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番外編
気分転換
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-とある日-
国王陛下の書斎へと、私は足を運んでいた。
『国王陛下』と言っても、ディルジアなのだが。
そろそろ仕事が終わる頃かと思い、様子を見に来たのだ。
夕暮れ時だが、そんな時間にディルジアと見に行きたい場所があった。
「陛下、今日もお疲れ様です。」
「リフィか。珍しいね、この時間に来るなんて。それと、今は僕とサールズしか居ないんだから、普通で良いよ。」
「承知致しました……分かったわ、ディア。僕って言っている時点で、気を抜いているのは分かっていたけれどね。」
結婚し家族となった今、私は距離を縮める為にディルジアのことを愛称呼びの敬語なしで接するようになっていた。
当時、そうしても良いかと聞いたら、とても嬉しそうな表情でぜひそうしてくれと言われたほどだ。
(そういえば昔、エフェンに対する時と同じように接してくれって言われたことがあったような……。まぁ、今更どうでもいいことよね。)
と思いつつ、今に至る。
「ヴァリフィア王妃陛下。ご無沙汰しております。」
「サールズ、そんなにかしこまらなくていいわよ。貴方に『王妃陛下』と呼ばれると、距離が遠く感じてしまうもの。学園も一緒だったのだから、軽い感じで構わないのよ?」
「いえ、そういうわけには参りません。かつての『ヴァリフィア様』は、今や国王陛下の奥方、『ヴァリフィア・ツィレイル王妃陛下』なのですから。」
「そう……相変わらず硬いわね。」
以前サールズから、
『王妃陛下ともあろう方が私に敬語を使われていては、周囲の目が許さないでしょう。』
と言われ、仕方なく敬語を使わなくなった。
今ではそれが普通なのだが、サールズに私と同じように接してほしいと頼んでも、頑なに拒否されてしまう。
頭を下げ言葉を発しなくなったサールズを見て、部屋に沈黙が流れる前にディルジアが口を開いた。
「それで?何用かな、リフィ。」
「仕事はもう終わったのかしら?」
「ああ。今終わったところだ。」
「……。」
「そうだろう?サールズ。」
「……そう…ですね。丁度終わったところにございます。」
サールズの言葉に、一瞬の間があった。
ディルジアは仕事が終わっていないのだと察した。
そこで……
「それは良かったわ。この時間に一緒に行きたい場所があって…。」
「どこだい?」
「それは……行ってからのお楽しみよ。では行ってくるわね、サールズ。」
「お気をつけて。」
「ええ。そんなに長くは空けないわ。」
「…!承知致しました。」
「?」
私の言葉を正しく理解したサールズは、感謝が伝わってくるような声でそう答えた。
ディルジアは1人、何のことか分かっていない様子。
賢いはずだが、こういうところは察しが悪いのである。
そうして私が瞬間移動で転移した先は、綺麗な夕焼けが見える場所。
「ここは……。」
「王城の上、かつてディアが教えてくれた場所よ。何もかも忘れられる……と言っていたディアが、今では懐かしいわね。」
「そうだね…。」
「特に、この時期は特別なの。」
「特別?冬が、か?」
「そうよ。冬は空気が澄んでいて、より綺麗に見える。そういう季節なの。」
「なるほどな…。」
夕日が沈んでいき、今度は王都が輝きを放ち始める。
この光景は、どれだけ時が経とうとも変わらない。
何故かほっとするような、そんな景色だった。
「……どうしてリフィは、この場所に連れてきたんだい?」
「国王になってから、いつも忙しそうにしているでしょう?休む暇もなく働いて……。だから、少しでも仕事のことを忘れられる時間を作ってあげたいと思ったの…。その……迷惑だったかしら…?」
「そんなことはないよ。ありがとう。本当に嬉しいよ…。そしてごめん。あまり一緒にいる時間を作ってあげられなくて……。」
「気にしないで。最近は特に忙しそうだもの。無理に私に付き合う必要はないわ。」
「しかし……。」
「一緒にいてほしいときは、私が今日みたいに書斎を訪ねるわ。だから本当に気にしないで。」
「……分かった。ありがとう。」
「さて、そろそろ帰りましょうか。」
「え、もう帰るのか?」
「勿論っ。というわけで早速……。」
「ちょ、えっ!?持って待って、ま……」
ディルジアが制止するより先に、私は瞬間移動にて書斎へと戻る。
そこには笑顔のサールズが居た。
「ええっ…と……。」
「おかえりなさいませ。」
「ただいま。邪魔をして悪かったわね。残りは私も少し手伝うわ。」
「いえ、王妃陛下の手を煩わせるわけには参りません。これは国王陛下のお仕事ですので、お気持ちだけ受け取らせていただきます。」
「そう…。分かったわ。そういうわけだから、頑張って。仕事、残っているのでしょう?」
「全く、君に嘘はつけないな…。あのままあそこで忘れていたかったよ……。」
「ちょっとした、気分転換にはなったと思うけれど。」
「そうだな…。ありがとう、リフィ。今度はゆっくりとしたいものだ。」
「ええ、そうね。その為にも、仕事は早く終わらせてほしいものだわ。」
「分かったよ……。努力はするさ。」
「仕事量が多いのは分かっているから、手伝ってほしい時は言って頂戴ね。協力するから。」
「助かるよ。また何かあった時は手を貸してくれ。」
「勿論よ。ではまた。」
そうして私はその場を去ったのだった。
国王陛下の書斎へと、私は足を運んでいた。
『国王陛下』と言っても、ディルジアなのだが。
そろそろ仕事が終わる頃かと思い、様子を見に来たのだ。
夕暮れ時だが、そんな時間にディルジアと見に行きたい場所があった。
「陛下、今日もお疲れ様です。」
「リフィか。珍しいね、この時間に来るなんて。それと、今は僕とサールズしか居ないんだから、普通で良いよ。」
「承知致しました……分かったわ、ディア。僕って言っている時点で、気を抜いているのは分かっていたけれどね。」
結婚し家族となった今、私は距離を縮める為にディルジアのことを愛称呼びの敬語なしで接するようになっていた。
当時、そうしても良いかと聞いたら、とても嬉しそうな表情でぜひそうしてくれと言われたほどだ。
(そういえば昔、エフェンに対する時と同じように接してくれって言われたことがあったような……。まぁ、今更どうでもいいことよね。)
と思いつつ、今に至る。
「ヴァリフィア王妃陛下。ご無沙汰しております。」
「サールズ、そんなにかしこまらなくていいわよ。貴方に『王妃陛下』と呼ばれると、距離が遠く感じてしまうもの。学園も一緒だったのだから、軽い感じで構わないのよ?」
「いえ、そういうわけには参りません。かつての『ヴァリフィア様』は、今や国王陛下の奥方、『ヴァリフィア・ツィレイル王妃陛下』なのですから。」
「そう……相変わらず硬いわね。」
以前サールズから、
『王妃陛下ともあろう方が私に敬語を使われていては、周囲の目が許さないでしょう。』
と言われ、仕方なく敬語を使わなくなった。
今ではそれが普通なのだが、サールズに私と同じように接してほしいと頼んでも、頑なに拒否されてしまう。
頭を下げ言葉を発しなくなったサールズを見て、部屋に沈黙が流れる前にディルジアが口を開いた。
「それで?何用かな、リフィ。」
「仕事はもう終わったのかしら?」
「ああ。今終わったところだ。」
「……。」
「そうだろう?サールズ。」
「……そう…ですね。丁度終わったところにございます。」
サールズの言葉に、一瞬の間があった。
ディルジアは仕事が終わっていないのだと察した。
そこで……
「それは良かったわ。この時間に一緒に行きたい場所があって…。」
「どこだい?」
「それは……行ってからのお楽しみよ。では行ってくるわね、サールズ。」
「お気をつけて。」
「ええ。そんなに長くは空けないわ。」
「…!承知致しました。」
「?」
私の言葉を正しく理解したサールズは、感謝が伝わってくるような声でそう答えた。
ディルジアは1人、何のことか分かっていない様子。
賢いはずだが、こういうところは察しが悪いのである。
そうして私が瞬間移動で転移した先は、綺麗な夕焼けが見える場所。
「ここは……。」
「王城の上、かつてディアが教えてくれた場所よ。何もかも忘れられる……と言っていたディアが、今では懐かしいわね。」
「そうだね…。」
「特に、この時期は特別なの。」
「特別?冬が、か?」
「そうよ。冬は空気が澄んでいて、より綺麗に見える。そういう季節なの。」
「なるほどな…。」
夕日が沈んでいき、今度は王都が輝きを放ち始める。
この光景は、どれだけ時が経とうとも変わらない。
何故かほっとするような、そんな景色だった。
「……どうしてリフィは、この場所に連れてきたんだい?」
「国王になってから、いつも忙しそうにしているでしょう?休む暇もなく働いて……。だから、少しでも仕事のことを忘れられる時間を作ってあげたいと思ったの…。その……迷惑だったかしら…?」
「そんなことはないよ。ありがとう。本当に嬉しいよ…。そしてごめん。あまり一緒にいる時間を作ってあげられなくて……。」
「気にしないで。最近は特に忙しそうだもの。無理に私に付き合う必要はないわ。」
「しかし……。」
「一緒にいてほしいときは、私が今日みたいに書斎を訪ねるわ。だから本当に気にしないで。」
「……分かった。ありがとう。」
「さて、そろそろ帰りましょうか。」
「え、もう帰るのか?」
「勿論っ。というわけで早速……。」
「ちょ、えっ!?持って待って、ま……」
ディルジアが制止するより先に、私は瞬間移動にて書斎へと戻る。
そこには笑顔のサールズが居た。
「ええっ…と……。」
「おかえりなさいませ。」
「ただいま。邪魔をして悪かったわね。残りは私も少し手伝うわ。」
「いえ、王妃陛下の手を煩わせるわけには参りません。これは国王陛下のお仕事ですので、お気持ちだけ受け取らせていただきます。」
「そう…。分かったわ。そういうわけだから、頑張って。仕事、残っているのでしょう?」
「全く、君に嘘はつけないな…。あのままあそこで忘れていたかったよ……。」
「ちょっとした、気分転換にはなったと思うけれど。」
「そうだな…。ありがとう、リフィ。今度はゆっくりとしたいものだ。」
「ええ、そうね。その為にも、仕事は早く終わらせてほしいものだわ。」
「分かったよ……。努力はするさ。」
「仕事量が多いのは分かっているから、手伝ってほしい時は言って頂戴ね。協力するから。」
「助かるよ。また何かあった時は手を貸してくれ。」
「勿論よ。ではまた。」
そうして私はその場を去ったのだった。
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