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<< 外伝 水口麻耶への手紙 >>

24、秘密の露呈 (1)

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 桜子さんが事務所で働き始めて3週間後、彼女にとって大きな転機となる出来事があった。
 『転機』というのは仕事の面でも精神的な面でもあり、そして彼女と夫である日野先生の夫婦関係においても……である。

 それは同時に私にとっても予想外で衝撃的な出来事だったのだけれど、これによって私の頭の中で全てのピースが綺麗にハマり、彼ら3人を描いたパズルが漸く完成することになったのだった。



 無料の法テラスを頼って事務所を訪れたリタさんは21歳のインドネシア人で、少女と言っても可笑しくない雰囲気の可愛らしい人だった。

 彼女がインドネシア語と英語を話すということで、通訳として桜子さんが同席する事になった。

 応接室にお茶を運んで行って驚いた。
 桜子さんはネイティブのような流暢な英語をスラスラと話し、合間にもう一つの言語……たぶんインドネシア語だったのだろうと思うけれど……を挟み、リタさんと笑顔でコミュニケーションを取っていたのだ。



「……冬馬さん、いえ、日野先生、私の通訳が無くても普通にリタさんと会話出来てましたよね?」

「いや、俺のは日常会話レベルだから、やっぱり君がいてくれて良かったよ」
「ですが……」

「俺の英語はどんなに頑張っても『ジャパニーズ イングリッシュ』だ。発音がまず違うんだよ。それこそ『Japanish』だな。まだまだだ」

 リタさんが帰った後の日野先生と桜子さんの会話を聞いて、ふと思った。

ーーもしかしたら、日野先生は桜子さんに自信を持たせたかったのかも……。

 確かにこれは貴重なチャンスだ。だったら私も協力しなくては!

「桜子さん、凄いわ。英語の発音が綺麗でネイティブみたいだった」
「いえ、私はまだまだ……」

「桜子さん、こう言うときは素直に認めておけばいいの。謙遜けんそんは美徳だけど、自分が努力した成果を自分で褒めてあげることも大切よ」

「……はい、ありがとうございます」

 はにかむように微笑んだ彼女を見て、胸にじんわりと嬉しさが込み上げてきた。

「お茶が空になったわね。淹れなおしてくるわ」

「あっ、私が!」
「ああ、いいの、いいの」

 給湯室で3人分のお茶を煎れながら、自然に笑顔が浮かんでしまう。

ーー八神先生、彼女は少しずつ前に進んでいますよ。

 兄の死を乗り越えて、愛する人に支えられて……。

ーーいつかきっと、過去のトラウマだって……。


 私はこの時少し調子に乗っていたのだと思う。

 八神先生の願いを叶えるために協力できているという喜び。
 このチームの仲間として役に立てている……という嬉しさで……。

 だから、あんな風に軽はずみな失言をしてしまったのだ。
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