【完結】王位に拘る元婚約者様へ

凛 伊緒

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23話 公爵家当主

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「誰じゃ?今日会う約束をしていた者などおらぬはずだが…。」

「ディールト・ゼンキースア公爵と名乗る方が、訪ねてきておられます。」

「「…!!」」



 私もゼーファ様も、驚きを隠せなかった。ディールト兄様が、『公爵』と名乗っているのだ。兄様は数日前まで、『次期公爵』或いは『公爵子息』などと呼ばれていた。ゼンキースア公爵家の当主が、アルト・ゼンキースアだったからだ。
 しかし今、護衛は『公爵と名乗った』と言っている。つまりそれが意味するのは、公爵家の当主がディールト兄様に代わったということ。



「入室を許可しよう。」

「はっ!」



 部屋の扉が開かれると、ディールト兄様が入ってきた。完璧な貴族の一礼をし、さらには余裕の表情だ。



「お久しぶりにございます、ゼーファ殿下。急な訪問、誠に申し訳ございません。入室のご許可を頂けたこと、感謝いたします。」

「久しぶりじゃな、ディールトよ。息災そうで何よりじゃ。」

「殿下こそお元気そうで、私も嬉しく思いますよ。」



 ディールト兄様とゼーファ様は同い年だ。故に、幼い頃はよく交流しており、友人だったそう。その時のゼーファ様の様子を、私はディールト兄様から聞いていた。現在と同じように、興味を持ったことは、何事も気が済むまで調べていたようだ。
 そしてゼーファ様は5年ほどかけて、二カ国に留学していた。それも近年、急に栄え始めた国だ。ヴィーレの配下に調べさせたところ、ゼーファ様が絡んでいることが分かった。どうやらアンドレイズ王国の者として、恩を売っていたらしい。見聞を広める為だけに留学しているとは思っていなかったが、王国の利益に繋がることを軽々とやって帰って来たのだと知った時は、本当に驚いたものだ。



「お主に畏まられては反応に困る。昔のように接して欲しいものじゃな。」

「……殿下がそう仰るなら、そうしよう。不敬罪で捕らえないでくれよ?」

「そんなことするはずがなかろう。それで何用じゃ?まさかリエラに会いに来た訳ではあるまい。」



 兄様なら私に会う為だけに来そうな気もするが……というのは黙っておくとして、本当に何用なのだろうか。こちらとしても、聞きたいことは山積みだ。



「そうだ……と言いたいところだが、今日は仕事で訪ねた。先程も名乗った通り、私はゼンキースア公爵となった。つまり公爵家の現当主だ。」

「随分と急な話じゃな。」

「リエラが殿下の下に付いたと聞いたから、公爵を継ぐのは早い方が良いと思ってね。私が調べ上げた前ゼンキースア公爵の悪事を、国王陛下に密告した。すると陛下は直ぐに動いてくださったのさ。」



 ディールト兄様によると、アルト・ゼンキースアは麻薬売買や税の横領など、あらゆる罪を犯していたという。それらの証拠を掴み、タイミングを見計らって国王陛下に提出した。
 そして陛下はその日の内にアルトを捕らえ、投獄したそう。共犯として、公爵夫人も捕らえられたそうだ。
 既に次期当主として認められていたディールト兄様は、罪の告発という功績もあり、陛下から正式にゼンキースア公爵として認められた。



「密告から私が公爵になるまでの一連の流れは、陛下が私の要望に応えてくださったおかげで、秘密裏に行えた。現状、これらの事実を知っているのは、ゼンキースア公爵家の者のみだ。」

「何故秘密裏にする必要があったんじゃ?」

「私が新たな公爵家当主となったことを公表する際に、もう一つ重大なことを公言しようと思ってね。今日はそれを公言しても良いかと許可を貰いに来た。」

「重大なこと?」

「ああ。」



 そう言うと、ディールト兄様はゼーファ様の前に跪いた。
 空気が変わり、兄様が本気なのだと伝わってくる。



「ゼーファ・アンドレイズ王女殿下。私は貴女様が王になることを望み、協力したく存じます。貴女様の下に付くことを、お許しいただきたい。」



 この時、私は思ってしまった。ディールト兄様は貴族家の当主をしているより、騎士として誰かを守っている方が様になるのでは……と。
 しかしそんなことを考えている場合ではないと要らぬ思考を振り払い、ゼーファ様の返答を聞く。



「……願ってもないことじゃ。ディールトが当主になった際には、こちらから頼もうと思っていたくらいじゃからな。」

「それは光栄です。」



 兄様とゼーファ様は、互いに力強い握手を交わした。
 これでジルファーは公爵家という強力な後ろ盾を失うことになる。話が違うなどとジルファーが言ってきたとしても、それはアルトが独断で決めたことであり、罪人の言ったことなど無効だと言い切れるのだ。
 そして逆にゼーファ様は強力な後ろ盾を得ることになる。我が兄ながら、恐ろしいタイミングで行動を起こしたものだ。ジルファーの力がこれまでにないほど弱っている時に、さらに追い討ちをかけたのだから。



「兄様が居るのなら、今後は動き易くなるわね。」

「うむ。優秀且つ信頼できる者が増えるのは、妾にとって嬉しいことじゃ。」



 ディールト兄様という信頼できる味方が増えた。
 とはいえ、まだやるべきことは沢山ある。先ずは貴族の選別だ。いかに優秀であろうと、その者が本当に味方かは分からない。裏切られた場合に面倒なことになるのは目に見えている。



「明日以降の貴族の選別、ディールトも参加してはくれぬか?」

「構わない。今日は公爵となったこと、そしてゼーファ殿下に付くことを公にするから少し忙しいが、明日以降なら問題無いだろう。」

「なら頼もう。お主とリエラが傍らに居れば、何か仕掛けようとしている者の抑止力になるであろう。」



 ディールト兄様は頷くと、やることが山積しているからと足早に部屋を退室して行った。
 部屋には私とゼーファ様、そしてリリアナの三人のみだったのだが、影からヴィーレが出てきた。



「ねぇ王女サマ。貴族と会う時、ボクもメイドとして部屋に居てもいいかな?」

「お主がそうしたいのならば、許可しよう。」

「感謝するよ。ボクは感情に敏感だから、きっと役に立つと思う。」



 《悪魔族》は対象の感情を読み取り、それを元に復讐心や恐怖心などの負の感情を煽る。つまり相手が何を思っているのかを、感情で察することができるのだ。



「ならばメイド服を用意しなければなりませんね。ヴィーレさん、こちらへどうぞ。」



 ヴィーレは嬉々としてリリアナに付いて行き、隣接する部屋へと入って行った。十数分後、戻ってきたヴィーレは既にメイド服を着ていた。



「どう?主。似合ってる?」

「…似合ってるわ。」

「だよね!ボクも気に入ったよ。」

「……相変わらずノリノリね…。好きにしたら良いけれど。髪色は変えておいて。ラリエットの侍女だと気付かれることは避けたいわ。」

「なら、色だけじゃなくて長さも変えようか。」



 ヴィーレが魔法を使うと、彼女の髪は白銀の長髪へと代わった。その髪を一つに結い、顔を上げた。
 身長は変わらないが、普段とは違って少し大人の雰囲気が出ている。いつもの姿は不気味さがあるが、この姿も妖しさが出ていた。



「そんなこともできるのじゃな…。」

「魔法は何でもアリだからね。」

「しかし、メイドの手続きを正当に済ませている訳ではないのでな。この部屋を出る時は、着替えてからにしてくれ。」

「承知だよ。と言っても、ボクは主の影に入っているから、扉から部屋に出入りしたことはないんだよね。執務室へ行く時も同じようにするから、大丈夫だと思うよ。」

「それもそうじゃな。ならば安心じゃ。」



 こうして、貴族達を見極めるための準備は整ったのだった。
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