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3 7月下旬
夏の自由研究:ベストな松脂とは①
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泰生の自宅マンションから徒歩5、6分の場所にある大型ショッピングモールには、デパートにスーパー、かなりの数の庶民派ブランドショップ、レストラン街、そしてシネコンが入っている。長谷川家の面々が買い物のために、四条河原町や梅田に出なくていいのは、ここで買えないものは超高級ファッションブランドくらいしかないからである。
混雑にややうんざりしつつ、泰生は兄の友樹とファストファッションをぶらりと見てから、近くにある楽器店に向かった。鞄を見に行くと友樹が言うので、1時間後に書店で待ち合わせることにした。
この楽器店の店内面積はそんなに広くないため、電子ピアノと中型までの管楽器しか展示していない。しかし弦楽器の小物は取り扱っているので、何やら賑わっている管楽器コーナーを横目で見ながら、泰生は人が居ない奥まった棚に向かった。
入部届を書いていないのにという、自分への揶揄の気持ちが抑えられないが、泰生はずらりと並ぶ弦楽器用の松脂を眺める。
先月まで使っていたコントラバス用の松脂は、泰生が吹奏楽部に入部した年に卒業した、顔も知らない先輩から譲ってもらったものである。その先輩は4回生になってから新しく松脂を購入し、使いきれないまま卒業を迎えた。社会人になったら楽器はしないから、新入部員にあげて、と言い残していた。
泰生はその松脂を2年と2ヶ月使った。だいぶ小さくなっただけでなく、少し硬くなっているような気がして、新しいものを買うべきかと考えたのだった。
結構高いな、というのが棚の値札を見て抱いた感想だった。しかも、ヴァイオリンやチェロのものより、コントラバス用のほうが高い。3千円のを買って1年半弾いて……とせこい計算を脳内でしていると、男性の店員がにこにこしながら近寄ってきた。
「吹奏楽でコントラバスをお始めですか?」
割といい線突いてくるなと思ったが、自分が1回生と思われたのは意外だった。
「いえ、吹奏楽部で2年やってたんですけど、これから管弦楽団で弾く……ことになりそうで……今まで使ってたのがちっさくなってきて……」
別に店員に経歴を語る必要は無いと気づき、語尾が萎んでしまう。しかし店員は、そうですか、と明るく応じた。
「吹奏楽と管弦楽ではコントラバスに求められる音が違います、松脂も変えたほうがいいですよ」
「そうなんですか?」
思いがけない店員の言葉に、泰生は鞄の中を探る。
「今までこれ使ってたんですけど」
泰生が出した松脂と同じものは、棚にも並んでいた。店員は泰生の掌に乗る紫色のケースを見て、ああ、と笑顔になる。
混雑にややうんざりしつつ、泰生は兄の友樹とファストファッションをぶらりと見てから、近くにある楽器店に向かった。鞄を見に行くと友樹が言うので、1時間後に書店で待ち合わせることにした。
この楽器店の店内面積はそんなに広くないため、電子ピアノと中型までの管楽器しか展示していない。しかし弦楽器の小物は取り扱っているので、何やら賑わっている管楽器コーナーを横目で見ながら、泰生は人が居ない奥まった棚に向かった。
入部届を書いていないのにという、自分への揶揄の気持ちが抑えられないが、泰生はずらりと並ぶ弦楽器用の松脂を眺める。
先月まで使っていたコントラバス用の松脂は、泰生が吹奏楽部に入部した年に卒業した、顔も知らない先輩から譲ってもらったものである。その先輩は4回生になってから新しく松脂を購入し、使いきれないまま卒業を迎えた。社会人になったら楽器はしないから、新入部員にあげて、と言い残していた。
泰生はその松脂を2年と2ヶ月使った。だいぶ小さくなっただけでなく、少し硬くなっているような気がして、新しいものを買うべきかと考えたのだった。
結構高いな、というのが棚の値札を見て抱いた感想だった。しかも、ヴァイオリンやチェロのものより、コントラバス用のほうが高い。3千円のを買って1年半弾いて……とせこい計算を脳内でしていると、男性の店員がにこにこしながら近寄ってきた。
「吹奏楽でコントラバスをお始めですか?」
割といい線突いてくるなと思ったが、自分が1回生と思われたのは意外だった。
「いえ、吹奏楽部で2年やってたんですけど、これから管弦楽団で弾く……ことになりそうで……今まで使ってたのがちっさくなってきて……」
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「吹奏楽と管弦楽ではコントラバスに求められる音が違います、松脂も変えたほうがいいですよ」
「そうなんですか?」
思いがけない店員の言葉に、泰生は鞄の中を探る。
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