【完結】義妹(ヒロイン)の邪魔をすることに致します

1章

第9話

「とても賑わっていますねっ！」
「そうね。」
「孤児院の時と違って、我慢しなくていいので嬉しいですっ。」
「それは良かったわ。今日はしっかりと楽しみましょうね。」


日が落ち、中央通りを多くの人々が行き交う。夜なのに昼間のような明るさと賑わいが、通りを照らしていた。
一部の平民嫌いの貴族は前夜祭の中央通りに姿を見せないけれど、基本的には貴族も平民も関係無く祭りを楽しんでいる。

盛大に前夜祭が行われる中、私はライラと共に屋台が立ち並ぶこの中央通りを歩いていた。
貴族とはいえ私達は伯爵家。ライラの我慢しなくても良いという考えは、出来れば捨てて欲しいものね…。


「あっ！お義姉様、これ食べませんか？」
「これは…りんご飴ね。」
「はいっ！一度だけ食べたことがあって、とても美味しかったので…。」
「私も好きよ。2つ頂きましょうか。」


私は屋台の店主に声をかけ、2つのりんご飴を買った。
美味しそうに頬張るライラ。上品に少しずつ食べていないのは端ないけれど、このような祭りの場では誰も気にしないでしょう。

そして食べ終わった時、ライラが何かを見つけて走り出した。


「お義姉様っ。来てください！」
「ちょっとライラっ！」


すると……


「痛っ！？」
「…大丈夫か？」
「は、はい…。」
「俺の不注意だな。すまない。」
「い、いえ！私こそごめんなさい…。」


ライラが誰かとぶつかった。その相手は言わずとも分かるでしょう。


「あ、へレア。」
「何？その反応は。」
「いや別に。君が居るってことは、俺とぶつかったこの子がライラか。」
「あら、情報が早いのね。流石はシルド商会の商人、ドーフェン・シルドね。」


ドーフェンは成績が学年5位で、私の親友でもある。
黒髪に翡翠の瞳を持ち、髪は少し癖っ毛だけれど、それがより彼を際立たせていた。クレスディア殿下の隣に居ても違和感がないわね。ライラと同じで、平民でありながら目を引く存在、それがドーフェンだった。


「まぁ俺じゃなくても、一部の平民達は知っているさ。平民から貴族の養子にとなれば、噂はすぐに広まる。俺はその噂を辿ってより詳しく知っているだけだ。」


商人は情報が命だと、ドーフェンがいつも言っていた。その言葉通り、商売だけではなくあらゆる情報を手に入れているのでしょう。
どの情報も何かに繋がるという考えは、私も同意するところね。


「なるほどね。勉強になるわ。」
「俺を参考にしても意味無いんじゃないか？へレアの方が優秀なんだからな。」
「商人としてのフェンには敵わないわよ。今こうして私と話しながらも、屋台の様子を窺っているわけだし。それに『価値を見抜く眼』が、私とは比べ物にならないほど優れているもの。」


私がそう言うと、ドーフェンはポーカーフェイスをしつつも少し照れていた。私でなければ気がつかなかったくらいほんの少しね。
その様子に少し笑ってしまったけれど、隣を見ると一瞬で笑えなくなった──