レターレ・カンターレ

穂祥 舞

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エピローグ

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――9年ぶりの日本ですね。「東洋の天上歌」が遂に逆輸入です。

篠原圭吾 はい、やっと日本で歌う気になれたというべきなのでしょうか。こんなコンサートを聴きたい人がいるのかなという不安はあります。片山くんと2人で、好き勝手なプログラムを組みました。

――日本ではあまり演奏されないない中世やルネサンス期の歌曲が中心なので、注目されていますよ。片山三喜雄さんのドイツやフランスの歌曲も、メジャーでない佳作で趣向を凝らしていますね。

篠原 片山くんも売れっ子になって引っぱりだこなので、よく私とのジョイントを二つ返事でOKしてくれたと感謝しています。

――篠原さんが片山さんと交流があるというのは、私どもも初耳でした。ご存知ないクラシックファンも多いのではないかと思います。

篠原 大学も大学院も違いますからね。留学先も、片山くんはケルンで私はパリで。彼、ドイツで少し古楽も勉強しているんですよ。夏休みにフランスから会いに行ったとき、どの曲を一緒に歌おうかとお互い子どもみたいにはしゃぎました。

――それで今回、1部で各々ソロで得意なものを歌ってから、2部ではおふたりでダウランドやモンテヴェルディなどを歌うプログラムになったのですね。

篠原 はい。1部は一応、音楽の歴史の流れを意識して、古い曲から交代で歌う予定です。正直な話をすると、私が日本入りしてから、合わせがあまりできないのもあります。まあ私、彼とは合わせられると確信していますけれど。

――プログラムにひとつ、異彩を放っている曲がありますね。

篠原 「恋するくじら」のことですか? 面白い曲ですよ。

――片山さんは日本歌曲もお得意ですけれど、ちょっと篠原さんのイメージではないような気がします。

篠原 私、日本の現代歌曲を外国で積極的に歌うようにしていまして。木下牧子や信長貴富などは結構受けがいいように感じます。昨年カナダで、比較的新しい日本歌曲を英語の字幕付きで歌ったのですが、とても楽しんでいただけたと自負しています。「恋するくじら」もそういった曲のひとつですけれど、実は片山くんと初めて共演した、思い出深い曲なんです。

――そうでしたか。その時片山さんと知り合われた?

篠原 はい、そうです。学生時代に、牧野景織子先生の音楽療法の研究の一環で、辻井将先生からこの曲を渡されました。私も片山くんも大学院の1年目でした。私は学部生時代から牧野先生も辻井先生も知っていましたが、辻井先生が別の大学院の片山くんをいきなり連れてきて、驚きましたね。

――牧野・辻井両先生のご研究ということは、施設かどこかで歌って、学会で成果を報告されたといったものだったのですか?

篠原 その通りです。中規模の老人養護施設で歌わせていただきました。お年寄りは一般的に低い音から聞き取りにくくなりますが、そんな中で男声アンサンブルがどれくらい楽しんでもらえて癒し効果があるのか、調べてらっしゃったとのことです。私もありがたいことに、一部で癒し系と評価していただいていますが、だから「とろけるバリトン」の片山くんが相方だったのかと後々納得しました(笑)。
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