月の砂漠のかぐや姫

くにん

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月の砂漠のかぐや姫 第209話

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「じゃあ、もう一つの方も・・・・・・」
「そうですね、やってみましょう。理亜、あっちの洞窟にもお願いできるかな」
「うんっ。いいヨ」
 羽磋に促された理亜は、とても嬉しそうに小走りで奥の洞窟の方へ向いました。そのすぐ後ろには羽磋と王柔が続きましたが、王柔はいつでも抜けるようにと自分の短剣の柄をしっかりと握りしめていました。
 すぐに奥の洞窟の方の内部にも、理亜の甲高い「誰かいますかあ」という呼び掛けが響き渡りました。こちらの方の洞窟でもそれは長く響き続けましたから、どうやら奥の方までずっと続いていると考えることができそうでした。
「う、羽磋殿。これでいいですよね。どちらも同じように理亜の声が長く響くことがわかりましたから、い、一度、戻りませんか」
 洞窟の奥の方から何かが飛び出して来やしないかと、少し離れたところからこわごわと入り口を見つめていた王柔が、羽磋に提案しました。やはり、得体の知れない場所で大声を出すことへの心配がどうしても拭い去れないようで、必要な調べが終わったのであれば、一刻も早くこの場を立ち去りたいと思っているようでした。
 もともと、彼らはこの辺り、つまり、羽磋が兎の面をつけて見まわした時に気になった場所を中心にした大空間の奥の方を調べた後で、一度は元の場所に戻ることにして、駱駝を置いてきていました。また、そこには、駱駝に載せてあった荷で流されずに済んだものも置いてありました。やはり、それらを置いたままにして、どちらかの洞窟の中へ足を進めていくわけにはいきません。
 「もう調べられることは調べたな」と考えた羽磋は、一度元の場所に戻ることに決めて、まだ洞窟の奥の方から声が返ってこないかと聞き耳を立て続けている理亜に声を掛けました。
「理亜、王柔殿が元の所に一度戻ろうと言っているよ。洞窟の奥からは返事がないようだから、戻ろうか」
「ん・・・・・・。ん、わかった」
 初めの場所に戻ると決まったとたんに、王柔は歩き出していました。羽磋はその様子を見て、理亜に早くおいでと手招きをします。理亜はもう少しこの場で聞き耳を立てていたかったのですが、羽磋の方へとちょこちょこと走り寄りました。
 王柔に少し待つように呼び掛ける羽磋の隣に来た時に、理亜は立ち止まりました。そして、もう一度洞窟の方へ耳を向けました。それは、後で呼び掛けた奥の方の洞窟から、何かが聞こえたような気がしたからでした。
「ア・・・・・・。なんだろ・・・・・・」
「どうしたの? 理亜」
 王柔に追いつくために歩き出そうとしたのに急に立ち止まってしまった理亜に、羽磋は声を掛けました。
「ん・・・・・・。ン・・・・・・。アレ?」
 始め、理亜には誰かの声がほんの微かに聞こえたような気がしたのですが、自分に話しかける羽磋の声がそこに被さってしまいました。その後で、改めて耳を澄ました時には、ざわざわという水音以外は耳に入ってこなくなっていました。
 こうなってしまうと始めに聞こえたような気がした人の声も、本当に聞こえていたかどうかはわからなくなってしまいます。それに、本当に人の声が聞こえていたとしても、それは洞窟の奥の方で岩壁に当たって戻ってきた自分の声かもしれません。実際のところがよく判らなくなってしまった理亜は、だんだんと王柔のところに早く行きたくなってきたので、羽磋には声が聞こえたような気がしたとは言わずに、王柔の所に早く行こうとだけ伝えました。
「うううん。何でもない。早く、オージュのところへ行こっ」
「よし、行こうか」
 足を止めて待っている王柔のところへ、二人はできるだけの速さで歩き出しました。
 ザッジャ・・・・・、ジャワザワワ・・・・・・。
 彼らの背後では、岩壁に大きな口を開けた二つの洞窟が、これまでと変わらずにほのかに青く光る水を飲み込み続けていました。いまではもう、理亜の立てた大声の残響は残っておらずに、川のように流れる水の音だけが響いていました。


 駱駝を置いた場所へ戻る途中も、なにか気にかかるところはないかと、羽磋は周りを見回しながら歩いていました。でも、一度調べた場所であるからでしょうか、それとも彼の心の中では進む道が定まってきているからでしょうか、戻るときの足並みは来るときのそれに比べて、ずっと速くなっていました。
 それでも、この地下の大空間はとても広かったので、羽磋たちが駱駝を置いた場所に戻ってきたときには、彼らはすっかりとくたびれてしまっていました。
 一方で、置いてけぼりにされていた駱駝の方はのんびりとしたもので、戻ってきた主人たちの方をちらりと見ただけでそれ以上の関心は向けずに、口をもぐもぐと動かし続けていました。いったい、この駱駝は何を食べているのでしょうか。地下の大空間には駱駝が食べられるような植物は生えていませんでしたが、彼らは胃の中のものを口に戻して何度もよく噛む性質があり、今もそれを行っているところなのでした。
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