保護猫subは愛されたい

あうる

文字の大きさ
上 下
51 / 67

51

しおりを挟む
「不可能……か」

先ほどの様子を見る限り、姉は先ほどの話を認識したうえで庭にあれらのハーブを植えさせたのだろう。
だとしたら、その意図するところは。

「不安なのは私だけではない、という事だな」

それは、自分勝手なdomという性を持つ者に与えられた罰なのかもしれない。
消して消えることのない罪悪感、そして焦燥。

「私はsubとしては間もないですし、他のsubにもあまりあった事がありませんが、彼らだって、盲目的にすべてのコマンドに従うわけではないと聞いています」
「…そうだね。コマンドに従えない場合、subはsubドロップを起こす」

無理なコマンドを下されてもそれは同じことだ。
だからこそ、高ランクのdomは恐れられ、敬遠されがちになる。
強い執着と支配欲とを持つdomの要求に、求められるだけ差し出し続ければいづれ壊されるのは必然。

「以前通っていた病院で、聞いたことがあるんです。
ランクの低いものとランクの高いものがパートナーになった場合、どちらかがどちらかを引き上げる傾向にあると」

それは、domでもsubでも起こる話で、どちらかが相手についていこうとした結果そうなったのだろう、と。

「私達の場合も、そうなのではないでしょうか」
「……私が求めるだけ、君がsubとして成熟していくのは分かっていた」

コマンドを与えれば心から嬉しそうに従い、サブミッシブ従属者としての本能に忠実になる晶。
それと同時にこうして、主であるはずの相手に助言めいた事をすることができているのも、そのランクが高位である事と関係あるのあろう。
高位のsubはただ主に従属するだけではない。
主を更なる高みへと押し上げる存在なのだ。
喉から手が出る程欲しい。
それこそ、どんな不可能を可能にしてでも。

そんなものを、棚ぼたのような偶然で手に入れてしまった。
だからこそ、こんなにも焦燥感に苛まれるのだろうかと、雄吾はようやく己の中にある焦りの理由に気づいた。
本来ならば、雄吾こそが晶に色々な知識を与え、育てていかなければならないはず。
だが晶はその全てを既に別のdomに与えられ、ほぼ完成した形でそこにある。
そしてその形こそが自分が最も美しい形だと思うからこそ、それを歪めようとも思えない。
そして何よりも。

「君を手放したく無い」

たとえどんなに自分には過ぎた相手だと理解しても、手ばしてやれるような、そんな段階はもうとうに超えてしまった。

晶は冷たく強張ったその手をぎゅっと握る。

「ならば変わればいいんです。より互いにあった形に、寄り添うように、お互いに」
「互いに、変わる…」
「唯一無二の形を作っていけばいいと、そう思いませんか」

だから、と。

晶は、もう一度、かつて口にしたその言葉を告げる。

「マスター。どうか私を躾て下さい。あなたの形に、ぴったり添うようにーーーーー」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

雑多掌編集v2 ~沼米 さくらの徒然なる倉庫~

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:738pt お気に入り:6

危険な森で目指せ快適異世界生活!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:9,508pt お気に入り:4,133

短編エロ

BL / 連載中 24h.ポイント:1,483pt お気に入り:2,140

不器用Subが甘やかしDomにとろとろにされるまで

BL / 連載中 24h.ポイント:85pt お気に入り:918

無敵チートで悠々自適な異世界暮らし始めました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:433pt お気に入り:2,518

気づいたら転生悪役令嬢だったので、メイドにお仕置きしてもらいます!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:717pt お気に入り:7

時代小説の愉しみ

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:924pt お気に入り:3

4人の乙女ゲーサイコパス従者と逃げたい悪役令息の俺

BL / 連載中 24h.ポイント:745pt お気に入り:780

伸ばしたこの手を掴むのは〜愛されない俺は番の道具〜

BL / 連載中 24h.ポイント:11,627pt お気に入り:2,719

処理中です...