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月の砂漠のかぐや姫 第210話
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「ああ、羽磋殿、疲れましたねぇ。理亜も疲れただろう、座って休もう」
元の場所に戻って来て安心したのか、王柔は大きな声を出すと、どさっと崩れるように座り込みました。理亜は王柔のように疲れた様子は表に出していませんでしたが、彼の横に座りました。
「確かにすごく疲れました。いったいどれだけ歩いたんでしょう」
羽磋も、自分の身体がずいぶんと重く感じられるようになっていました。彼も王柔と理亜の横に腰を下ろすと、ほうっと大きな息をつきました。
遊牧民として羊などの家畜を追いながら長い距離を移動する生活をしてきた羽磋。ヤルダンの案内人として交易隊の先頭を立って歩くのを仕事とする王柔。彼ら二人とも、長い距離を歩くのには慣れていました。でも、交易路から落下した川の中を激流にもみくちゃにされながら流されたり、四方を岩壁で閉ざされた圧迫感のある空間の中を、「どこかに外に出る手掛かりはないか」、さらには、「どこかから危険なものが飛び出して来やしないか」と、気を張り詰めながら歩きつづけた経験などありませんでした。ですから、彼ら二人ともは体の芯まで疲れきっていて、こうして腰を下ろしてしまうと、もう一度立ち上がって歩くことはできないと、感じてしまうのでした。
「羽磋殿、しっかりと調べてはいませんでしたが、理亜の駱駝に載せていた荷のいくらかは流されずに残っています。多分、いくらかの食料と水はあると思いますから、今日はここで野営としませんか」
王柔は地面に寝転ぶと、そのままの態勢で降ろしておいた荷の方へ手を伸ばしました。もう、少しの距離であっても歩きたくはありませんでしたし、腰を上げることすらしたくはなかったのでした。
王柔が手元に寄せたのは、理亜の駱駝に載せていた王柔と理亜の皮袋で、その中には彼らが歩いている間に飲むための水と、少しばかりの干した果物が入っていました。
交易隊として隊列を組んで長い旅をするときには、交易の荷を運ぶ駱駝と共に隊員と駱駝や驢馬等の命を保つための糧食と水を運ぶ駱駝が設けられます。土光村からヤルダン内部へ、そして、その後は吐露村へという、比較的短い行程の調査に出た冒頓の護衛隊も、吐露村への荷を運ぶ駱駝の他に糧食と水を運ぶ駱駝を用意していました。でも、ゴビの砂漠はとても暑くて乾燥していることろでしたから、水はいつでも飲めるようにしておかなければなりません。そのため、多くの隊員は、腰には羊や駱駝の胃を乾かして作った小ぶりな水袋を下げ、自分の乗る馬や引いて歩く駱駝には、もっと大きな水袋を積んでおくのが常でした。そして、寝るときに使うマント等と共に僅かばかりの干し肉や乾果も自分の皮袋に入れておいて、疲れたときなどにはそれを口に入れてしのぐことにしていたのでした。
「そうですね、今日はここで休むとしますか。あの洞窟の所まで戻って中へ入っていく体力は、とても残っていないですしね」
羽磋は、一見ものぐさに見える王柔の様子を見て、苦笑しながら答えました。王柔がどれだけ疲れているのかは、自分自身の疲れからよく判りました。王柔から勧められた水と食べ物を自分も手持ちがあるからと断ると、羽磋は仲良く水と食べ物を分け合う二人を見ながら、自分の大切なものを入れた皮袋から水袋を取り出して口を付けました。
大事なものを見逃すことが無いようにと気を張り詰めながら歩いていたせいなのでしょうか、羽磋は長い間水を飲むのも忘れていたようで、身体はすっかりと乾ききっていました。飲み込んだ水が喉を通って身体の中へ落ちていき、それがじんわりと手足に染み渡っていくのが感じ取れるような気がしました。
「ああぁ、水がうまい・・・・・・。これだけ疲れたのも久しぶりかな。それにしても、少しだけど水と食べ物が手元にあって助かったな。飲む水が無くなってどうしようもなくなったら、川の水があるけど・・・・・・」
羽磋は、萎びた植物が水を得て元気になるように、自分の身体に活力が戻ってくるのを感じました。すると、張り詰めていた気も少し緩まってきたのか、とりとめのないことが頭に浮かび始めました。
羽磋がちらりと視線を送った先では、池のように溜まっている膨大な量の水がありました。この水は羽磋たちが交易路から落下した際に落ち込み、そのまま流されていった川の水で、その過程で彼らはずいぶんとその水を飲み込んでいましたから、いまさらどうこうと言うことは無いはずでした。それでも、羽磋はこう考えずにはいられませんでした。
「できれば、あの水は、あまり飲みたくはないよなぁ」
羽磋がこのように考えるのは、川を流れているときには目立っていなかったのですが、こうして地中の閉鎖空間と言う真っ暗な中で池のように大量に水が溜まっていると、それがほのかに青い光を放っているのが、肉眼でもはっきりとわかるからでした。そして、その青い光は精霊の力の現れであることも、兎の面を通して見たことでわかっているのでした。精霊の力が働いているものを口にする・・・・・・、今までその様なことを考えたことがなかったので、それが果たして良いことなのかどうか少し戸惑っているというのが、今の正直な気持ちでした。
元の場所に戻って来て安心したのか、王柔は大きな声を出すと、どさっと崩れるように座り込みました。理亜は王柔のように疲れた様子は表に出していませんでしたが、彼の横に座りました。
「確かにすごく疲れました。いったいどれだけ歩いたんでしょう」
羽磋も、自分の身体がずいぶんと重く感じられるようになっていました。彼も王柔と理亜の横に腰を下ろすと、ほうっと大きな息をつきました。
遊牧民として羊などの家畜を追いながら長い距離を移動する生活をしてきた羽磋。ヤルダンの案内人として交易隊の先頭を立って歩くのを仕事とする王柔。彼ら二人とも、長い距離を歩くのには慣れていました。でも、交易路から落下した川の中を激流にもみくちゃにされながら流されたり、四方を岩壁で閉ざされた圧迫感のある空間の中を、「どこかに外に出る手掛かりはないか」、さらには、「どこかから危険なものが飛び出して来やしないか」と、気を張り詰めながら歩きつづけた経験などありませんでした。ですから、彼ら二人ともは体の芯まで疲れきっていて、こうして腰を下ろしてしまうと、もう一度立ち上がって歩くことはできないと、感じてしまうのでした。
「羽磋殿、しっかりと調べてはいませんでしたが、理亜の駱駝に載せていた荷のいくらかは流されずに残っています。多分、いくらかの食料と水はあると思いますから、今日はここで野営としませんか」
王柔は地面に寝転ぶと、そのままの態勢で降ろしておいた荷の方へ手を伸ばしました。もう、少しの距離であっても歩きたくはありませんでしたし、腰を上げることすらしたくはなかったのでした。
王柔が手元に寄せたのは、理亜の駱駝に載せていた王柔と理亜の皮袋で、その中には彼らが歩いている間に飲むための水と、少しばかりの干した果物が入っていました。
交易隊として隊列を組んで長い旅をするときには、交易の荷を運ぶ駱駝と共に隊員と駱駝や驢馬等の命を保つための糧食と水を運ぶ駱駝が設けられます。土光村からヤルダン内部へ、そして、その後は吐露村へという、比較的短い行程の調査に出た冒頓の護衛隊も、吐露村への荷を運ぶ駱駝の他に糧食と水を運ぶ駱駝を用意していました。でも、ゴビの砂漠はとても暑くて乾燥していることろでしたから、水はいつでも飲めるようにしておかなければなりません。そのため、多くの隊員は、腰には羊や駱駝の胃を乾かして作った小ぶりな水袋を下げ、自分の乗る馬や引いて歩く駱駝には、もっと大きな水袋を積んでおくのが常でした。そして、寝るときに使うマント等と共に僅かばかりの干し肉や乾果も自分の皮袋に入れておいて、疲れたときなどにはそれを口に入れてしのぐことにしていたのでした。
「そうですね、今日はここで休むとしますか。あの洞窟の所まで戻って中へ入っていく体力は、とても残っていないですしね」
羽磋は、一見ものぐさに見える王柔の様子を見て、苦笑しながら答えました。王柔がどれだけ疲れているのかは、自分自身の疲れからよく判りました。王柔から勧められた水と食べ物を自分も手持ちがあるからと断ると、羽磋は仲良く水と食べ物を分け合う二人を見ながら、自分の大切なものを入れた皮袋から水袋を取り出して口を付けました。
大事なものを見逃すことが無いようにと気を張り詰めながら歩いていたせいなのでしょうか、羽磋は長い間水を飲むのも忘れていたようで、身体はすっかりと乾ききっていました。飲み込んだ水が喉を通って身体の中へ落ちていき、それがじんわりと手足に染み渡っていくのが感じ取れるような気がしました。
「ああぁ、水がうまい・・・・・・。これだけ疲れたのも久しぶりかな。それにしても、少しだけど水と食べ物が手元にあって助かったな。飲む水が無くなってどうしようもなくなったら、川の水があるけど・・・・・・」
羽磋は、萎びた植物が水を得て元気になるように、自分の身体に活力が戻ってくるのを感じました。すると、張り詰めていた気も少し緩まってきたのか、とりとめのないことが頭に浮かび始めました。
羽磋がちらりと視線を送った先では、池のように溜まっている膨大な量の水がありました。この水は羽磋たちが交易路から落下した際に落ち込み、そのまま流されていった川の水で、その過程で彼らはずいぶんとその水を飲み込んでいましたから、いまさらどうこうと言うことは無いはずでした。それでも、羽磋はこう考えずにはいられませんでした。
「できれば、あの水は、あまり飲みたくはないよなぁ」
羽磋がこのように考えるのは、川を流れているときには目立っていなかったのですが、こうして地中の閉鎖空間と言う真っ暗な中で池のように大量に水が溜まっていると、それがほのかに青い光を放っているのが、肉眼でもはっきりとわかるからでした。そして、その青い光は精霊の力の現れであることも、兎の面を通して見たことでわかっているのでした。精霊の力が働いているものを口にする・・・・・・、今までその様なことを考えたことがなかったので、それが果たして良いことなのかどうか少し戸惑っているというのが、今の正直な気持ちでした。
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