保護猫subは愛されたい

あうる

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晶と出会ってから、情けない弱音ばかり吐いている。
その自覚は十分にあった。
だが。

ふふふ……。

「……晶?」

腕の中の晶の体が、微かに震えている。
一体どうしたのだろうかと、その顔を覗き込んでみて愕然とした。

「晶ーーー何故笑っている?」

肩を震わせ、小さく吐息を零しながら、笑う晶。

意味が分からなかった。
何故?とうとう、晶にまで見限られてしまったのだろうか。
血の気が失せ、晶を抱いている筈の指先が凍り付いたように動かない。

「雄吾さん」
「……晶、私はーーーー」

何を。
なんと、言えばいいのだろうか。

躊躇い、動きを止めた雄吾に自ら近寄り、晶はもう一度、その唇に深く口をつけた。
情熱的に舌を絡め、自らのしかかるように抱き着いて。
そして、その耳元に囁く。

「嬉しい」と。

「………嬉しい?」

一瞬、言葉の意味が理解できなかった。
目の前の生き物が、初めて自分には理解できない何かに見えた。
それは忌避すべきもの?いや違う。
だがこれは、自分が思うほどに弱い存在では、ない?

「雄吾さん、あなたがそれを弱さというのなら、私はその弱さに満たされる」

猫のように頬を摺り寄せ、語られる言葉。

「あなたの弱さは愛の言葉のようですね、雄吾さん」
「……随分ロマンチックだな、君は」

苦笑するしかなかった。
けれど、ようやく体中に血が戻った気がする。
摺り寄せられた暖かな体温に心底安堵し、逃がすまいと抱き寄せる。

「言葉だけでは満足できない。けれど目で見える枷をつけることも許せない」
「……そう、その通りだ」

目に見える枷は逆に自らを臆病にさせる。
その枷がなければ、自分のものを去って行ってしまうのではないかと不安に苛まれて。

「では雄吾さん、あなたの本当に望むことはなんですか?」
「私の―――?」

考えてみれば、それは同性同士でパートナーとなる事の一つの壁なのかもしれない。
この関係には、何処にもゴールが存在しないのだ。
ドムとサブ、この二つの関係も同じ。
互いの本能を見たしあい、満足すればそれでいい。
それだけだったはずのパートナーに「永遠」と望むのなら、そこから先はもはや「愛」以外の何で繋ぎ留めればいいというのだろうか。

「もしもです。
もしもこの帰り道、事故にあって私が命を落としたとします」
「―――そんなこと、仮定でも口にしないでくれ」

そんなことになったら、自分には絶望以外何も残らないと自覚しぞっとする。

「そうしたら、雄吾さんはまた私以外の誰かを猫として傍に置きますか?」
「無理だ」

即答した。
晶以外の存在など、許容できない。

「では、私がそうして欲しいと望んでも?」
「―――無理だ。置いていくくらいなら、私も共に連れて逝ってくれ」

心から、そう思う。
ベッドの上で冷たくなった晶を見るくらいならば、共に逝きたい。

「でも私はきっと、生きてほしいと望みますよ」
「君のいない世界に何の意味がある」

他のことなど、何も考えられなかった。

「そこまで愛してくれていても、不安ですか?」
「……君の心は秤にかけられないからね」
「雄吾さんが私よりも先に命を落としたら――――そうですね」

考えるようなそぶりをした晶にぎょっとする。
そして、その答えは更に想像もしない言葉。

「私は、雄吾さん以外の誰かに飼われることになるかもしれません」

その瞬間、頭が真っ白になった。
晶が、自分以外の誰かに飼われる?誰かのものに、なる?

「何故?」
「サブである私は、そうしなければ生きていられないからです」

きわめて明確な答え。
けれど、納得などできるはずがない。

己の中に沸き上がってきた怒りを自覚する。
これは誰に対する怒りなのだろうか。
晶に対するもの?不甲斐ない自分に対するもの?それともまだ見ぬ晶のーーーーー。

「それが嫌なら、雄吾さんが命令すればいいんです」
「……何をだい」

言葉を取り繕う余裕すらなく、僅かにかすれた声が出た。
そして晶は目前でゆっくりと唇を引き上げ、嫣然と笑う。

「共に死ね、と」
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