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17.遭遇

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 ヴェルに美味しい物を食べてもらいたくて、お買い物に出掛けていました。昔はこんな簡単に外に出られなかったのに今は鳥のように自由です!

 ヴェルったら、赤ちゃんも出来ていないのにいつも俺がやるから、アーシャはお茶でも飲んでてくれなんて……

 スゴく嬉しいけど、やっぱり私の作ったお料理も食べて欲しい。

 目移りするようなお店と品々……そんな中で果物を並べる屋台のおじさんが声を掛けてくれました。

「お嬢ちゃん! 美人だね~、リンゴ負けとくよ!」

 ヘンリーに一度も容姿のことを誉められたことなんてないのにヴェルを始め、皆さんがそんなことを……

 まだ、慣れないから恥ずかしい……

「百個下さいっ!」
「いや、お嬢ちゃん……流石にそれは一人じゃ持てないよ」

 つい嬉しくて、いっぱい買い求め過ぎて、窘められてしまいました……片手で抱えられるくらいのリンゴを買わせてもらいお店をあとにします。

 お料理の出来るヴェルでもお菓子を作っているところは見たことがありません。気に入ってくれるか分かりませんが物は試しです……

 はしたないと思いつつも、おねだりしたら……ああ……ヴェルがお仕事から戻ってくるのが待ち遠しいです。

 そんなことを考えていると、ぽ~っとのぼせてきちゃう……ヴェルに抱かれている私を想像しているときでした。

「きゃあ……うぐぐ……う~う~」

 若い女の子の悲鳴が一瞬、木霊します。でも、途中で途切れ……辺りには人気もありません。

 私はどうしても気になり、声が聞こえてきた路地裏をこっそり覗いてみると何者かが女の子の上に馬乗りになっています。

「はぁ、はぁ、貴様は俺に犯され、死んで行くのだ。俺のモノを小さいと言ったこと……地獄で後悔するがいい……」


(まさか乱暴されている!?)


 誰か人を呼んで来ないと! そう思い、振り返ったときでした。靴が石に当たり、ガタッと音を立てしまったのです。

 しまった……

 そう思ったときには遅く、何者かが振り向き、私に向かってきていました。

 その姿が瞳に映ったとき……

「アーシャ!?」
「えっ!?」

 振り向いた怪しい者は仮面を被り、人相を隠していましたが、私の名を呼び、露出していた肌と粗末なモノは間違いなく……


 ヘンリー!!!


 そう思ったときでした。私の後ろに気配を感じたので振り返ろうとすると……

「えっ!?」

 目の前に光る物が写り、私の身体に迫ろうとしていました。腕を上げて防ぐ間なんてありません。

「きゃっ!?」

 殺されてしまうっ! 


 ガキーーーン!!!


 もう斬られると思った瞬間、火花を散らし激しく金属同士ぶつかり合う音が響いたのです。

 曲刀を構えた盗賊のような出で立ちの者の前に外套を棚引かせ、白銀の鎧を纏った騎士が刃を向け、鍔迫り合いを繰り広げていました。

 布で顔を覆い、鋭い目つきの盗賊は騎士の剣技に押され……

「くっ、手強い……」

 そう呟いた瞬間、逃走を図りました。そして、黒い玉を転がすと煙がモクモクと吹き出してきます。

「「ごほっごほっ!」」

 私も騎士の方も蒸せてしまい、煙が晴れたときには辺りを見るとヘンリーと盗賊の姿はありませんでした。

 私の前に立つ騎士の方の鎧は騎士団長の物……

「ヴェル!」

 きっと彼が助けに来てくれたんだと思い、駆け寄り、抱きつきました。

 でも、バイザーを上げ、顔を見せたのはヴェルではなく……銀色の髪にエメラルドのような瞳……私の幼馴染だった……

「ジュール!?」
「アーシャ……会いたかった……」

 ヘルムを脱ぎ去ったジュールは……

 ん……

 いきなり私にキスをしてきたのです。突然のことで拒む間もなく唇同士が触れ合ってしまいました。

「ダメっ」

 我に返り、直ぐに彼から離れたのですが、名残惜しそうにする彼……

「済まない……アーシャ……」
「いえ……」

 気まずい雰囲気になる中、彼はいつもの冷静さを取り戻したのか、ヘンリーらしき男に乱暴されていた女の子に駆け寄り、首に手を当て、脈を診たのですが直ぐに首を横に振っていました。

 しばらくして、彼の部下が駆け付け、彼女の亡骸を運んで行きます。二人で彼女の冥福をお祈りすると……

「私がキミから身を引いたのが全ての間違いだった……」
「仕方ないことです……ジュールは何も悪くなんてない」

「キミがヘンリーから婚約破棄されたと聞いたときは、複雑だった……結婚などしなければ、良かったと。私はまだ、アーシャのことが……」

「ダメです……それより先のことを言っては……私はもうヴェルの婚約者なのですから……」

「ああ……同僚の婚約者に迫るなんてな……どうかしているよ、私は……だが、時々妻の奔放さが羨ましくなる」
「ジュールの奥さん?」

「ああ、ソフィーという。ヴェルの亡き妻の姉だ」

 私はジュールの言葉になんだか、胸騒ぎを感じたのでした。
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