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第2章 再会編
25、本当に入部すんの?
しおりを挟む「なあ小夏、本当に入部すんの? 」
「するよ」
「だってあそこ、男がいるじゃん」
「いるけど関係ないよ」
「なんだよお前、ああいうメガネがいいわけ? 」
「メガネとか関係ないってば! たっくん、しつこい!」
放課後、私が千代美と清香と共に入部届を持って文芸部に向かっていると、一緒に後ろからついて来たたっくんがしつこく食い下がって来た。
たっくんと付き合うことになって分かったのは、たっくんが人一倍、独占欲が強いということだった。
先日、仮入部届を持って文芸部のドアを叩いたとき、たっくんも一緒について来た。
てっきり文芸部に興味があるのかと思っていたら、自分はバイトを始めるから部活には入らないという。
それなら何故ついて来るのかと聞いたら、『同じ部活に男がいないかチェックする』……って、意味が分からない。
「たっくん、どの部活にだって男子はいると思うよ」
「料理部とかあるだろ? 」
「今は『料理男子』って言って、料理をする男の子も多いんだよ」
「マジか」
「うん、それにここは共学で、クラスにだって男子はいるのに、なにを今さら言ってるの? 」
「部活は別もんだろ? だって、共通の趣味を持ったヤツらの集まりなんだぜ。好きな物が一緒ってことは、距離も縮めやすいってことだろ? そういう所から浮気って始まるんじゃねえの? 」
ーー浮気っ?!
私が顔を赤くして反論しようとしていると、見かねた清香が助け舟を出してくれた。
「和倉くん、それはつまり、小夏が浮気するような子だと思ってるってこと? 」
「えっ? 」
「和倉くんは小夏の愛情を疑ってるのね? 」
「疑うっていうか……心配なんだよ。俺から離れて行かないか…… 」
たっくんは捨てられた仔犬みたいに寂しそうな顔をして、俯いた。
ーーたっくんって、こんなに自信なさげな顔をする人だったっけ……。
私が知っているたっくんは、何でも器用にこなしてカッコよくて人気者で、いつでも自信に溢れていた。
家で虐待に会うようになってからはクラスメイトとも殆ど話さなくなったけれど、それでも誰にも媚びることなく自分を貫き通していた。
そのたっくんが、こんなにも狼狽えている……。
いや、狼狽えているというよりは、怯えているという表現の方が合っているかも知れない。
「……たっくん、大丈夫だよ。私はそんなにモテないし、たっくん以外を好きになることは無いから」
そう言ってたっくんの手を握ったら、救われたかのように顔を上げ、ようやく薄っすら微笑んでくれた。
そうしてようやく文芸部に行くと、そこで待っていたのはたった1人の男子部員だったのだ……。
そして今日もまた、たっくんは最後の悪あがきをしている。
「くそっ! 俺だってバイトが無けりゃ…… 」
「どうしてもバイトをしなきゃいけないの? 」
「ああ、金が必要だからな」
「生活費? 」
「いや、独立資金だ」
「独立? 」
「それよりも……小夏、お前、絶対に浮気すんなよな。アイツに迫られたら俺に電話しろよ。じゃあな」
なんだか上手くはぐらかされたような気もするけれど、とにかくこれでたっくんの許可も下りたということだ。
私たちは文芸部のドアをノックして、引き戸をガラリと開けた。
そこは文芸部とは名ばかりの寂寥感に溢れた部屋。
2つある本棚には、その半分も本が入っておらず、その大きさの無駄を目立たせていた。
部屋のど真ん中に2つくっつけて置かれた長机には何も置かれておらず、その両側を囲むように置かれた8つのパイプ椅子は、それこそ無意味の象徴だ。
だって、座っているのは部長ただ1人だけなのだから。
「やあ、いらっしゃい」
眼鏡の奥で優しく微笑んで立ち上がったのは、 文芸部唯一の部員で部長。
2年生の司波大地先輩だった。
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