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20.横恋慕

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 ――――ヴェルナーの家。

 私の前に向かって座るジュールは語り始めました。

「私は後悔してばかりだ……王宮に居たときは好きになった人や物は全てヘンリーに奪われた。だが、中でもアーシャを奪われたのが最も辛い……」

「仕方なかったのよ……」

 あの時、出会わなければ、あんな悲しいことには……

「奴からアーシャを奪い返し、駆け落ちしようと何度考えたことか……でも、出来なかった……済まない……」

 席を立ち、私に深々と謝罪するジュール。

「もう終わったことだから、そんなに自分を責めないで……私はヴェルに愛されていますから」

「アーシャ、済まない……」
「もう謝らないで」
「違うんだ、私はまだ、キミのことが……忘れられそうにない」

「ジュール!?」

 コトと眼鏡をテーブルへ置くとゆっくりと私に近づき……

「母上がまだ、存命で王宮に居られたとき、アーシャと出会ったあのときから、キミは美しかった。それは今でも変わらない。キミと過ごした時は私にとって、全く色褪せることはないよ」

 頬に手を触れ、熱い眼差しで見つめられます。

「ジュール……だめ……私にはヴェルが……」

 彼の誘惑を拒み、ゆっくりと後退りしたのですが私の背は壁に触れ……

「さっき、キミを護衛するためと言ったのは嘘だ……仕事をほっぽり出して、逢いに来た」
「えっ!?」

 ドンと壁に手を付き、私の逃げ場を奪います。

「私の中でこのまま、キミを腕の中に抱きたいという思いと親友を裏切る訳にいかないという二つの思いが葛藤している……」

「ダメっ……ジュール……正気に戻って、お願いだから……もう、ヴェルが帰って来ちゃう……」

「安心してくれ、今日はヴェルは戻ってこない。ソフィーに頼み、ヴェルの相手をしてもらうようにお願いしている」

「えっ!?」
「だから、昔の続きを……」

 ん……

 強引に迫られ、また、彼とキスを……

「ジュール……許して、お願い、お願いだから……」

 あんなにも好きだった彼に見つめられ、頬を撫でられて、肌を晒して、心も身体も許しても良いと思っていたのに、今はただ、心が痛んで苦しくなる……

 ジュールが服の上から肌を愛撫しようとしたとき……


 パシンッ!


 彼の頬を平手で打ちました。

「アーシャ……キミの中にもう私はいないのか……」
「ううっ……ごめんなさい、ジュール……」

「私は奴と同じ様にヴェルからキミを奪おうとしてしまった……なんと愚かなのか……」

 私に打たれたことでいつもの冷静さを取り戻してくれたのか、そんなことを呟いていたのです。


        ☆


 ――――近衛騎士団長室。

「ふぅ~……」

 眠い……結局、アーシャを抱いたあと、ずっとアーシャとジュール様のことを考えていたら、一睡も出来なかった。

 凶悪事件が何件もあいつでいるっていうのに……

「ヴェル! おい! ヴェル!」
「ああ……ソフィーか……」
「なんだよぉ、あたしが来てやったつうのに葬式みたいな辛気臭せえ顔しやがって」

「ああ……」
「さっきから、ああ……ばっかだな。何があったか話して見ろよ。一発抜いたみたいに楽になんぜ!」

「お前なぁ……」

 呆れつつも俺はソフィーに全てを打ち明けた。
 
「ああ? お前の婚約者とジュールが浮気!? あの生真面目が歩いてるジュールがか? そういや、今朝、ヴェルを引き留めとけとか言ってたけど……」

「何っ!?」

「待て待て、別に偶には他の男と寝たって良いじゃねえか、減るもんじゃなし」
「お前の貞操観念をアーシャに当てはめるな!」

「んじゃ、信じてやるっつうのが本当の婚約者じゃねえの?」

 はっ……ソフィーは無茶苦茶だが……その通りだ。俺がアーシャを信じなくて、誰が信じるんだ……

 まさかソフィーに気づかされるなんて……

「ところで何でソフィーとジュール様は結婚したんだ?」
「あたしが食ったからに決まってんだろ!」
「いや、それは分かる。でも結婚するのとは別だろ」

「それな~、あいつさ、こんなあたしでも一度、同衾したなら責任を取るとか言い出してさ、もうしつこいのなんの……とうとう、あたしが根負けしたってワケ」

「はは……ジュール様らしい」
「んじゃ、スッキリしたとこで下の方もスッキリと行こうや」

「どうして、そうなる?」
「え~、あたしがイケメンに弱え~の知ってんだろ? って、あいたたたた……」

「おい、大丈夫か!?」

「ちっきしょ~、また目が痛みやがる……分かった分かった、エレオノーラ……ヴェルにちょっかい出さねえから、許してくれって……」

 テーブルに肘を置き、眼帯を押さえて、痛みを堪えるソフィーだった。
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