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死んだ先が異世界で

大群 騒動 異世界で 2

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side 対策室本部

領主館にあるとても広々としたホール。
此処では、ウェルドの街の重要人物達が集まり今後の会議が行われていた。

ウェルドの領主であるグラッド ウェルドが席の真ん中で取り仕切って話を進めており、冒険者ギルドマスターであるカレナ フィードがサポートとして隣で手助けを行なっている。


そんな部屋の中に「ふぁああっ…」あくびが響き渡る。
音の発生元は一際眠そうにしながら話をする人物だった。
激戦前の会議室とは思えない態度に会議室内でも一際目立っていた。
青い髪にやせ細った体。目元にガッツリとついたクマが印象的な疲労感が漂う男だ。
何を隠そう、彼の名前はフーパ。この男こそが紡の所属する魔法師ギルドのギルドマスターである。

「いつにも増して眠そうだな、自室で寝てたほうがいいのではないのか?」
「今日高ランク魔物を大量に持ってきた馬鹿な新人がいてね…そいつのせいで僕は疲れ切っているのさ。実際サブマスターに任せられるのなら僕は寝ていたいよ…」
周りはグラッドの嫌味にも怒らないフーパに呆れ返る。

「はぁ…それでフーパ、お前のとこの魔法師ギルドは何人くらい戦えるんだ?」
「そうだねー…戦うとなるとランクC以上は欲しいからねー…うん、多分50くらいしか集まんないと思うよー…」
「領主様に対してなんと言う態度…!」
先程からのグラッドに対するフーパの軽い反応に引っかかったのか周りの騎士達が剣に触れる。
それを手で止めながらグラッドは答える。

「50か…少ないな」
「此処最近は冒険者ギルドの引き抜きとかで人員も不足してたしねー…新人が入らないよう圧力をかけたりしてたみたいだからー…文句なら冒険者ギルドに言ってねー…」
感情が篭ってない濁った目でカレナを見つめながら答える。

いきなりのフーパの指摘に、少したじろぎながらも負けじとカレナも睨み返す。
この街に昔からある2つのギルドの急なぶつかり合いに室内の空気は凍りついていた。

「喧嘩なら別のところでしてくれませんか?時間の無駄ですので」
「ですよねー僕もこんな茶番見ているくらいなら早く帰りたーい」

そんな中声をかけたのは赤い髪に髭を蓄えた恰幅の良い男性が止めに入る。
それに相槌を打つのはニコニコと元気な笑顔の金色の髪を持つ少年であった。
片方は商業ギルドのギルドマスターのトーネであり、もう片方が錬金術ギルドマスターのゴルドである。
領主以外に二人の事を止められる数少ない人物であった。

「私の店も色々と片付けが有りますし、これ以上騒がしくするのであれば私は帰らせていただきます」
「まぁまて、今回トーネとゴルドをここに呼んだのは防衛線の間の物資の件だ」
「ええ、きちんと後日補填していただけるのであれば商業ギルドから物資の援助はさせていただく所存ですよ」
「僕のところもきちんと代金払ってくれるなら提供するよー」
「ああ、領主として約束する」
「わかりました。それでは物資の用意がありますので先に失礼します」
「僕もポーションの在庫確認とかあるからいくねー」
「よろしく頼む」
去り際、ゴルドは皆に手を振りながら出て行き、トーネは2人のギルドマスターには一切見向きもせずグラッドにのみ丁寧に頭を下げて退出していった。

繰り広げられる話し合いの中、一つ思いもよらない問題が発生した。
その報告を持ってきたのは街の中心部にあるバルミーシュ教会に仕える若い神父だった。
兵士に連れられ連れてこられた若い神父、室内の面々は何事かと静まり返る。
すると、若い神父が口を開く。



「グラッド様…申し訳有りません…。大司祭様が回復魔法が使える人員を引き連れ…街から出て行かれました…」



「「「「なんだと!?」」」」


予想だにしない事に皆驚く。
教会には救済のためとの事で、ウェルド家から毎回多額の援助を行なっていた。
それは、このような問題が起こった際に回復魔法による援助を期待してのはずだった。

「いち早く逃げ出したのが救済を謳う聖職者とは…なんとも皮肉なものだな」

まさかの状況に室内の空気は重くなっていく。

「いないものはしょうがない、ポーションで代用するとしよう。錬金術ギルドにポーションの追加をお願いしてくれ」
そんな中、グラッドは諦めず的確に指示を出していった。

会議室ではその後も話し合いが続けられていく。

限りある時間の中で話し合った結果、籠城戦は取らず、城壁外で敵を迎え撃つ形を取ること。
騎士が前衛の壁役を務め、魔法師が後ろから魔法師が遊撃、冒険者は二つのフォローをしながら、戦線を維持することを基本陣形とし、東西南北それぞれの門に別れ維持すること。
門の責任者として、東をグラッド。西をカレナ。南をフーパ。そして北を騎士団であるカインが指揮することが決まった。

話し合いが終わり、各々動こうとした時。急に扉が開かれ、一人の男が入って来る。
それはSランクパーティの斥候を務めるガストだった。
息も絶え絶えになりながらも自身が見たものを報告していく。その報告によりさらに騒動が加速していく。



―――――――――――――――――

side 紡


紡は『守護者の休息』を訪れていた。
中ではゴリラとローサさんが忙しなく片付けておりどうやら出ていく準備をしているようだった。
「ディーンさん今大丈夫か?」
「ん?ああ、紡じゃねぇか!こんな騒ぎの中来てくれたのか」

「ああ、此処は俺の数少ない知り合いがいるところだからな一応避難前に今後どうするのかを知りたくてな」
まぁ、様子を見る限りじゃ此処から避難するみたいだけどな…
すると二人は急に話し合いを始めた。何事かと待つとこちらへと振り返る。
「紡にお願いだ。避難するのにマリーを一緒に連れてってくれないか?」
「は?ディーンさん達はどうするんだ?」

二人は清々しい顔で答える。
「この宿守るために戦うんだよ」
「ええ、此処は私たちのかけがえのない場所、逃げるわけには行かないわ」
もう戦うと覚悟を決めていた。

「いいのか?死ぬかもしれない、下手すりゃマリーちゃんは天外孤独になっちまうんだぞ」
「うっ…そう言われちまうとなんも言えないんだが。この宿屋はな俺が子供の時に一度魔物の襲撃によって潰されかけた事があってな。
その時にうちに止まってくれていた女性に救われてるんだ。結果的にその女性はこの街まで救ってくれたんだよ。
その時、その人が俺に言ったんだ。「私はこの宿屋とゴリラの大将が気に入ったからな。今回だけ守ってやるよ」ってな。それからはずっとこの宿を守って来た。
俺は、俺達は救ってくれたその守護者の為この宿屋を潰すわけには行かないんだ」

「そうか、これがディーンさんの守りたいものなのか…」
「ああ、色々と増えちまったが俺はこの宿屋と家族を守りたい。それだけだ」
「いいじゃん、かっこいいと思うよ」
「そ…そうか!」
恥ずかしがりながらディーンは答えた。

「あ、そういや此処を守ってくれたその守護者ってなんて名前のやつなの?」
「あー…うん、そうだな」
ディーンは言い淀む。
ん?なんで言わないんだ?
焦れったくなったのか隣のローサさんが背中を叩いている。
「いっ…わかった言うから!ツムグ、守護者の名前、それはな…モリコ オトギって言うんだ」


――――――――――――――

side ???

「全部埋め終わったぞ!」
球を100個近く、数日かけて埋めきった男がそこにいた。
「ああ、ありがとう。これでこの剣は君の物だ」
仮面の男が禍々しい真っ赤な剣を差し出す。
「これであのガキをぶった斬れる!」
受け取った男は剣に魅入られながら意気揚々とその場を離れていく。

「あーあ、あいつ完全に取り憑かれちゃってるじゃん」
後ろの影から、ドレスを着た女の子が浮かび上がる。
「ええ、あれも私のオモチャだからな。手を出さないでくれよ」
「あんな趣味悪いものに私は手を出さないわよ」

少女は不審者を見る目で男を見つめる。
「それにしてもよく此処まで魔の森を活性化出来たわね…活性化のし過ぎで魔物も独自の進化をしていたわよ」
「ええ、私も確認した。あれは面白い!男に埋めさせた呪怨珠の呪いを吸い取り成長するなんて!あれはもっと観察したい!」
仮面の上からでも分かる楽しげな雰囲気に少女は呆れていた。

「はぁ…魔物で遊ぶのは良いけど見つからないようにしなさいよ。今はまだ私たちの存在は見つかるわけにはいかないんだから」
「承知している。きちんと見つからないように対策は取っているので大丈夫なはずだ」

「それなら良いけど…じゃあ私はもう行くわよ?」
「ああ、私は襲撃の観察をしてから行くからな」

少女はそれだけ交わすと後ろの影の中に沈んでいく。頭の先まで沈みきり、その場に訪れる静寂のなか…

「いつかあの子も実験してみたいな…」
という呟きが流れていた。
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