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月の砂漠のかぐや姫 第201話
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「王柔殿、僕は秋田の一族ではありません。その僕がどうしてこの面を持っているかは、聞かないでください。それに、この面のことは、誰にも話さないようお願いします」
羽磋は面を手にして立ち上がると、王柔の顔を正面から捉えて真剣な表情で話しました。そして、深々と頭を下げました。
「わ、わかりました。何も聞きませんし、誰にも話しません」
王柔は羽磋の改まった様子に気圧されはしましたが、それでも、はっきりと答えました。真剣な言葉には真剣に答える、それが、王柔なりの誠意の表し方でした。
羽磋は王柔の言葉を受けてもう一度頭を下げると、兎の面を顔に当てました。
兎の面は月の巫女の祭祀を司る秋田の一族が持つ面ということもあり、不思議な力を有していました。なんと、それを顔に付けて細く刻まれた両の目を通して外を見ると、通常では見ることができない精霊の力の働きが見て取れるようになるのでした。
羽磋が面を付けた状態で周囲を見渡すと、広い洞窟の中の様子は面をつける前とは違ったように見えました。
洞窟の奥の方から静かに流れ込んでくる水は白く発光していました。兎の面を付けて見ると、精霊の力が働いているところは白く輝いて見えるので、この水に精霊の力が働いていることが、羽磋にははっきりとわかりました。そして、その水が大量に溜まって池の様になっている箇所は、月そのものを溶かして池にしているかのように、白い光を強く発していました。おそらくは、たくさんの水が集まっているので、たくさんの精霊の力が溜め込まれているのでしょう。
川が流れ込んでくる場所とは違ったところにも、白い輝きが集中している箇所が二つありました。それは壁際の奥まったところで、一方はとても強い輝きが集まっていましたが、もう一方は周囲の黒い岩壁よりも僅かに輝きが強い程度でした。どちらの箇所も、白く輝いて見える水面と繋がってはいるものの、黒い影のように見える地面とも接しているので、歩いて調べに行くことはできそうでした。
面を付けない状態で洞窟の内部を見回した時には、その奥まった箇所の変化には気づけていませんでした。羽磋は、この二つの場所を後で調べに行こうと決めて、それがどこにあったかをしっかりと頭の中にしまい込むと、今度は洞窟の上部を見まわしました。こちらの方は、裸眼で見たときとあまり違いはありませんでした。水面から放たれる白い輝き、つまり精霊の力の働きを、複雑な襞を形成した砂岩の天井が反射しているのですが、穴や裂け目があることを示すような変化は認められませんでした。
一通り自分たちの周囲を見回した羽磋は、次に水際で遊んでいる理亜の方を向きました。
「ああ、やっぱりだ」
羽磋が考えていた通りの光景が目に入りましたでした。理亜の身体も、精霊の力を蓄えた水面に負けない程の強い輝きを放っていました。やはり、理亜の身体に起こっている不思議なことは、精霊の力の働きによるものだったのでした。
さらに、羽磋はとても興味深いことに気が付きました。精霊の力が働いている理亜が手ですくった水は、彼女の手の中で青い輝きがとても強くなっていましたが、この面を付けて見た場合でも、池の中にある時よりも白い輝きがとても強くなっていました。
今は兎の面をつけているので、精霊の力の働きを光の強弱として見て取る事ができているのですが、通常では、精霊の力の働きは自然現象の変化などの「働きの結果」としてしか捉えることはできません。その力そのものを見て取ることはできないのです。でも、理亜が手ですくうことで青い輝きが強くなるのは、白い輝きの変化と同じです。それは、精霊の力同士が反応しているものと考えられますし、洞窟全体の状態を見ても、青い輝きの濃淡と面を通して見える白い輝きの濃淡は同じです。これらのことを考えると、この洞窟の中で水が放っているほのかな青い輝きは、非常に珍しいことではありますが、精霊の力が目に見える形で現れているものだと思われました。
理亜がすくった水は水面に戻された後には次第に周囲のものと同化していくのですが、その広がり方を見ていると、水面下に大きく広がる一方で、深いところには沈んではいかないようでした。また、ゆっくりとではありますが、それは洞窟の奥の方の二つの輝きの集まりのうち、輝きの強い箇所の方へと流れていくようでした。
「ふうぅう・・・・・・」
辺りの観察を終えた羽磋は面を外すと、大きく息を吐きました。兎の面を皮袋に戻すと、彼は地面に胡坐をかいて座り込みました。
目にぎゅっと力を込めて周囲を観察していたからでしょうか、とても目が重くて頭も痛みました。このような時は、いつもなら池の水で目を潤したり顔を洗ったりして気分を切り替えるのですが、そこに精霊の力が働いているとはっきりと知った後では、このほのかな青い輝きを放っている水を顔に付ける気にはなれませんでした。彼は目をつぶって両手で顔を覆うと、その痛みが治まるのをじっと待つことにしました。
羽磋は面を手にして立ち上がると、王柔の顔を正面から捉えて真剣な表情で話しました。そして、深々と頭を下げました。
「わ、わかりました。何も聞きませんし、誰にも話しません」
王柔は羽磋の改まった様子に気圧されはしましたが、それでも、はっきりと答えました。真剣な言葉には真剣に答える、それが、王柔なりの誠意の表し方でした。
羽磋は王柔の言葉を受けてもう一度頭を下げると、兎の面を顔に当てました。
兎の面は月の巫女の祭祀を司る秋田の一族が持つ面ということもあり、不思議な力を有していました。なんと、それを顔に付けて細く刻まれた両の目を通して外を見ると、通常では見ることができない精霊の力の働きが見て取れるようになるのでした。
羽磋が面を付けた状態で周囲を見渡すと、広い洞窟の中の様子は面をつける前とは違ったように見えました。
洞窟の奥の方から静かに流れ込んでくる水は白く発光していました。兎の面を付けて見ると、精霊の力が働いているところは白く輝いて見えるので、この水に精霊の力が働いていることが、羽磋にははっきりとわかりました。そして、その水が大量に溜まって池の様になっている箇所は、月そのものを溶かして池にしているかのように、白い光を強く発していました。おそらくは、たくさんの水が集まっているので、たくさんの精霊の力が溜め込まれているのでしょう。
川が流れ込んでくる場所とは違ったところにも、白い輝きが集中している箇所が二つありました。それは壁際の奥まったところで、一方はとても強い輝きが集まっていましたが、もう一方は周囲の黒い岩壁よりも僅かに輝きが強い程度でした。どちらの箇所も、白く輝いて見える水面と繋がってはいるものの、黒い影のように見える地面とも接しているので、歩いて調べに行くことはできそうでした。
面を付けない状態で洞窟の内部を見回した時には、その奥まった箇所の変化には気づけていませんでした。羽磋は、この二つの場所を後で調べに行こうと決めて、それがどこにあったかをしっかりと頭の中にしまい込むと、今度は洞窟の上部を見まわしました。こちらの方は、裸眼で見たときとあまり違いはありませんでした。水面から放たれる白い輝き、つまり精霊の力の働きを、複雑な襞を形成した砂岩の天井が反射しているのですが、穴や裂け目があることを示すような変化は認められませんでした。
一通り自分たちの周囲を見回した羽磋は、次に水際で遊んでいる理亜の方を向きました。
「ああ、やっぱりだ」
羽磋が考えていた通りの光景が目に入りましたでした。理亜の身体も、精霊の力を蓄えた水面に負けない程の強い輝きを放っていました。やはり、理亜の身体に起こっている不思議なことは、精霊の力の働きによるものだったのでした。
さらに、羽磋はとても興味深いことに気が付きました。精霊の力が働いている理亜が手ですくった水は、彼女の手の中で青い輝きがとても強くなっていましたが、この面を付けて見た場合でも、池の中にある時よりも白い輝きがとても強くなっていました。
今は兎の面をつけているので、精霊の力の働きを光の強弱として見て取る事ができているのですが、通常では、精霊の力の働きは自然現象の変化などの「働きの結果」としてしか捉えることはできません。その力そのものを見て取ることはできないのです。でも、理亜が手ですくうことで青い輝きが強くなるのは、白い輝きの変化と同じです。それは、精霊の力同士が反応しているものと考えられますし、洞窟全体の状態を見ても、青い輝きの濃淡と面を通して見える白い輝きの濃淡は同じです。これらのことを考えると、この洞窟の中で水が放っているほのかな青い輝きは、非常に珍しいことではありますが、精霊の力が目に見える形で現れているものだと思われました。
理亜がすくった水は水面に戻された後には次第に周囲のものと同化していくのですが、その広がり方を見ていると、水面下に大きく広がる一方で、深いところには沈んではいかないようでした。また、ゆっくりとではありますが、それは洞窟の奥の方の二つの輝きの集まりのうち、輝きの強い箇所の方へと流れていくようでした。
「ふうぅう・・・・・・」
辺りの観察を終えた羽磋は面を外すと、大きく息を吐きました。兎の面を皮袋に戻すと、彼は地面に胡坐をかいて座り込みました。
目にぎゅっと力を込めて周囲を観察していたからでしょうか、とても目が重くて頭も痛みました。このような時は、いつもなら池の水で目を潤したり顔を洗ったりして気分を切り替えるのですが、そこに精霊の力が働いているとはっきりと知った後では、このほのかな青い輝きを放っている水を顔に付ける気にはなれませんでした。彼は目をつぶって両手で顔を覆うと、その痛みが治まるのをじっと待つことにしました。
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