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4 晃嗣、チョコレートを用意する④
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店員が、すりガラスのスリムな瓶の冷酒を持って来た。初めて見る酒だったが、寿司によく合うという。彼女は2つのグラスと、小さなチョコレートが4個入った小皿をテーブルに置いた。
「バレンタインデーのサービスです、このお酒ミルクチョコレートにも合うって評判なんです、是非お試しください」
「へぇ、ありがとう」
朔は心底感心したような声で応じた。イケメンに笑顔を向けられたからか、店員はやや嬉しそうに個室から去った。
寿司にチョコレートという取り合わせがやや微妙なので、先に寿司を食べることにする。晃嗣は2つのグラスに酒を注いでから、朔が取らなかった甘海老を口に入れた。独特の甘みと蕩ける食感が、辛口の冷酒で引き立つように感じた。
「美味しいな」
思わず言うと、朔は満足そうな笑顔になった。
「晃嗣さんはいつも美味しそうにきれいに食べるんだって会社で言うとさ、みんな晃嗣さんが社食にいることに普段気づいてないみたいで、そうなのかってびっくりする」
あ、そう、としか晃嗣は返すことができない。彼のこんな惚気に近い話を聞かされているのは、営業課の人間だろうか。恥ずかしくて、これから営業課のフロアに行けなくなりそうだ。
「……存在感薄くて悪いな、俺も言われてるけど、どうして柴田なんかとつき合ってるんだって言われるだろ?」
「うん、何人かの女子には言われた……晃嗣さんがというよりは、ほんとに男が好きなのかって」
朔の返事が、ネガティブ寄りの晃嗣の問いかけをわざとはぐらかしたのかどうかはわからなかった。続いて朔はまぐろ、晃嗣ははまちの寿司を取る。
「お酒美味しいな、飲み過ぎるやつだ」
「ちょっと食べるもの追加しようか?」
鯵のフライとぶりの塩焼きを注文し、待つ間に酒とチョコレートを試してみることにした。同時にチョコレートを口に入れ、グラスを手にする。確かに、強い甘みが酒の爽やかさを際立たせるような感じがした。
「……これは意外、ホワイトチョコも合いそうな気がする」
朔は楽しそうに言った。晃嗣も彼がものを食べる時にいい顔をするのを見るのが好きなので、思いついて鞄に手を伸ばし、小さな紙袋を出した。
「朔さん、これ……ここにホワイトチョコも入ってるんだ、良かったら試して」
朔は目を丸くした。そして、差し出された小洒落たアースカラーの紙袋と、晃嗣の顔とを見比べる。
「晃嗣さん、これはもしやバレンタインのプレゼント?」
改まって言われると、何か酷く恥ずかしい行動を自分が取っているような気がしてきた。晃嗣は酒のせいでなく、頬が熱くなるのを感じた。……早く受け取ってくれ。
「あ、何というか、先週末人事課の連中から唆されたというか、バレンタインにチョコレートを渡すとかしないのかみたいな話になって」
早口になる晃嗣を見て、朔はくくっと笑った。そして紙袋に手を伸ばしてくれたが、受け取り際に晃嗣の指を軽く握った。想定外の接触に、晃嗣はびくりとなる。
「もう……こうちゃんが破壊力が高くて俺滂沱の涙流しながらいきそうなんですけど……」
朔は少し酔っているのか、訳の分からないことを言いながら、紙袋の中から白い正方形の箱を出す。そして、斜めに掛けられたダークブラウンのリボンに挟み込まれた小さな紙を摘み上げ、目を通し始める。
「生産者と工場とショコラティエが直接契約してカカオの質を保証……フェアトレードなんだ、高かったんじゃないの?」
思わずいや、と晃嗣は答えたが、実はたかがチョコレートにこんな値段がつくのかと驚いた。それはフェアトレードの商品だからというよりは、ブランド名と、原料が限定生産だからではないかと思う。
「バレンタインデーのサービスです、このお酒ミルクチョコレートにも合うって評判なんです、是非お試しください」
「へぇ、ありがとう」
朔は心底感心したような声で応じた。イケメンに笑顔を向けられたからか、店員はやや嬉しそうに個室から去った。
寿司にチョコレートという取り合わせがやや微妙なので、先に寿司を食べることにする。晃嗣は2つのグラスに酒を注いでから、朔が取らなかった甘海老を口に入れた。独特の甘みと蕩ける食感が、辛口の冷酒で引き立つように感じた。
「美味しいな」
思わず言うと、朔は満足そうな笑顔になった。
「晃嗣さんはいつも美味しそうにきれいに食べるんだって会社で言うとさ、みんな晃嗣さんが社食にいることに普段気づいてないみたいで、そうなのかってびっくりする」
あ、そう、としか晃嗣は返すことができない。彼のこんな惚気に近い話を聞かされているのは、営業課の人間だろうか。恥ずかしくて、これから営業課のフロアに行けなくなりそうだ。
「……存在感薄くて悪いな、俺も言われてるけど、どうして柴田なんかとつき合ってるんだって言われるだろ?」
「うん、何人かの女子には言われた……晃嗣さんがというよりは、ほんとに男が好きなのかって」
朔の返事が、ネガティブ寄りの晃嗣の問いかけをわざとはぐらかしたのかどうかはわからなかった。続いて朔はまぐろ、晃嗣ははまちの寿司を取る。
「お酒美味しいな、飲み過ぎるやつだ」
「ちょっと食べるもの追加しようか?」
鯵のフライとぶりの塩焼きを注文し、待つ間に酒とチョコレートを試してみることにした。同時にチョコレートを口に入れ、グラスを手にする。確かに、強い甘みが酒の爽やかさを際立たせるような感じがした。
「……これは意外、ホワイトチョコも合いそうな気がする」
朔は楽しそうに言った。晃嗣も彼がものを食べる時にいい顔をするのを見るのが好きなので、思いついて鞄に手を伸ばし、小さな紙袋を出した。
「朔さん、これ……ここにホワイトチョコも入ってるんだ、良かったら試して」
朔は目を丸くした。そして、差し出された小洒落たアースカラーの紙袋と、晃嗣の顔とを見比べる。
「晃嗣さん、これはもしやバレンタインのプレゼント?」
改まって言われると、何か酷く恥ずかしい行動を自分が取っているような気がしてきた。晃嗣は酒のせいでなく、頬が熱くなるのを感じた。……早く受け取ってくれ。
「あ、何というか、先週末人事課の連中から唆されたというか、バレンタインにチョコレートを渡すとかしないのかみたいな話になって」
早口になる晃嗣を見て、朔はくくっと笑った。そして紙袋に手を伸ばしてくれたが、受け取り際に晃嗣の指を軽く握った。想定外の接触に、晃嗣はびくりとなる。
「もう……こうちゃんが破壊力が高くて俺滂沱の涙流しながらいきそうなんですけど……」
朔は少し酔っているのか、訳の分からないことを言いながら、紙袋の中から白い正方形の箱を出す。そして、斜めに掛けられたダークブラウンのリボンに挟み込まれた小さな紙を摘み上げ、目を通し始める。
「生産者と工場とショコラティエが直接契約してカカオの質を保証……フェアトレードなんだ、高かったんじゃないの?」
思わずいや、と晃嗣は答えたが、実はたかがチョコレートにこんな値段がつくのかと驚いた。それはフェアトレードの商品だからというよりは、ブランド名と、原料が限定生産だからではないかと思う。
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