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14 万彩
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晴也の入浴が長いことを知っている晶は、晴也を先に浴室に入らせて、髪を洗い終わるくらいに自分も入って来た。そして有無を言わせず晴也の身体を洗い始めた。
初めてでないにもかかわらず、晴也は洗われることを固辞したが、晶が言うことを聞く筈もなかった。だが背中や肩を優しく人に擦ってもらう気分は、決して悪くはなく、晴也はおとなしく晶に従う。
意外なことに、ちんこを洗う洗わないで揉めずに済んだ。晴也が腰から下を洗う間に、晶は髪をシャワーで濡らし始めた。彼が腕を動かすたびに、肩や背中の筋肉が連動するのに見惚れてしまう。
晴也はたぶん、晶が筋肉男子でなくても好意を抱いていたと思うが、程よく鍛えられた人間の身体は美しいと思うし、それを間近で見せて貰えるのは目の保養だ。
「ショウさん」
「何?」
「筋肉つけ始めたのって、ルーチェで踊るようになってからなのか?」
晴也が洗顔フォームを泡立てながら訊くと、晶は髪をがしがし洗いながら晴也のほうを向いた。
「意識して鍛え始めたのは水曜日のためだけど、バレエとかミュージカルって割とリフト多いからさ、男は自然と筋肉つくよ」
「ふうん……水曜日にエロい視線を向けられるのに抵抗無いの?」
晶は踊りは繊細だが、日常の動作がたまに大雑把である。水栓を思いきり開き、頭のてっぺんからシャワーを浴びるので、髪から流れた泡がそこらじゅうに広がった。
「最初はあったよ、今でも客席回ったら誘われることもあるし……でも慣れたな、タケルさんからそう聞かされた上で受けたから、そんなものだと思ってる」
そっか、と言って晴也は泡立てたものを額と頬に乗せ、ゆっくり顔じゅうに広げた。
「お湯ちょうだい」
顔をすすぐために晶に頼むと、彼は水勢が強いままのシャワーの湯を向けて来た。しかも熱い。
「ちょっとうめて」
「え?」
「こんな熱いお湯で洗顔できない」
晴也は目を閉じたまま晶に訴えた。くすくすと笑い声が浴室に漂う。
「注文の多い小鳥だな」
「おまえ知らないのか、熱くて強い湯は肌に負担をかけるんだ、頭皮はデリケートだからこんな湯で毎日髪を洗ってたら将来禿げるぞ」
そうなのか? と言いながら、やっと晶は湯の温度を下げてくれた。晴也は晶にシャワーヘッドを持たせて、両手で湯を受けて丁寧に顔をすすいだ。
「……可愛いなぁ」
さっぱりしたところで顔を上げると、晶がこちらを覗き込んでいた。晴也は思わず上半身を引いてしまう。
「一緒に風呂に入るのが面白いなんてハルさんが初めてだ」
「……俺は落ち着かないぞ」
「禿げたらたぶん振られるんだろうな」
晴也は言われて少し考えた。
「そうとは限らないけど、今は禿げたショウさんをあまり見たくないかも」
晴也はお返しに晶の背中を流してやることにする。泡立てたタオルで、肩から肩甲骨の辺りを丁寧に擦ると、晶は嬉しげに、晴也の手の動きに合わせて鼻歌を歌っていた。
「俺さ、お風呂とか寝るのとか独立が早かったんだよね」
晴也は晶の腕の筋肉を擦りながら話す。
「子どもの頃の話?」
「うん、父の意向でさ、幼稚園の年中くらいには一人でお風呂入って、一人で寝てたんだ……明里は割と長いこと母と風呂に入ってて、姉ちゃんが結婚するまで姉ちゃんと一緒の部屋だったのに」
「……一人で寂しかったのかな?」
晶に訊かれて、晴也は素直にうん、まあね、と答える。浴室で目を閉じて髪を洗うと、後ろに誰かいるように思えて気が気でなくなった。夜中に強い雨や風の音が窓を叩いたり、消防車が何台も連なりサイレンを鳴らしたりすると、布団に潜り耳を塞いだ。
「だから学生時代にみんなで出かけて一斉にお風呂に入るのって、割と好きだった……夜にだらだら話すのは嫌だったけど、雑魚寝自体は楽しかったかも」
晴也はタオルを晶に手渡す。あとは自分で洗え、の意味だった。お先に、と言いながらゆっくりと浴槽に入る。湯は入浴剤で白濁していた。
「ハルさんがそうしたいなら……毎日一緒に風呂に入って毎晩一緒に寝てもいいんだよ」
晶は身体の前面を洗いながら言った。晴也はうっかりそうだな、と答えてしまうところだった。
「……ショウさんと一緒だと毎晩襲われそうだから嫌」
「発情期の動物じゃないぞ」
「かなりそれに近いじゃないか」
そうかな、と首を傾げながら、晶は身体の泡をシャワーで流す。晴也は浴槽のへりに顎を乗せ、眼福だなと思いつつ晶を眺める。
「あっ、それ! 文鳥ってそんな格好するんだよ、何げに撫でろって要求するんだ」
晶は晴也を見て言い、タオルを巻いた晴也の頭を撫でた。いや、別に撫でろって言ってる訳じゃないから……。
ぬるま湯で丁寧に洗えと話していたばかりなのに、ばしゃばしゃと顔を洗って、晶は浴槽に足を入れて来た。
「ハルさん、ちょい来て」
晶は隅に寄る晴也の腕を引く。
「ちょっとお尻触らせて」
「うえぇっ⁉」
突然の変態的要求に、晴也は奇声を上げてしまった。晶は口をへの字にする。
「……やっぱり嫌か、今日いきなり入れたりしないつもりなんだけどな」
晴也はさりげなく晶に抵抗した。
「じっ、じゃあ何をするつもりなんだよ!」
「解す入門、自分でできないだろ? てか基本タチの仕事だから」
晴也は逃げ出したくなったが、考え直す。処女を失うつもりで覚悟して来たのに、あまり晶をがっかりさせたくない。ひとつ深呼吸して、じりじりと晶の近くに寄った。
「いい子だ」
晶はにっこり笑う。晴也は俯いた。
「そういう言い方をするなって言ってんだろ、俺のほうが年上だ」
「でも経験は俺のほうが多い、大丈夫……大切にするよ」
少しぼやけた視界でも、晶の目が優しく笑ったことがわかる。晴也は気恥ずかしくなりながら、晶の言う通りに、彼の脚の間に膝立ちになる。
「たぶん俺ちんこ勃つけど気にしないで」
晶の左腕が腰に巻きつく。晴也は彼の肩に手を置き、胸をどきどきさせていた。
「もよおしてきたりのぼせそうになったりしたら、すぐ言って」
言いながら晶は、指を尻の割れ目にゆっくり忍ばせてくる。他人どころか、自分でもまともに触ったことの無い場所への異物感に、思わず目を閉じた。
入り口をさわさわと撫でられると、変な気分になった。意外と不快ではなかった。
「うんうん、緊張しないで……割に気持ちいいところの筈だから」
初めてでないにもかかわらず、晴也は洗われることを固辞したが、晶が言うことを聞く筈もなかった。だが背中や肩を優しく人に擦ってもらう気分は、決して悪くはなく、晴也はおとなしく晶に従う。
意外なことに、ちんこを洗う洗わないで揉めずに済んだ。晴也が腰から下を洗う間に、晶は髪をシャワーで濡らし始めた。彼が腕を動かすたびに、肩や背中の筋肉が連動するのに見惚れてしまう。
晴也はたぶん、晶が筋肉男子でなくても好意を抱いていたと思うが、程よく鍛えられた人間の身体は美しいと思うし、それを間近で見せて貰えるのは目の保養だ。
「ショウさん」
「何?」
「筋肉つけ始めたのって、ルーチェで踊るようになってからなのか?」
晴也が洗顔フォームを泡立てながら訊くと、晶は髪をがしがし洗いながら晴也のほうを向いた。
「意識して鍛え始めたのは水曜日のためだけど、バレエとかミュージカルって割とリフト多いからさ、男は自然と筋肉つくよ」
「ふうん……水曜日にエロい視線を向けられるのに抵抗無いの?」
晶は踊りは繊細だが、日常の動作がたまに大雑把である。水栓を思いきり開き、頭のてっぺんからシャワーを浴びるので、髪から流れた泡がそこらじゅうに広がった。
「最初はあったよ、今でも客席回ったら誘われることもあるし……でも慣れたな、タケルさんからそう聞かされた上で受けたから、そんなものだと思ってる」
そっか、と言って晴也は泡立てたものを額と頬に乗せ、ゆっくり顔じゅうに広げた。
「お湯ちょうだい」
顔をすすぐために晶に頼むと、彼は水勢が強いままのシャワーの湯を向けて来た。しかも熱い。
「ちょっとうめて」
「え?」
「こんな熱いお湯で洗顔できない」
晴也は目を閉じたまま晶に訴えた。くすくすと笑い声が浴室に漂う。
「注文の多い小鳥だな」
「おまえ知らないのか、熱くて強い湯は肌に負担をかけるんだ、頭皮はデリケートだからこんな湯で毎日髪を洗ってたら将来禿げるぞ」
そうなのか? と言いながら、やっと晶は湯の温度を下げてくれた。晴也は晶にシャワーヘッドを持たせて、両手で湯を受けて丁寧に顔をすすいだ。
「……可愛いなぁ」
さっぱりしたところで顔を上げると、晶がこちらを覗き込んでいた。晴也は思わず上半身を引いてしまう。
「一緒に風呂に入るのが面白いなんてハルさんが初めてだ」
「……俺は落ち着かないぞ」
「禿げたらたぶん振られるんだろうな」
晴也は言われて少し考えた。
「そうとは限らないけど、今は禿げたショウさんをあまり見たくないかも」
晴也はお返しに晶の背中を流してやることにする。泡立てたタオルで、肩から肩甲骨の辺りを丁寧に擦ると、晶は嬉しげに、晴也の手の動きに合わせて鼻歌を歌っていた。
「俺さ、お風呂とか寝るのとか独立が早かったんだよね」
晴也は晶の腕の筋肉を擦りながら話す。
「子どもの頃の話?」
「うん、父の意向でさ、幼稚園の年中くらいには一人でお風呂入って、一人で寝てたんだ……明里は割と長いこと母と風呂に入ってて、姉ちゃんが結婚するまで姉ちゃんと一緒の部屋だったのに」
「……一人で寂しかったのかな?」
晶に訊かれて、晴也は素直にうん、まあね、と答える。浴室で目を閉じて髪を洗うと、後ろに誰かいるように思えて気が気でなくなった。夜中に強い雨や風の音が窓を叩いたり、消防車が何台も連なりサイレンを鳴らしたりすると、布団に潜り耳を塞いだ。
「だから学生時代にみんなで出かけて一斉にお風呂に入るのって、割と好きだった……夜にだらだら話すのは嫌だったけど、雑魚寝自体は楽しかったかも」
晴也はタオルを晶に手渡す。あとは自分で洗え、の意味だった。お先に、と言いながらゆっくりと浴槽に入る。湯は入浴剤で白濁していた。
「ハルさんがそうしたいなら……毎日一緒に風呂に入って毎晩一緒に寝てもいいんだよ」
晶は身体の前面を洗いながら言った。晴也はうっかりそうだな、と答えてしまうところだった。
「……ショウさんと一緒だと毎晩襲われそうだから嫌」
「発情期の動物じゃないぞ」
「かなりそれに近いじゃないか」
そうかな、と首を傾げながら、晶は身体の泡をシャワーで流す。晴也は浴槽のへりに顎を乗せ、眼福だなと思いつつ晶を眺める。
「あっ、それ! 文鳥ってそんな格好するんだよ、何げに撫でろって要求するんだ」
晶は晴也を見て言い、タオルを巻いた晴也の頭を撫でた。いや、別に撫でろって言ってる訳じゃないから……。
ぬるま湯で丁寧に洗えと話していたばかりなのに、ばしゃばしゃと顔を洗って、晶は浴槽に足を入れて来た。
「ハルさん、ちょい来て」
晶は隅に寄る晴也の腕を引く。
「ちょっとお尻触らせて」
「うえぇっ⁉」
突然の変態的要求に、晴也は奇声を上げてしまった。晶は口をへの字にする。
「……やっぱり嫌か、今日いきなり入れたりしないつもりなんだけどな」
晴也はさりげなく晶に抵抗した。
「じっ、じゃあ何をするつもりなんだよ!」
「解す入門、自分でできないだろ? てか基本タチの仕事だから」
晴也は逃げ出したくなったが、考え直す。処女を失うつもりで覚悟して来たのに、あまり晶をがっかりさせたくない。ひとつ深呼吸して、じりじりと晶の近くに寄った。
「いい子だ」
晶はにっこり笑う。晴也は俯いた。
「そういう言い方をするなって言ってんだろ、俺のほうが年上だ」
「でも経験は俺のほうが多い、大丈夫……大切にするよ」
少しぼやけた視界でも、晶の目が優しく笑ったことがわかる。晴也は気恥ずかしくなりながら、晶の言う通りに、彼の脚の間に膝立ちになる。
「たぶん俺ちんこ勃つけど気にしないで」
晶の左腕が腰に巻きつく。晴也は彼の肩に手を置き、胸をどきどきさせていた。
「もよおしてきたりのぼせそうになったりしたら、すぐ言って」
言いながら晶は、指を尻の割れ目にゆっくり忍ばせてくる。他人どころか、自分でもまともに触ったことの無い場所への異物感に、思わず目を閉じた。
入り口をさわさわと撫でられると、変な気分になった。意外と不快ではなかった。
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