まで彼女が言っていたという言葉も…。」


少し考える仕草をしてから、私に助言をくださった。


「へレア。義妹のライラさんとは、仲良くしておくべきだと思うわ。」
「仲良く……ですか?」
「ええ。たとえライラさんが何をしようと、表面上だけでも味方をした方が良いでしょう。もし邪魔をして、その事が彼女に知られてしまった時、きっと不幸になってしまうわ。」


確かにその通りなのかもしれない。
私の義妹となったライラはこの世界で特別な存在なのでしょう。あの姿を見れば、庇護したくなるのも納得がいくというもので、仲間や友人を得ることは容易なはず。
となれば、私がライラの意に沿わない行動をした場合、周囲の人々を巻き込んで陥れられる可能性があるのは事実。


「…ライラの前では何も知らないふりをすべき……と。」
「そうね。それこそ、彼女の前では知らぬ存ぜぬでいた方が身のためよ。」
「分かりました。ご助言感謝します。」


その後はお茶会を楽しみつつ、『イベント』と呼ばれる何かのきっかけが起こるであろう時期などをある程度教えてもらったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

こんな婚約者は貴女にあげる

如月圭
恋愛
アルカは十八才のローゼン伯爵家の長女として、この世に生を受ける。婚約者のステファン様は自分には興味がないらしい。妹のアメリアには、興味があるようだ。双子のはずなのにどうしてこんなに差があるのか、誰か教えて欲しい……。 初めての投稿なので温かい目で見てくださると幸いです。

あなたの事は好きですが私が邪魔者なので諦めようと思ったのですが…様子がおかしいです

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のカナリアは、原因不明の高熱に襲われた事がきっかけで、前世の記憶を取り戻した。そしてここが、前世で亡くなる寸前まで読んでいた小説の世界で、ヒーローの婚約者に転生している事に気が付いたのだ。 その物語は、自分を含めた主要の登場人物が全員命を落とすという、まさにバッドエンドの世界! 物心ついた時からずっと自分の傍にいてくれた婚約者のアルトを、心から愛しているカナリアは、酷く動揺する。それでも愛するアルトの為、自分が身を引く事で、バッドエンドをハッピーエンドに変えようと動き出したのだが、なんだか様子がおかしくて… 全く違う物語に転生したと思い込み、迷走を続けるカナリアと、愛するカナリアを失うまいと翻弄するアルトの恋のお話しです。 展開が早く、ご都合主義全開ですが、よろしくお願いしますm(__)m

悪役令嬢に相応しいエンディング

無色
恋愛
 月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。  ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。  さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。  ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。  だが彼らは愚かにも知らなかった。  ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。  そして、待ち受けるエンディングを。

辺境の侯爵令嬢、婚約破棄された夜に最強薬師スキルでざまぁします。

コテット
恋愛
侯爵令嬢リーナは、王子からの婚約破棄と義妹の策略により、社交界での地位も誇りも奪われた。 だが、彼女には誰も知らない“前世の記憶”がある。現代薬剤師として培った知識と、辺境で拾った“魔草”の力。 それらを駆使して、貴族社会の裏を暴き、裏切った者たちに“真実の薬”を処方する。 ざまぁの宴の先に待つのは、異国の王子との出会い、平穏な薬草庵の日々、そして新たな愛。 これは、捨てられた令嬢が世界を変える、痛快で甘くてスカッとする逆転恋愛譚。

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

やり直し悪女は転生者のヒロインと敵対する

光子
恋愛
ああ、どうしてこんなことになってしまったんだろう…… 断頭台を登る足が震える。こんなところで死にたくないと、心の中で叫んでいる。 「《シルラ》、君は皇妃に相応しくない! その罪を悔い、死で償え!」 私に無情にも死を告げるのは、私の夫である《キッサリナ帝国》の皇帝陛下 《グラレゴン》で、その隣にいるのは、私の代わりに皇妃の座に収まった、《美里(みさと)》と呼ばれる、異世界から来た転生者だった。 「さようならシルラ、また、来世で会えたら会いましょうね。その時には、仲良くしてくれたら嬉しいな!」 純粋無垢な笑顔を浮かべ、私にお別れを告げる美里。 今の人生、後悔しかない。 もしやり直せるなら……今度こそ間違えない! 私は、私を大切に思う人達と、自分の幸せのために生きる! だから、お願いです女神様、私の人生、もう一度やり直させて……! 転生者という、未来が分かる美里に対抗して、抗ってみせるから! 幸せになってみせるから! 大切な人を、今度こそ間違えたりしないから! 私の一度目の人生は幕を閉じ―――― ――――次に目を覚ました時には、私は生家の自分の部屋にいた。女神様の気まぐれか、女神様は、私の願いを叶えて下さったのだ。 不定期更新。 この作品は私の考えた世界の話です。魔物もいます。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない

かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、 それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。 しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、 結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。 3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか? 聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか? そもそも、なぜ死に戻ることになったのか? そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか… 色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、 そんなエレナの逆転勝利物語。

たいした苦悩じゃないのよね?

ぽんぽこ狸
恋愛
 シェリルは、朝の日課である魔力の奉納をおこなった。    潤沢に満ちていた魔力はあっという間に吸い出され、すっからかんになって体が酷く重たくなり、足元はふらつき気分も悪い。  それでもこれはとても重要な役目であり、体にどれだけ負担がかかろうとも唯一無二の人々を守ることができる仕事だった。  けれども婚約者であるアルバートは、体が自由に動かない苦痛もシェリルの気持ちも理解せずに、幼いころからやっているという事実を盾にして「たいしたことない癖に、大袈裟だ」と罵る。  彼の友人は、シェリルの仕事に理解を示してアルバートを窘めようとするが怒鳴り散らして聞く耳を持たない。その様子を見てやっとシェリルは彼の真意に気がついたのだった。

処理中です...