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25、7歳差の憂鬱 side天馬

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 右腕に痺れを感じて目が覚めた。
 顔を向けて見たら、俺の腕を枕にこちら向きで体を丸めて眠っている彼女の寝顔。可愛いな、おい。眠り姫かよ。
 口許が緩んでいる。楽しい夢でも見ているのかも知れない。

ーーフッ……彼女…って……。

 急転直下だ。
 こんな事が起こり得るものなのか。いや、実際に起こっているんだから有り得るんだろう。

「俺……死ぬのかな」

 一番欲しかったものに手が届いてしまうと、幸福感と背中合わせで恐怖が襲って来る。
 これは長年苦しんで来た俺への神様からのご褒美なのか? だとしたら俺はもうすぐ天に召されるのか。

ーー冗談じゃない。

 やっと手に入れたんだ……これから何年分かの想いを楓花に注いでやりたいのに、死んでたまるかよ。

「まだ挿れてもいないっつーの」




 颯太のことをいつから好きになったのか……。そんなのはもうどうでもいい事だ……と天馬は思う。

『好き』、『大切』、『愛しい』

 その境界線はいつだって曖昧で、それが幼馴染ともなると、家族愛なのか兄妹愛なのか何なのかもハッキリ区別がつかなくて……。

 ただ1つだけ言えるのは、いつだって楓花は天馬の特別だったということ。
 そして、意識した瞬間には、既にもう始まっていたんだろう。

 一度走り出した気持ちは急加速で進むばかりで、放っておけば見境なく壁にぶつかりそうで……。
 天馬はそんな気持ちに必死でブレーキをかけて、どうにか方向転換をしようとハンドルをグルグル回して抗って……。

ーーだけど、そんなの無駄だったんだよな。もう俺はとっくにコイツにハマってたんだ。自分の本心から逃げられっこなかったんだ。

 どんなにハンドルを回して足掻こうが、 心は結局彼女のところに戻ってしまうんだ……。




 楓花16歳、大河と天馬23歳の秋。

 喫茶『かぜはな』のカウンター席に座りながら、医学部5年目の天馬がチラリと奥の席に目をやる。
 そしてそちらに顎をしゃくりながら、隣に座る大河に尋ねた。

「なあ大河、アイツ誰?」
「アイツ? 」

 天馬に言われた方向をチラリと見てから、大河が「ああ……」と苦笑してみせた。

 2人の視線の先には、テーブル席で向かい合って教科書を開いている楓花と男子高校生の姿。

「ああ、彼氏なんじゃねえの? ここんとこ、週に何日かはああやって奥の席で待ち合わせしてるんだ」
「同級生か」

「いや、俺もよく知らないんだよね。7歳も離れてる異性の兄妹だと、そういう話もしないからさ」

 無性にイラッとする。大河に? あの男子高校生に? 男と笑顔で会話している颯太に?
 いや違う、自分自身に……だ。

「お前、兄貴だろ?!もうちょっと妹の異性関係を把握しとけよ!」

「何を怒ってるんだよ。外デートじゃなくて、じいちゃんの店で一緒に勉強だぞ? 健全でいいじゃん、大丈夫だって。初々しくてお似合いじゃん」

ーーくっそ……。

『お似合い』だという大河の言葉が胸を刺す。

ーー悪かったな。どうせ俺はもうとっくの昔に制服を卒業してるよ。


 ランドセルを背負っているうちは……。
 セーラー服を着ているうちは……。

 そんな風に自分に言い訳をしながら引き伸ばしていたのが悪かった。
 いざ告白しようと決意した時には、既に楓花には彼氏が出来ていた。

ーー諦めろ……ということなのかもな。

告白して颯太から『気持ち悪い』なんて言われたら、幼馴染の優しいお兄ちゃんの座まで失うことになる。

ーーそうだよな。ここで思い留まることが出来て良かったのかも知れない……。

 天馬はコーヒーカップに残っているコーヒーをグイッと一気飲みすると、思いっきり顔をしかめた。

「大河、お前が淹れたコーヒー、苦すぎ」
「ええっ?!じいちゃんと同じ淹れ方だぜ?」

「だけど苦いんだよ、下手くそ! お前、営業の途中でサボってないで、早く仕事に戻れよ!」

「なんなんだよ、お前今日、機嫌悪いなぁ。医学部の勉強ってそんなに大変なのかよ。悩みがあるんなら言えよ?」

ーーお前の妹のことばっか考えてるなんて、そんなこと言えるかよ! 




 楓花を起こさないようそっと頭の下から腕を抜くと、彼女は「ううん……」と寝返りを打って、また寝息を立て始めた。

 無理もない。昨日はサカり過ぎて本当に一晩中コースで攻め立てた。
 そして楓花もそれに応えるように最後は自ら腰を振って……。

ーーやっば……。

 思い出しただけでまた下半身に血液が集まって来た。もう一滴も出ない程出し尽くしたと思っていたのに、本当に好きな女の威力は凄まじい。

 時刻は午前5時過ぎ。まだ外は薄暗く、窓から聞こえて来る車の音もまばらだ。

ーー『かぜはな』の開店時間は午前8時。家に帰るのは7時でいい……とすると、今からもう1回ヤったとしてもシャワーを浴びる時間は十分ある……。

「アホか俺は」

 セックスを覚えたての高校生じゃあるまいし、いくらなんでもサカりすぎだ。度が過ぎて楓花に嫌われたら元も子もない。

「……シャワーを浴びるか」


 結局この後シャワーから戻ったら楓花が目を覚まし、その裸を見たら我慢できずに襲ってしまう事になるのだけれど……そうとは知らない天馬は、シャワーを浴びながら右手で昂りを処理したのだった。
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