保護猫subは愛されたい

あうる

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マスターの頼み事に否を言うはずもなく、当然のように頷いた晶。
店の事は今回、事前に零と結の二人に鍵を預け、託していたらしい。

しかし、店の外に出るのは随分久しぶりだ。
晶がそれまで住んでいた自宅の処分をした時以来かもしれない。
社会人として一応車の免許も所有してはいたが、普段日常で使用する機会も少なく、車自体は必要なときにレンタル・リースする程度。

「あの……一体どちらへ?」

まだ数度しか乗ったことのないマスターの車の助手席に座ると、どうにもそわそわする。
高速も何度か乗り換え、ずいぶん遠くまで来たような気もするが、一体どこへ向かっているのか。

「姉の所に少し、ね」
「……お姉さん?それは純也さんの……」
「母親だね。もっとも父親が誰であるかは私にも分からないが」
「あ…」

以前少しだけ聞かされた、家庭の事情というやつだ。

「店に知人を集めて、君を紹介したこととがあっただろう?あの時の話が姉にも伝わったらしくてね。会わせろとうるさいんだ」
「私に………」

ドム同士の姉と弟。
二人がどんな関係を築いているかは分からないが、少なくとも付き合いが途絶えている訳度はないのだろう。

「姉はdomだが、私のパートナーである君に対しては悪いようにはしないはずだ。
不快なことを言うようならすぐに連れて帰ると話してあるしね」

会ってくれるね?との問にぎこちなく頷く晶。


「確か、数名のお相手がいると……」
「今日は一人だから安心しなさい。
姉は普段、自宅には純也や私以外を置かないからね」

それはつまり、マスターの姉にとって、自らのsubは身内には入らない、という意味なのだろうか。
ならば、弟のsubである晶の事はーー。

「私がそこにお邪魔しても許されるのでしょうか?」
「勿論。君は私のsubで、生涯の伴侶だ」

運転をしながら、片手で顎をくすぐられ、ふふとようやく笑みが溢れた。

「姉も、私が漸く落ち着いたと聞いて相手を知りたくなったのだろう。
何しろ私達姉弟は、ドム性の強さ故に両親に捨てられ、共に施設で育てられた同士だから」

「!!」

咄嗟に、何もかける言葉が浮かばなかった。
運転中のマスターに、なにか仕掛けることもできない。
それでも何か気持ちを伝えたいと、すぐそこにあったマスターの左手をぎゅっと握る。

「晶。君には過去なんて関係ないと格好のいい事を話したが、実際に過去から完全に脱却できる人間なんてほんの一握り。
この話も、いずれは晶に聞いてもらおうと思っていたことだ。私の全てを、聞いてくれるね?」
「はい、雄吾さん」

互いの何を知っても、この関係は揺らがないし、揺がせもしない。
その強い決心を感じ、晶は深く頷く。

「とはいっても中々に込み入った話だから、 実際姉とあってからのほうが実感も出来るだろう。……ほら、もうすぐ着く」
「あ…」

そう言われて視線を向けた先にあったのは、マスターの姉の住処と聞いて想像するような都会のマンションではなく。

「あれが、私と姉の生まれた実家だ」
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