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「……あの人を前にすると、どうにも冷静になれず頭に血が登ってしまうんだ。
みっともない姿を見せたね」
「マスター……」
ようやく乗り込んだ帰りの車中。
家からは少し離れた、寂れた駐車場に車を止めると、ハンドルに額を押し付け、深々とため息をつくマスター。
確かに、マスターの姉だという彼女の存在は晶の中でも強烈な存在感を残した。
彼女から渡された腕時計は、帰り道でマスターに預けたままだ。
「晶、君は私より遥かに冷静だった」
それは違う。
力ないその言葉に慌ててふるふると首を振り、晶はマスターに訴えた。
「冷静だったわけではありません。
私はただ、全てをマスターに委ねていただけで」
最終的にはすべてマスターに従うつもりだった。
だからこそ、自由にふるまえた。
心からの言葉だったが、淡い笑みを浮かべたマスターにはその言葉も虚しく響いたのだろう。
「ーー私は、本当に君の全てを委ねられるだけの男なんだろうか」
「!!マスター!!」
それ以上を言っては駄目だと、助手席から身を乗り出し、冷たくなったマスターの唇に、自らの唇を重ねる。
自らの体温を分け与えるように、深く。
「晶……」
「……ん」
やがてなされるがままだったマスターの手が明確な意思を持ち、晶の頭をしっかりと押さえつける。
怪我をしているはずの左手の事も、全く気にしている様子もない。
舌を入れられ、奪い合うように追いかけられて絡み取られる。
くちゅり…という濡れた水音。
互いに求めあっているのだという事を証明し合うような、長い口づけだった。
「晶…晶…晶ッ!!!私は……!!」
「ん……マスタ…」
かき抱かれ、会話の合間にかわす口づけはどんどん深く、互いの唾液を飲み込んで溶け合っていく。
唇が離れた瞬間、それを拒むように糸をひいた唾液が二人の間に伸び、名残を惜しむようにして落ちた。
濡れた晶の唇を己の指でやさしく拭いながら、マスターは晶の肩口に自らの頭を載せ、ぼそりと呟く。
「……君に捨てられるくらいなら、死んだほうがましだな」
「私からそんなことをするなら、殺された方が楽です」
いつもとは逆だな、と思いながらも、すっかり弱気になってしまっているらしいマスターの頭をよしよしと撫でつける。
姉によってえぐられたのは彼のトラウマか、それとも自尊心なのか。
ふふとようやく笑ってくれたマスターが、もう一度晶を抱えなおし、ぽす、とその頭のを胸の内に抱き込んだ。
先ほどの屋敷に充満していた微かな花の匂いとも違う、マスターの匂い。
「……愚かなプライドだよ。図星をつかれて激高するなんて我ながら馬鹿げた話だ。
君をずっと傍に置きたい、放したくない、できる事ならこの腕の中にずっと閉じ込めておきたい。
そんな心の狭さを、よりによってあんな形で突き付けられた」
奴隷のようだと激高した、あの時のマスター。
「……さっきの首輪の話、ですよね」
「あぁ。あれは、私が君の望んだことの具現化だよ。歪んだ執着心の塊みたいなものだ。
隠していた欲望を目の前に突き付けられるというのは、気分のいいものではないな」
晶には、そのマスターの言葉が理解できない。
少し首を傾げ、「歪んだ…?」と不思議そうに口にする。
「確証が欲しいんだ。君が私の傍を離れないという。
でも、どれだけ確証を得られたと思っても、次の瞬間にはもっとはっきりとした証拠をと、際限なく求め、奪ってしまう」
どんなに深いコップだって、水を注ぎ続ければいつかは溢れる。
用心深い旅人によってたたき続けられた石橋も、いずれ壊れる日がやってくる。
「そして君が壊れたなら、私は晴れやかに笑うんだろう。やっぱり駄目だったのかと、全てを君のせいにして」
求めすぎた自らを正当化し、全ての罪を擦り付けて、お前が悪いと攻め立てるだろう。
「君が私を肯定してくれた。だから私も君の全てを肯定するべきだ。
けれど―――――それがどうしようもなく、怖い」
みっともない姿を見せたね」
「マスター……」
ようやく乗り込んだ帰りの車中。
家からは少し離れた、寂れた駐車場に車を止めると、ハンドルに額を押し付け、深々とため息をつくマスター。
確かに、マスターの姉だという彼女の存在は晶の中でも強烈な存在感を残した。
彼女から渡された腕時計は、帰り道でマスターに預けたままだ。
「晶、君は私より遥かに冷静だった」
それは違う。
力ないその言葉に慌ててふるふると首を振り、晶はマスターに訴えた。
「冷静だったわけではありません。
私はただ、全てをマスターに委ねていただけで」
最終的にはすべてマスターに従うつもりだった。
だからこそ、自由にふるまえた。
心からの言葉だったが、淡い笑みを浮かべたマスターにはその言葉も虚しく響いたのだろう。
「ーー私は、本当に君の全てを委ねられるだけの男なんだろうか」
「!!マスター!!」
それ以上を言っては駄目だと、助手席から身を乗り出し、冷たくなったマスターの唇に、自らの唇を重ねる。
自らの体温を分け与えるように、深く。
「晶……」
「……ん」
やがてなされるがままだったマスターの手が明確な意思を持ち、晶の頭をしっかりと押さえつける。
怪我をしているはずの左手の事も、全く気にしている様子もない。
舌を入れられ、奪い合うように追いかけられて絡み取られる。
くちゅり…という濡れた水音。
互いに求めあっているのだという事を証明し合うような、長い口づけだった。
「晶…晶…晶ッ!!!私は……!!」
「ん……マスタ…」
かき抱かれ、会話の合間にかわす口づけはどんどん深く、互いの唾液を飲み込んで溶け合っていく。
唇が離れた瞬間、それを拒むように糸をひいた唾液が二人の間に伸び、名残を惜しむようにして落ちた。
濡れた晶の唇を己の指でやさしく拭いながら、マスターは晶の肩口に自らの頭を載せ、ぼそりと呟く。
「……君に捨てられるくらいなら、死んだほうがましだな」
「私からそんなことをするなら、殺された方が楽です」
いつもとは逆だな、と思いながらも、すっかり弱気になってしまっているらしいマスターの頭をよしよしと撫でつける。
姉によってえぐられたのは彼のトラウマか、それとも自尊心なのか。
ふふとようやく笑ってくれたマスターが、もう一度晶を抱えなおし、ぽす、とその頭のを胸の内に抱き込んだ。
先ほどの屋敷に充満していた微かな花の匂いとも違う、マスターの匂い。
「……愚かなプライドだよ。図星をつかれて激高するなんて我ながら馬鹿げた話だ。
君をずっと傍に置きたい、放したくない、できる事ならこの腕の中にずっと閉じ込めておきたい。
そんな心の狭さを、よりによってあんな形で突き付けられた」
奴隷のようだと激高した、あの時のマスター。
「……さっきの首輪の話、ですよね」
「あぁ。あれは、私が君の望んだことの具現化だよ。歪んだ執着心の塊みたいなものだ。
隠していた欲望を目の前に突き付けられるというのは、気分のいいものではないな」
晶には、そのマスターの言葉が理解できない。
少し首を傾げ、「歪んだ…?」と不思議そうに口にする。
「確証が欲しいんだ。君が私の傍を離れないという。
でも、どれだけ確証を得られたと思っても、次の瞬間にはもっとはっきりとした証拠をと、際限なく求め、奪ってしまう」
どんなに深いコップだって、水を注ぎ続ければいつかは溢れる。
用心深い旅人によってたたき続けられた石橋も、いずれ壊れる日がやってくる。
「そして君が壊れたなら、私は晴れやかに笑うんだろう。やっぱり駄目だったのかと、全てを君のせいにして」
求めすぎた自らを正当化し、全ての罪を擦り付けて、お前が悪いと攻め立てるだろう。
「君が私を肯定してくれた。だから私も君の全てを肯定するべきだ。
けれど―――――それがどうしようもなく、怖い」
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