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「お、マスター今日は一人?子猫ちゃんは?」
「下で寝てますよ。最近疲れさせることが多かったので」
「疲れさせることねぇ」
カウンターに肘を付き、ニヤニヤとした目線を向ける常連客。
「噂の特製カクテルが今日こそ飲めると思ったんだけどなぁ」
「まだまだ練習中のようですから、付き合っていただければ喜びますよ」
久しぶりにシェイカーを振り、残念がる客に酒を振る舞う。
「マスターの余裕っぷりが眩しい」
「こりゃなんかあったな」
「だよなー。恨めしい」
「てかマスター、その腕のバングルみたいなやつ何?こないだまでしてなかったよね」
「あ、ホントだ」
客の一人が、シェイカーを振る雄吾の手元に注目し、シャツの下の手首に巻かれたアクセサリーは何だと一気にどよめき出した。
「え、もしかしてそれって」
「そういや、猫ちゃんもまだ首輪してなかったよな…?」
「もしかして、お揃い?絶対そうでしょ!」
「…さぁ?どうでしょうか」
客の好奇心を軽く受け流す雄吾の足元には、お気に入りのクッションを抱えたまま、すやすやと眠る晶の姿。
その首には先日二人でオーダーしたばかりの首輪が巻かれ、心なしか満足そうな微笑みを浮かべているように見える。
肌に馴染むよう、柔らかな革で作られた首輪には縁取りに繊細な金の細工がなされ、裏には雄吾の名前をアート風にアレンジした模様がしっかりと彫り込まれている。
一見するとお洒落なチョーカーにも見えるデザインで、少し襟の高いシャツを着れば丁度隠れてしまうような、絶妙な位置に調節されている。
そして客たちが騒いだ雄吾の手首のバングル。
大方の予想通り、それは晶の首輪と同じ一枚皮から切り取られた揃いの品で、裏には当然のように晶の名前がデザインされた唯一無二のオリジナル。
しかも、バングルの留め具でもある特徴的なチャームが、実はそのまま晶の首輪を外す鍵でもあるというびっくりなおまけ付きだ。
普通ではありえないこのデザインは、何を隠そう、例の滋賀の手による特別仕様の一点物。
滋賀は二人の意見を元にデザインを作成すると、馴染みだという工房を借りてたったの一週間ほどでこの2つを作り上げてしまった。
しかも、デザイン料はご祝儀と言い張り、代金もほとんど原材料費しか受け取っていない始末。
雄吾としては勿論きちんとした代金を支払うつもりだったが、その分はすでに巴から十分すぎるほどに戴いているのでこれ以上は貰えないと逆に謝られ、流石に呆れてしまった。
つくづく弟の先を行かねば気のすまぬ人だ。
結局は雄吾が滋賀に依頼することも見越していたのだろう。
悔しいが、いざ出来上がったものを見れば文句の一つも出ない。
思い通りどころか想像以上の仕上がりに、珍しく興奮した様子で喜ぶ晶の顔を思い出すだけで、どこか幸せな気分になれる。
客からは見えない位置でこっそりとバングルにキスし、足元で眠る晶に向けて優しい微笑みを浮かべる雄吾。
雄吾から答えを聞き出すことにも飽きたのか、常連たちはひとしきり騒いだあと銘々に酒を注文し、最近の話題を語り始める。
「この前さ。最近この辺りに見かけないdomがいるって話がでただろ?」
「あー。確かに聞いたな、そんなの」
「多分なんだけど、そいつらしきdomとこの間、ばったり駅前の居酒屋で知り合ってさ」
「は?居酒屋?ハイスペそうとか言ってなかったか?お前の行く店ってあれだろ?やっすい赤提灯のーー」
「おい、まだ話が終わってないんだから茶化すなよ!」
「はいはい、んで?居酒屋でどうだったって?」
「一人で飲んでるところに肩叩かれて、同じdom同士話さないかって誘われて飯を奢られた」
「お互い一人で?」
「一人で」
「「「…………」」」
奇妙に白けた空気が漂い、最初に話を始めた客が慌てて弁明を始める。
「いや、俺も怪しいとは思ったんだよ!でも……」
「ーーでも?」
「最近、目をつけてたsubを別のやつに寝取られて、新しいパートナーを探してるって……」
domにすればよくある話だが、しかし。
「その話をお前にしてなんのメリットがあんの?」
つまる所はそれだ。
恐らく上級だろうdomが、わざわざ場末の居酒屋に出向いてまで地元のdomと顔をつなぎたい、その理由。
「……最近こっちに来たばかりだから、この辺にどこか仲間が集まる場所があれば教えてくれないか……って……」
言いながら、自分でも自信なさげにだんだん声が小さくなるあたり、冷たい周囲の空気を敏感に感じ取っていたのだろう。
いつの間にか男と話していた友人だけでなく、近くでその話に耳をそばだてていた常連たちまでもが皆、男の席近くに集まり、シラーとした目で男を見下ろしている。
皆の心は1つ。
代表してツッコミを入れたのは、バイトとしてではなく、たまたま店に遊びに来ていた零だった。
「どう考えても怪しいですよ、それ。まさかうちを紹介した訳じゃないないですよね?」
「下で寝てますよ。最近疲れさせることが多かったので」
「疲れさせることねぇ」
カウンターに肘を付き、ニヤニヤとした目線を向ける常連客。
「噂の特製カクテルが今日こそ飲めると思ったんだけどなぁ」
「まだまだ練習中のようですから、付き合っていただければ喜びますよ」
久しぶりにシェイカーを振り、残念がる客に酒を振る舞う。
「マスターの余裕っぷりが眩しい」
「こりゃなんかあったな」
「だよなー。恨めしい」
「てかマスター、その腕のバングルみたいなやつ何?こないだまでしてなかったよね」
「あ、ホントだ」
客の一人が、シェイカーを振る雄吾の手元に注目し、シャツの下の手首に巻かれたアクセサリーは何だと一気にどよめき出した。
「え、もしかしてそれって」
「そういや、猫ちゃんもまだ首輪してなかったよな…?」
「もしかして、お揃い?絶対そうでしょ!」
「…さぁ?どうでしょうか」
客の好奇心を軽く受け流す雄吾の足元には、お気に入りのクッションを抱えたまま、すやすやと眠る晶の姿。
その首には先日二人でオーダーしたばかりの首輪が巻かれ、心なしか満足そうな微笑みを浮かべているように見える。
肌に馴染むよう、柔らかな革で作られた首輪には縁取りに繊細な金の細工がなされ、裏には雄吾の名前をアート風にアレンジした模様がしっかりと彫り込まれている。
一見するとお洒落なチョーカーにも見えるデザインで、少し襟の高いシャツを着れば丁度隠れてしまうような、絶妙な位置に調節されている。
そして客たちが騒いだ雄吾の手首のバングル。
大方の予想通り、それは晶の首輪と同じ一枚皮から切り取られた揃いの品で、裏には当然のように晶の名前がデザインされた唯一無二のオリジナル。
しかも、バングルの留め具でもある特徴的なチャームが、実はそのまま晶の首輪を外す鍵でもあるというびっくりなおまけ付きだ。
普通ではありえないこのデザインは、何を隠そう、例の滋賀の手による特別仕様の一点物。
滋賀は二人の意見を元にデザインを作成すると、馴染みだという工房を借りてたったの一週間ほどでこの2つを作り上げてしまった。
しかも、デザイン料はご祝儀と言い張り、代金もほとんど原材料費しか受け取っていない始末。
雄吾としては勿論きちんとした代金を支払うつもりだったが、その分はすでに巴から十分すぎるほどに戴いているのでこれ以上は貰えないと逆に謝られ、流石に呆れてしまった。
つくづく弟の先を行かねば気のすまぬ人だ。
結局は雄吾が滋賀に依頼することも見越していたのだろう。
悔しいが、いざ出来上がったものを見れば文句の一つも出ない。
思い通りどころか想像以上の仕上がりに、珍しく興奮した様子で喜ぶ晶の顔を思い出すだけで、どこか幸せな気分になれる。
客からは見えない位置でこっそりとバングルにキスし、足元で眠る晶に向けて優しい微笑みを浮かべる雄吾。
雄吾から答えを聞き出すことにも飽きたのか、常連たちはひとしきり騒いだあと銘々に酒を注文し、最近の話題を語り始める。
「この前さ。最近この辺りに見かけないdomがいるって話がでただろ?」
「あー。確かに聞いたな、そんなの」
「多分なんだけど、そいつらしきdomとこの間、ばったり駅前の居酒屋で知り合ってさ」
「は?居酒屋?ハイスペそうとか言ってなかったか?お前の行く店ってあれだろ?やっすい赤提灯のーー」
「おい、まだ話が終わってないんだから茶化すなよ!」
「はいはい、んで?居酒屋でどうだったって?」
「一人で飲んでるところに肩叩かれて、同じdom同士話さないかって誘われて飯を奢られた」
「お互い一人で?」
「一人で」
「「「…………」」」
奇妙に白けた空気が漂い、最初に話を始めた客が慌てて弁明を始める。
「いや、俺も怪しいとは思ったんだよ!でも……」
「ーーでも?」
「最近、目をつけてたsubを別のやつに寝取られて、新しいパートナーを探してるって……」
domにすればよくある話だが、しかし。
「その話をお前にしてなんのメリットがあんの?」
つまる所はそれだ。
恐らく上級だろうdomが、わざわざ場末の居酒屋に出向いてまで地元のdomと顔をつなぎたい、その理由。
「……最近こっちに来たばかりだから、この辺にどこか仲間が集まる場所があれば教えてくれないか……って……」
言いながら、自分でも自信なさげにだんだん声が小さくなるあたり、冷たい周囲の空気を敏感に感じ取っていたのだろう。
いつの間にか男と話していた友人だけでなく、近くでその話に耳をそばだてていた常連たちまでもが皆、男の席近くに集まり、シラーとした目で男を見下ろしている。
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