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PART9
『榊原祥子』
しおりを挟む「あれ!桜庭くんに里帆じゃない」
その時、桜庭くんの背後から聞き覚えのある女性の声が投げかけられた。
「祥子……?」
や、ヤベェ……何もこんなタイミングでこんな場所で偶然バッタリ会わなくてもいいじゃないか。
私は桜庭くんに掴まれた手首をそっと払って、祥子に愛想笑いをした。胃が宙に浮いている気がする。
祥子はその挙動を一瞥するも、特段表情を変えずにいる。
やっぱり新田アユカのあの言葉は事実と異なるのだろうか。もしくは大人になって中学時代の幼い嫉妬など、当に忘れたのだろうか。
祥子のフレームの細いブランド物の眼鏡と、シャープな輪郭を眺めて思案した。
「同窓会以来ね?2人、仲良いじゃん。さては付き合ってるでしょ?あの日も2人で颯爽と消えたしさ。あの後、クラス中の人間が噂してたわよ。
ね、いつからなの」
「いや、あの、祥子……」
「ちょうど同窓会の前くらいからだよ。俺が告白した。また振られたらどうしようかと思ってたけど。
榊原さんは?今日1人?」
その日付設定おかしくないか?と思ったが、よくよく思い起こせば、あの日の同窓会で桜庭くんが私と交際している旨を周りに吹聴していたのだった。
「まさか。私も隣の部署の人と、ちょっとね。いい感じなの。彼、今お手洗い行ってるけど」
「そ、そうなんだ!祥子、こんなところで会えたなんてビックリだよ」
「それはこっちのセリフ!も~、あんまり見せつけないでよね。桜庭くん、私の初恋の人なんだから」
「ははっ、懐かしいなぁ。あれが俺の最後のモテ期だったのかも」
「ご冗談を。今もでしょ?」
祥子と桜庭くんは中学時代の昔話に花を咲かせて笑い合っている。
祥子が私を憎んでいるだなんて、どうやら思い過ごしだったようだ。
もしかしたら同窓会の二次会で思い出話をこんな風に話したかったところを、私達が2人で抜け出したばかりにそれが叶わなかったのかもしれない。そう考えると、幾許かの罪悪感に苛まれる。
「あ、で~も。私見ちゃったわよ。里帆、ついこの前、若い男の子とラーメン屋に行ってたでしょ。確か、丸善屋だっけ?私もたまたまそこで食べてたんだけど、お邪魔みたいだったから話しかけずに終わったわ」
胃が口から飛び出るかと思うほどに、私の体内は誤作動を起こした。
エマージェンシーコールが脳内に鳴り響く。
「いや、あれは上司なの!仕事の相談でたまたま食事しただけ!ラーメン屋だし、食事って程でもないし!」
「えー、あんな若くてカッコいい人が上司だなんて羨ましいわぁ。でもまあ、里帆がモテるのは今に始まったことじゃないか!モテる女は大変ね。ま、せいぜい週刊誌に撮られないように気を付けて。あ、そろそろ私達も行かなきゃ。それじゃね」
祥子はとんでもない爆弾発言を言い残して立ち去った。履いていた細いヒールの音がテラスに木霊する。
私はあまりの恐怖に体をすくませ、桜庭くんの顔も見れずにただ硬直をした。
「……ねぇ、今の話ほんと?一緒に丸善屋行ったのって、もしかして宮野さん?いつ行ったの?」
不機嫌さが最高潮に達した声色だ。明らかに私を責め立てるような口調で桜庭くんは質問責めをしてきた。
「えっと、確か先々週かなあ?でも本当に違うの。仕事の相談をしてただけで」
落ち着き払った様子を必死に演出しながら話すことができた。
『仕事』と口に出せば相手の不満は比較的抑えられるはずだ。真実はどうあれ。
「それってわざわざ食事しながら話すこと?オフィスや会議室で話せばいいことでしょ?何を相談してたの?俺には話せないこと?」
興奮気味の桜庭くんに早口で理路整然と捲し立てられるも、どうにか足を踏ん張る思いで私は返した。
「いや……、ほら、私いつも課長に怒られてばかりでしょ?もう耐えられなくなって。私の仕事ぶりや振る舞いに対して何がどういけないのか、単刀直入に聞いてみたんだよね。かなり勇気がいったけど。ほら、人って食事しながら怒ったり出来ないものじゃない?落ち着いた話し合いをするために敢えて2人で食事へ行ったの」
そう話しながらいかにも深刻な表情を浮かべてみせると、桜庭くんの顔は少しだけ眉をハの字にさせて同情した顔つきに変わった。
私は女優の才があるのかもしれない。
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