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2章
第27話
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「あっ!私、用事を思い出しましたっ。」
急に立ち上がり、そう言ったライラ。定例会をしないのならば用はないといった感じね。
ならば早々に立ち去ってもらいましょう。その方が私達としてもありがたいもの。
「では失礼しますねっ。クレスディア様、行きましょう?」
「そ、そうか?」
「待て。君の用事なら、クレスは必要ないだろ。」
「えっ……。」
ドーフェンが睨み、ライラは萎縮している。怒り混じりの声で言った為か、私も少し驚いてしまったわ…。
けれどその方が良いでしょう。クレスディア殿下とライラを引き離さなければならないのだから。
「ええっと……そう!これはクレスディア様との用事なのですっ!だから……」
「そんなわけないだろ。そもそも王族のクレスが、婚約者でもない女と2人で居ること自体が問題だ。」
「ドーフェン、そのくらいに……」
「クレス、悪いが黙っててくれ。」
「っ…。」
クレスディア殿下もドーフェンに睨まれ、彼が本気で怒っていると察した様子。
商人に言葉で勝とうというのは無謀な行い。それはこの場に居る誰もが理解していた。
だからこそ私やゼルヴィーサ様、メリーア様は黙って成り行きを見守っていたわ。そしてこのままドーフェンが押し切ってくれことも分かっていたから…。
「そ、その……わ、私急ぐので、では失礼しますっ!」
逃げるように去って行ったライラ。何だが清々するわね。
クレスディア殿下は居心地が悪そうに俯かれている。殿下が悪いわけではないのだけれど、魅了されている状態では正常な思考判断など出来ない。恐らく今は、ただただライラに申し訳ないと思われているでしょう。
「…はぁ……大変だな…。」
「でもドーフェンが居なかったら、状況はさらに悪化していたわ。ありがとう。」
「いや、俺はただ思ったことを言っただけだ。」
「へレアの言う通り、ドーフェンのおかげよ。」
「そうですね。これで心置きなく、クレスに近付けるのですから。」
そう言ったゼルヴィーサ様は既に、クレスディア殿下の真後ろに立っていた。いつの間に移動したのかしら…、相変わらず恐ろしいお方ね。
ゼルヴィーサ様は殿下のペンダントを素早く取り上げると、私に投げてきた。
「わっ!?……ゼル様、何故私に投げるのよ…。」
「それは貴女がや……、以前彼女から魅了が付与された物を貰ったと聞いたので、何か分かるのではと思いまして。」
完全に『闇魔法』と言いかけたわよね…。わざとかしら?私が睨むと目を逸らしたもの。
口を滑らせてしまった場合は記憶操作をすることが出来るとはいえ、友人には使いたくないわね。
それにしてもこのペンダント、強力な魅了魔法の効果がかけられているようね。私が貰った耳飾りよりも数段強い。確実にクレスディア殿下を手中に収める為でしょう。
クレスディア殿下はペンダントが外されて魅了が解けたのか、そのまま気を失ってしまっていた。椅子に腰掛けた状態だった為、長椅子に移し、寝かせておくことになったわ。
その間に話が進められた。
「このペンダントだけれど、簡単に調べた結果とクレス様の様子を見る限り、私が貰ったものよりも強い魅了魔法が付与されているのでしょう。」
「なるほど。流石、調べるのが早いですね。」
ゼルヴィーサ様の言葉は嫌味にしか聞こえない…。魔法に関しては、私よりも彼の方が圧倒的に詳しい。だからこそ、私はゼルヴィーサ様にペンダントを押し付けて渡した。
「あとは、私よりもゼル様の方で調べて欲しいわ。誰が付与したのかが分かれば、入手経路も判明するはずよ。」
「了解です。研究所の方々と調べておきましょう。しかし、こんなものまで用意するとは思いませんでしたよ。」
「ゼル。魅了の効果は、クレスが目を覚ましたら解けているのかしら?」
メリーア様は心配そうにクレスディア殿下を見つめている。
私の考えでは、目が覚めたら元の殿下に戻っているはず。しかし魔法自体が強力な為、記憶の部分で何らかの影響が残っている可能性があるわね。どの程度魅了が侵食していたのか、というところが要になってくるでしょう。
「こればかりは目を覚まさない限り分かりませんね…。レアはどう思います?」
ゼルヴィーサ様は分かっていて私に聞いてくるのだから、性格悪いわよね…。
「ペンダントを取った瞬間に気を失ってしまったのだから、元に戻っていると思うけれど…。」
「……。」
「リーア様。きっと大丈夫だから、信じて待ちましょう。」
「…そうね。ありがとう、レア。」
悲しげな笑顔を見せるメリーア様。婚約者を取られたような気分になられているのでしょう。事実、本当にそうなりかけていたのだから。
クレスディア殿下が目を覚ますまでの間に、今後のライラへの対応を話し合った。
まずは監視。これに関しては、引き続き私が担うこととなった。
次に、生徒会の5人は、必ず信頼出来る者と2人以上で行動すること。クレスディア殿下が1人で居る時をライラに狙われてしまったので、同じ過ちを繰り返さないようにする為ね。
その他にも決めたことはあるのだけれど、私には疑問が一つ残っていた。それは、監視していたはずのライラが、何時ペンダントを入手したのか…という事ね。
学園の敷地外に出たならば誰かと会う機会はあったでしょう。けれどそのような時は目を離さないようにしている。
つまりペンダントを受け取るタイミングは、皆が寝静まっている深夜あるいは学園に居る時間。学園内に彼女の協力者がいる…とは思いたくないわね。
『乙女ゲーム』に関わることならば、メリーア様が何か知っているかもしれない。後で聞いてみるとしましょう。
「……ここは…?」
「お目覚めか?クレス。」
急に立ち上がり、そう言ったライラ。定例会をしないのならば用はないといった感じね。
ならば早々に立ち去ってもらいましょう。その方が私達としてもありがたいもの。
「では失礼しますねっ。クレスディア様、行きましょう?」
「そ、そうか?」
「待て。君の用事なら、クレスは必要ないだろ。」
「えっ……。」
ドーフェンが睨み、ライラは萎縮している。怒り混じりの声で言った為か、私も少し驚いてしまったわ…。
けれどその方が良いでしょう。クレスディア殿下とライラを引き離さなければならないのだから。
「ええっと……そう!これはクレスディア様との用事なのですっ!だから……」
「そんなわけないだろ。そもそも王族のクレスが、婚約者でもない女と2人で居ること自体が問題だ。」
「ドーフェン、そのくらいに……」
「クレス、悪いが黙っててくれ。」
「っ…。」
クレスディア殿下もドーフェンに睨まれ、彼が本気で怒っていると察した様子。
商人に言葉で勝とうというのは無謀な行い。それはこの場に居る誰もが理解していた。
だからこそ私やゼルヴィーサ様、メリーア様は黙って成り行きを見守っていたわ。そしてこのままドーフェンが押し切ってくれことも分かっていたから…。
「そ、その……わ、私急ぐので、では失礼しますっ!」
逃げるように去って行ったライラ。何だが清々するわね。
クレスディア殿下は居心地が悪そうに俯かれている。殿下が悪いわけではないのだけれど、魅了されている状態では正常な思考判断など出来ない。恐らく今は、ただただライラに申し訳ないと思われているでしょう。
「…はぁ……大変だな…。」
「でもドーフェンが居なかったら、状況はさらに悪化していたわ。ありがとう。」
「いや、俺はただ思ったことを言っただけだ。」
「へレアの言う通り、ドーフェンのおかげよ。」
「そうですね。これで心置きなく、クレスに近付けるのですから。」
そう言ったゼルヴィーサ様は既に、クレスディア殿下の真後ろに立っていた。いつの間に移動したのかしら…、相変わらず恐ろしいお方ね。
ゼルヴィーサ様は殿下のペンダントを素早く取り上げると、私に投げてきた。
「わっ!?……ゼル様、何故私に投げるのよ…。」
「それは貴女がや……、以前彼女から魅了が付与された物を貰ったと聞いたので、何か分かるのではと思いまして。」
完全に『闇魔法』と言いかけたわよね…。わざとかしら?私が睨むと目を逸らしたもの。
口を滑らせてしまった場合は記憶操作をすることが出来るとはいえ、友人には使いたくないわね。
それにしてもこのペンダント、強力な魅了魔法の効果がかけられているようね。私が貰った耳飾りよりも数段強い。確実にクレスディア殿下を手中に収める為でしょう。
クレスディア殿下はペンダントが外されて魅了が解けたのか、そのまま気を失ってしまっていた。椅子に腰掛けた状態だった為、長椅子に移し、寝かせておくことになったわ。
その間に話が進められた。
「このペンダントだけれど、簡単に調べた結果とクレス様の様子を見る限り、私が貰ったものよりも強い魅了魔法が付与されているのでしょう。」
「なるほど。流石、調べるのが早いですね。」
ゼルヴィーサ様の言葉は嫌味にしか聞こえない…。魔法に関しては、私よりも彼の方が圧倒的に詳しい。だからこそ、私はゼルヴィーサ様にペンダントを押し付けて渡した。
「あとは、私よりもゼル様の方で調べて欲しいわ。誰が付与したのかが分かれば、入手経路も判明するはずよ。」
「了解です。研究所の方々と調べておきましょう。しかし、こんなものまで用意するとは思いませんでしたよ。」
「ゼル。魅了の効果は、クレスが目を覚ましたら解けているのかしら?」
メリーア様は心配そうにクレスディア殿下を見つめている。
私の考えでは、目が覚めたら元の殿下に戻っているはず。しかし魔法自体が強力な為、記憶の部分で何らかの影響が残っている可能性があるわね。どの程度魅了が侵食していたのか、というところが要になってくるでしょう。
「こればかりは目を覚まさない限り分かりませんね…。レアはどう思います?」
ゼルヴィーサ様は分かっていて私に聞いてくるのだから、性格悪いわよね…。
「ペンダントを取った瞬間に気を失ってしまったのだから、元に戻っていると思うけれど…。」
「……。」
「リーア様。きっと大丈夫だから、信じて待ちましょう。」
「…そうね。ありがとう、レア。」
悲しげな笑顔を見せるメリーア様。婚約者を取られたような気分になられているのでしょう。事実、本当にそうなりかけていたのだから。
クレスディア殿下が目を覚ますまでの間に、今後のライラへの対応を話し合った。
まずは監視。これに関しては、引き続き私が担うこととなった。
次に、生徒会の5人は、必ず信頼出来る者と2人以上で行動すること。クレスディア殿下が1人で居る時をライラに狙われてしまったので、同じ過ちを繰り返さないようにする為ね。
その他にも決めたことはあるのだけれど、私には疑問が一つ残っていた。それは、監視していたはずのライラが、何時ペンダントを入手したのか…という事ね。
学園の敷地外に出たならば誰かと会う機会はあったでしょう。けれどそのような時は目を離さないようにしている。
つまりペンダントを受け取るタイミングは、皆が寝静まっている深夜あるいは学園に居る時間。学園内に彼女の協力者がいる…とは思いたくないわね。
『乙女ゲーム』に関わることならば、メリーア様が何か知っているかもしれない。後で聞いてみるとしましょう。
「……ここは…?」
「お目覚めか?クレス。」
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