保護猫subは愛されたい

あうる

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「晶、それは無理な話だ」 

生死に関する事をコマンドで命令するのは禁止されている。
晶とてそれを知らぬ筈はないし、もとよりそんなコマンドを下せるはずもない。
愛する人に自分の後を追ってくれなど、どうして言えようか。

「そうですね。でも雄吾さんが望んでいるのはそういうことなのではないでしょうか」
「………私が、君の死を望んでいる…?」

短く振り絞るような声で告げた言葉。
喉がカラカラに乾き、吐き気がした。

「死では証明になりませんか?」

ごく自然に口にする晶に怒りすら湧く。
いや、怒りを感じているのはそんなことを晶に言わせた自分自身にだろうか。

「ならないね、そんなもの」
「それは何故ですか」
「君を愛しているからだ、晶」

だから、奪えない。

ーー殺せない。けれど壊したい。壊せない。

愛している。愛されたい。
愛されている?愛されて居続けたい。

愛を証明する術がなければ、永遠に救われることはない。
けれど全ての終わりである死さえも証明にならないというのならば、それはまるで。

「……悪魔の証明だな」

目に見えないものの存在を証明することはでかない。
だがそれが存在しないことを証明することが出来なければ、その存在を完全に否定することも不可能。


「雄吾さん、あの時庭で私が話していたことを覚えていますか?」
「あぁ…。ハーブの名と「精霊の騎士」……だったかな」
「はい。あのとき名を呼んだハーブは、日本でもよく知られたバラッドの一節に歌われているものなんです」
「ーーースカボロー・フェア」

そうだ、と。
そこまで言われてようやく思いついた。

「やっぱりご存知でしたか」
「あぁ。確か旅人に恋人への伝言を頼む話だったはずだ。」


スカーバラの市に行くのですか?
《パセリ、セージ、ローズマリー、タイム》
そこに住むある人に伝えてください
彼女は私の恋人だった人


「ハーブの名を繰り返しながら人の身には不可能な技を求め、それができたのならばもう一度恋人になれると何度も告げるんです」

奇跡でもなければ、絶対に不可能な事。
それと引き換えにするほどの愛とは一体どれ程のものなのだろうか。

「元々は古い民謡のようなものなのでその解釈も様々ですが、元の話と呼ばれる詩には明確なストーリーがあります」

丘の上に腰を掛け現れた妖精の騎士。
騎士に一目惚れした娘は彼に求婚するが、騎士はそれを拒否するのではなく謎掛けめいた要求をし、それができたのなら妻にしようと嘯く。

「妖精の騎士にとっては戯れのようなものだったのでしょう。けれど娘は諦めず、逆に騎士へ同じ様な謎掛けを返すことでその要求を相殺してしまうんです。
そして騎士はその謎掛けに答えることができず、娘の求婚を退けることができなくなった」
「……それで?」

この話が何を意味しているのか。
それが知りたくて気が早る。

「最後には騎士の泣き落とし……でしょうか。
私には妻と子がいるといって娘を説得するんです。
そして娘はそれを受け入れ、騎士を諦め送り出す」
「ーーならばなぜ初めにそれを言わなかったんだ?」

不誠実な話だと感じたのだろう。
眉根を寄せるマスター。

「さぁ、それか何故なのかは……。
一節には娘が魔女で騎士に呪いをかけようとしていたという解釈も有るようですが」
「呪い、か。
そういえば日本にも似たような話があったな」

麗しき月の罪人。

「竹取物語、ですか?」
「あの話では、姫の望むものを手に入れようとした者たちは皆破滅したな」

そして姫は誰のものにもならずに天へ帰っていく。

「出来ないことを求めるくらいなら初めから振ってやればいいだろうに」

そうすれば、無茶な贈り物に命を落とすものはなかったはずだ。

「もっとも、探す努力をしただけ妖精よりはよほど誠実だが」
「……そうですね。
たとえそれが偽物であったとしても、何かを返そうとしたことは事実ですから」

手に入れる術までは指定しなかったのだから仕方ない。

「不可能と引き換えに愛を得る、か」

  晶の言いたいことが、ようやく少し理解できたような気がした。
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