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5章 王都上空決戦
第79話 地下空間
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「ここは……魔法具が置かれていた場所…?」
「はい。」
私とリーゼが転移してきた場所は、死魔の森の中心近く、ジルディガーによって仕掛けられていた魔法具があった地点だ。
リーゼは不思議そうな表情をしている。
「もう何も無いわよ?」
「確かに何もありませんね。地上には。」
「え…?」
私は地面に向けて手をかざし、仕掛けられていた魔法を破壊する。
パリィィイン! という魔法陣の破壊される音と共に、魔法によって隠蔽されていた地下空間が姿を現した。
かなり巧妙に隠されており、リーゼにすら見抜けなかったということは、それだけジルディガーの魔法の腕が確かだったということだろう。
出会い方が違っていれば、私の魔法研究の助手にしたものを…。
地下への階段を降りて行くと、魔法具の置かれていたちょうど真下の地点に、黒い結界に包まれて中の見えない空間があった。
嫌な予感がしたが、この結界を解除する他に手段がない。
「リーゼ様、構えて下さい。」
「えっ…!?」
「先に結界を張っておいた方が良いかもしれませんね。結界を解いた瞬間、彼らは形振り構わず攻撃してくるでしょう。」
「彼ら…?…と…とりあえず分かったわ。」
結界に手をかざし、解析する。
結界内部には3つの魔法がかけられていた。
1つは魔力を吸い上げる魔法だ。
地上の魔法具の動力源にされていたのだろう。
2つ目は身体を動かせなくする拘束魔法。
これは抵抗されないようにする為だと考えられる。
最後の1つは魔法を使用不可にさせる結界魔法であり、黒い結界との二重結界だったという訳だ。
外側の結界はあくまでただの黒い結界だが、内外両方から互いの様子を見えなくさせること自体が目的なのだろう。
内側の者には不安を与え、外側の者には中を悟らせない…。
私にはそのどれもが無意味なのだが。
とはいえ、強制的に魔力を吸われるのは苦痛が伴うものだ。
そして吸収する力が強ければ強いほど、被害者の苦痛はより強いモノと化す。
そうなれば……
「──《全強制解除》。」
魔法を解除した瞬間、中に閉じ込められていた者が飛び出してきた。
数は12人。
予想通り、正気を失っている。
彼らは魔法を無詠唱で次々に放ってきた。
それぞれが得意な魔法を、無意識に撃っているという印象を受ける。
リーゼは防戦一方の様子だ。
6対1の状況なので、仕方がないと言えばそうなのだろうが…。
「リーゼ様!状態異常の対結界を、ご自分のみに展開してください!」
「わ、分かったわ!」
リーゼが結界を発動させた事を確認し、私は魔法を周囲に放った。
「《睡眠》。」
リーゼ以外の全員が、バタバタと倒れ眠りに落ちた。
私が魔法を解かない限り、目覚めないようにしている。
「……眠っている………だけ……?」
「はい。罪のない者を殺すようなことはしませんよ。相手がリーゼ様の同郷の方ならば尚更です。」
「……そう…。ありがとう。」
「当然のことをしたまでですよ。」
結界内に閉じ込められていたのは、精霊達だった。
リーゼが言っていた、ジルディガーに連れ去られた精霊だろう。
ジルディガーは結界内に連れて来た精霊を全て閉じ込めるつもりだったはず。
しかし魔法具の動力源としては12人の精霊の魔力で足りた為、13人目のリーゼのみが地上に移された。
リーゼが死魔の森の魔力に侵食され、理性を失うことをジルディガーは分かっていたのだろう。
だからこそ、彼女には何も魔法をかけなかった。
その後、私達とリーゼが偶然出会ったといったところだろう。
一先ず精霊達を連れて、リーゼと共に《瞬間移動》にて死魔の森から離れた。
人目の付かない場所を考え、転移した先は……
「ここは…?」
「王城の東側に位置する森を、さらに奥に進んだ場所です。数日前、『災厄日』があった森ですね。『災厄日』から日が浅い今は、人の立ち入りが制限されています。」
「……私について来て。」
「えっ!?…ま、待ってくださいリーゼ様!」
颯爽と浮遊魔法にて木々の間をすり抜けていくリーゼ。
追いかけるだけでも大変なのに、精霊達を《飛行》で浮かせながら、さらには木々に当たらないよう操りつつ追いかけなければならない。
「リーゼ様、少しゆっくり進みませんか!?」
「もうすぐだから我慢して頂戴!」
スピードは30km以上だろう。
直線を進むだけならば問題のない速さだが、ここは森の中。
かなりの集中力が必要だ。
一体リーゼはどこに向かっているのだろうか…。
「──ここよ。」
「……久しぶりに疲れましたよ…。」
「貴女でも疲れるのね。」
「木々の間を猛スピードで進むなんてこと、普通はしませんからね…。それはそうと、ここは確か……」
「『ルーヴの森』よ。人間達からは、『永路の森』なんて呼ばれ方もしているけれど。」
森の中にある霧がかかった見通しの悪い場所、『ルーヴの森』。
別名『永路の森』と呼ばれていた。
『永遠に続く路』、それがこの名の由来だ。
ルーヴの森に入った途端、ずっと同じ道をループさせられるのである。
引き返すことは可能だが、進むことは不可能。
空から見ても霧で覆われてよく見えなかった。
今は誰も寄り付かない場所となっている。
森の中心に空から降りようとした時は、霧がまとわりついてきて、視界が見えなくなった。
そして目の前が開けてきたと思ったら、霧の外側の森に移動していた。
それ以降ルーヴの森には近付くことすらなかったが……
「まさか予想が当たっていたとはね…。」
「……答え合わせのつもりだった、ということね。」
リーゼの言う通り、私はあえて東側の森に転移した。
精霊達の住処たる『精霊の里』が、ルーヴの森にあるのではと考えていたからだ。
ルーヴの森近くの地点に転移することで、私の予想が正しければリーゼが案内してくれるだろう…と。
「まぁ、貴女になら話しても良いでしょう。」
そう言うと、リーゼはこの森のことを話し始めた。
ルーヴの森にかかっている霧は、精霊族が生み出した設置型魔法具によるものらしい。
人の感覚を狂わせ、幻影を見せることで同じ場所を回り続けるようにしているとの事。
ただし精霊は何の問題もなく進むことが出来る。
何故魔法具の影響を受けないのかは教えてくれなかったが、きっと精霊族が持つ眼が鍵となっているのだろう。
「この森の事、誰にも話さないようにして欲しいわ。たとえ相手が国王であってもね。」
「勿論です。一切他言しないと誓いましょう。」
「くれぐれもよろしく頼むわね。」
何を聞かれても、絶対に誰にも話さないと心に決めた。
精霊を敵に回せば、負けるのはこちらだと分かっているからだ。
「この霧の先には一緒に行けないから、ここまでで良いわ。仲間も来てくれるから、彼らを眠らせている魔法だけ解除しておいて。」
「分かりました。──解除。」
「長い1日だったけれど、貴女のおかげで色々と助かったわ。本当にありがとう。」
「こちらこそ、ありがとうございました。」
私は深くお辞儀をし、《瞬間移動》にてミアスの居る教会まで戻ったのだった。
「はい。」
私とリーゼが転移してきた場所は、死魔の森の中心近く、ジルディガーによって仕掛けられていた魔法具があった地点だ。
リーゼは不思議そうな表情をしている。
「もう何も無いわよ?」
「確かに何もありませんね。地上には。」
「え…?」
私は地面に向けて手をかざし、仕掛けられていた魔法を破壊する。
パリィィイン! という魔法陣の破壊される音と共に、魔法によって隠蔽されていた地下空間が姿を現した。
かなり巧妙に隠されており、リーゼにすら見抜けなかったということは、それだけジルディガーの魔法の腕が確かだったということだろう。
出会い方が違っていれば、私の魔法研究の助手にしたものを…。
地下への階段を降りて行くと、魔法具の置かれていたちょうど真下の地点に、黒い結界に包まれて中の見えない空間があった。
嫌な予感がしたが、この結界を解除する他に手段がない。
「リーゼ様、構えて下さい。」
「えっ…!?」
「先に結界を張っておいた方が良いかもしれませんね。結界を解いた瞬間、彼らは形振り構わず攻撃してくるでしょう。」
「彼ら…?…と…とりあえず分かったわ。」
結界に手をかざし、解析する。
結界内部には3つの魔法がかけられていた。
1つは魔力を吸い上げる魔法だ。
地上の魔法具の動力源にされていたのだろう。
2つ目は身体を動かせなくする拘束魔法。
これは抵抗されないようにする為だと考えられる。
最後の1つは魔法を使用不可にさせる結界魔法であり、黒い結界との二重結界だったという訳だ。
外側の結界はあくまでただの黒い結界だが、内外両方から互いの様子を見えなくさせること自体が目的なのだろう。
内側の者には不安を与え、外側の者には中を悟らせない…。
私にはそのどれもが無意味なのだが。
とはいえ、強制的に魔力を吸われるのは苦痛が伴うものだ。
そして吸収する力が強ければ強いほど、被害者の苦痛はより強いモノと化す。
そうなれば……
「──《全強制解除》。」
魔法を解除した瞬間、中に閉じ込められていた者が飛び出してきた。
数は12人。
予想通り、正気を失っている。
彼らは魔法を無詠唱で次々に放ってきた。
それぞれが得意な魔法を、無意識に撃っているという印象を受ける。
リーゼは防戦一方の様子だ。
6対1の状況なので、仕方がないと言えばそうなのだろうが…。
「リーゼ様!状態異常の対結界を、ご自分のみに展開してください!」
「わ、分かったわ!」
リーゼが結界を発動させた事を確認し、私は魔法を周囲に放った。
「《睡眠》。」
リーゼ以外の全員が、バタバタと倒れ眠りに落ちた。
私が魔法を解かない限り、目覚めないようにしている。
「……眠っている………だけ……?」
「はい。罪のない者を殺すようなことはしませんよ。相手がリーゼ様の同郷の方ならば尚更です。」
「……そう…。ありがとう。」
「当然のことをしたまでですよ。」
結界内に閉じ込められていたのは、精霊達だった。
リーゼが言っていた、ジルディガーに連れ去られた精霊だろう。
ジルディガーは結界内に連れて来た精霊を全て閉じ込めるつもりだったはず。
しかし魔法具の動力源としては12人の精霊の魔力で足りた為、13人目のリーゼのみが地上に移された。
リーゼが死魔の森の魔力に侵食され、理性を失うことをジルディガーは分かっていたのだろう。
だからこそ、彼女には何も魔法をかけなかった。
その後、私達とリーゼが偶然出会ったといったところだろう。
一先ず精霊達を連れて、リーゼと共に《瞬間移動》にて死魔の森から離れた。
人目の付かない場所を考え、転移した先は……
「ここは…?」
「王城の東側に位置する森を、さらに奥に進んだ場所です。数日前、『災厄日』があった森ですね。『災厄日』から日が浅い今は、人の立ち入りが制限されています。」
「……私について来て。」
「えっ!?…ま、待ってくださいリーゼ様!」
颯爽と浮遊魔法にて木々の間をすり抜けていくリーゼ。
追いかけるだけでも大変なのに、精霊達を《飛行》で浮かせながら、さらには木々に当たらないよう操りつつ追いかけなければならない。
「リーゼ様、少しゆっくり進みませんか!?」
「もうすぐだから我慢して頂戴!」
スピードは30km以上だろう。
直線を進むだけならば問題のない速さだが、ここは森の中。
かなりの集中力が必要だ。
一体リーゼはどこに向かっているのだろうか…。
「──ここよ。」
「……久しぶりに疲れましたよ…。」
「貴女でも疲れるのね。」
「木々の間を猛スピードで進むなんてこと、普通はしませんからね…。それはそうと、ここは確か……」
「『ルーヴの森』よ。人間達からは、『永路の森』なんて呼ばれ方もしているけれど。」
森の中にある霧がかかった見通しの悪い場所、『ルーヴの森』。
別名『永路の森』と呼ばれていた。
『永遠に続く路』、それがこの名の由来だ。
ルーヴの森に入った途端、ずっと同じ道をループさせられるのである。
引き返すことは可能だが、進むことは不可能。
空から見ても霧で覆われてよく見えなかった。
今は誰も寄り付かない場所となっている。
森の中心に空から降りようとした時は、霧がまとわりついてきて、視界が見えなくなった。
そして目の前が開けてきたと思ったら、霧の外側の森に移動していた。
それ以降ルーヴの森には近付くことすらなかったが……
「まさか予想が当たっていたとはね…。」
「……答え合わせのつもりだった、ということね。」
リーゼの言う通り、私はあえて東側の森に転移した。
精霊達の住処たる『精霊の里』が、ルーヴの森にあるのではと考えていたからだ。
ルーヴの森近くの地点に転移することで、私の予想が正しければリーゼが案内してくれるだろう…と。
「まぁ、貴女になら話しても良いでしょう。」
そう言うと、リーゼはこの森のことを話し始めた。
ルーヴの森にかかっている霧は、精霊族が生み出した設置型魔法具によるものらしい。
人の感覚を狂わせ、幻影を見せることで同じ場所を回り続けるようにしているとの事。
ただし精霊は何の問題もなく進むことが出来る。
何故魔法具の影響を受けないのかは教えてくれなかったが、きっと精霊族が持つ眼が鍵となっているのだろう。
「この森の事、誰にも話さないようにして欲しいわ。たとえ相手が国王であってもね。」
「勿論です。一切他言しないと誓いましょう。」
「くれぐれもよろしく頼むわね。」
何を聞かれても、絶対に誰にも話さないと心に決めた。
精霊を敵に回せば、負けるのはこちらだと分かっているからだ。
「この霧の先には一緒に行けないから、ここまでで良いわ。仲間も来てくれるから、彼らを眠らせている魔法だけ解除しておいて。」
「分かりました。──解除。」
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