月の砂漠のかぐや姫

くにん

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月の砂漠のかぐや姫 第133話

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 ただ、彼女が覚えていたこともありました。それが、あの「はんぶんナノ」の鼻歌なのでした。
「なるほどなぁ。確かにお前の言うとおり、お嬢ちゃんがそこでのことを覚えていないのは、精霊の力のせいなのかもしれねぇな。だが、お嬢ちゃんが覚えているというその唄、俺ははんぶんナノのところしか聞いたことがねぇんだが、本当はもっとあるのか」
 冒頓が言うように、理亜が日頃口ずさんでいるのは「はんぶんナノ」という歌詞だけで、彼女がちゃんとした唄を歌ったことはありませんでした。
「ええ、理亜はそこでのことは忘れてしまっていますし、その唄にしてもほとんど覚えていないんです。はんぶんナノというのは、気に入ったのか、覚えているのですが。ただ、その唄は僕が覚えています。何度も何度も、聞かされたので。それは、こういう唄でした」
 王柔はそう答えると、心を鎮めるように目をつぶってから、静かに歌い出しました。


 はんぶんだ はーんぶん

 僕の前には 女の子
 初めて会った 女の子
 赤い髪した 女の子
 母さん待ってる 女の子

 はんぶんだ はーんぶん
 はんぶんだ はーんぶん

 月の砂漠に 風が吹き
 空の星たち 隠してしまう
 赤土岩山 陽が照らし
 黒い影が 地の色変える

 はんぶんだ はーんぶん

 一つと一つは 一つが二つ
 一つと一つは 二つが一つ
 二つを割ったら 半分が二つ
 二つを割ったら 一つが二つ

 はんぶんだ はーんぶん
 はんぶんだ はーんぶん

 天山お山は 雪被り
 ゴビの砂漠に 水走る
 ヤルダンの上じゃ 砂が舞い
 清き流れが 地下走る

 はんぶんだ はーんぶん

 まんまんまんまる お月様
 はんぶんはんぶん お月様
 ほっそいほっそい お月様
 まっくろまっくろ お月様

 はんぶんだ はーんぶん

 一つと一つは 一つが二つ
 一つと一つは 二つが一つ
 二つを割ったら 半分が二つ
 二つを割ったら 一つが二つ

 はんぶんだ はーんぶん
 はんぶんだ はーんぶん


 王柔はよっぽど何度もこの唄を聞かされたのでしょう。一度も詰まることなく、すらすらと、唄の詩をそらんじて見せました。
「はんぶん」という言葉が出てくるたびに、その横にいる理亜が「はんぶんナノー」と小さな声で合わせるのがとても愛らしくて、羽磋は思わず微笑んでしまいました。またそれと同時に、羽磋は輝夜姫のことも、思いだしていました。彼女も様々な儀式に呼ばれるたびに、精霊との交信として、唄を歌ったものでした。
「精霊と月の民は同じ先祖から分かれたものだけど、今では直接言葉を交わすことはあまりないんだ。だから、わたしが精霊から感じ取ったことを唄にして、みんなにわかるように伝えているの」
 輝夜姫は、どうして唄を歌うのかと尋ねた羽磋に、そう説明をしたものでした。その頃はお互いに今よりももっと子供でしたから、羽磋が「だけど、けっこうわかりにくいぜ、竹の唄は」とまぜっかえし、それに対して輝夜姫が「もう、もともと精霊は言葉で話してくれないんだから、しょうがないの!」とむくれて見せたりしたことも、思いだされました。
 王柔と理亜の話から自分たちの懐かしい出来事を思い出してほっこりしていた羽磋の横で、冒頓はますます王柔の話に興味を持ったようで、顎をさすりながら何かを深く考えるしぐさをしていました。
「王柔、おめぇ・・・・・・」
「は、はい、すみません。冒頓殿」
「はぁ、何を謝ってんだ、おめえは? 王柔、お前、ひょっとしたら、自分で思っているよりも、すごくいい仕事をしてくれたのかもしれねぇぜ?」
「は、はぁ。そうなのですか、冒頓殿」
 冒頓に「なにを意味のないことをしていたんだ」となじられるかと思っていた王柔は、自分の行動を認める彼の言葉を聞いて、拍子抜けを通り越して当惑すら感じてしまいました。
「自分のしたことのどこがいい仕事になるのだろうか、それどころか、そもそも、なにも成し得なかったのではないだろうか」
 王柔にはそう思えてならなかったのでした。
 冒頓はそれ以上王柔には注意を向けずに、じっと何かを考え続けていました。
「あ、あの、冒頓殿。それで、我々はいかがいたしましょうか」
 しばらくの間、冒頓の部下たちは、彼に声をかけて考えを邪魔する役割を、言葉を使わずに目線と態度で押し付け合っていましたが、とうとう、年下にそれを任せるのをあきらめた中年の男が声をあげました。
「ああ、そうだな。ちっ、決めないといけねぇな」
 冒頓はその言葉をきっかけに自分の考えの中から抜け出して、ぐるりと辺りを見回しました。
 そうなのです。今後の行動を決めないといけないのでした。
 交易隊と護衛隊は、サバクオオカミの形をした奇岩に襲われましたが、冒頓の指揮の下でこれを撃退しました。そして、陽が落ちるまでの時間を考慮して、騎馬の者だけでヤルダンに入るか、全体で進めるところまで進んで野営するか、あるいは、一度戻ってヤルダンから距離を取るか、それとも、もっと有効な方法があるならば、それ以外の方法を取るか、それを決めなくてはならなかったのでした。
 それを考える中で冒頓がふと思いついたのが、理亜の「はんぶんナノ」の唄だったのですが、思いのほかそれにまつわる王柔の話が興味深かったので、聞き入ってしまっていたのでした。
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