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42、仲直りのキスをしたいんだけど side天馬 *
しおりを挟むコンコン……とノックの音。
「はい」
返事をしながら内側からドアを開けてやると、右手にコーヒーポット、左手に大きなピクニックバスケットを持った楓花が立っていた。
目が思い切り泳いでいて、気まずさが顔に現れている。
「御注文のミックスサンドセットをお持ち致しました」
ーーガーン! 思いっきり敬語だ。再会したばかりの時よりも後退かよっ!
「……ありがとう、入って」
「…………。」
「……入って下さい、お願いします」
楓花が無言で部屋に入るのを見届けてから、天馬はドアを閉め、カチャリと鍵をかけた。
「ありがとう……座ってよ」
楓花の手からバスケットとポットを受け取りローテーブルに置くと、向かい側の席に座るよう促す……が、楓花は立ったまま動かない。
「ミックスサンドセット2人前で、1700円になります」
「ごめん、俺が悪かった」
「お支払いお願いします」
「本当にごめんなさい。楓花の気持ちを疑ったわけじゃないんだ。子供みたいに拗ねて、心にも無いことを言った」
「…………。」
「とにかく座って下さい、お願いします……ホント、マジで一生のお願い!頼むから仲直りしてくれっ!」
真っ直ぐな姿勢で右手を差し出して頭を下げると、「ぷっ」と吹き出すのが聞こえ、足音が近付いてきた。
目の前の床に白いスニーカーが見えたと思ったら、右手をキュッと握られる。
ーーやった!
まるで捨てられるのを間一髪で間逃れた仔犬のように、天馬が瞳をウルウルさせながら顔を上げると、目の前の楓花の瞳も潤んでいた。
思わグイッと引き寄せて、腕の中に彼女を収めていた。
「本当にごめんな。悲しい思いをさせた」
「……私も…天にいの申し出に頷けなくて……ごめんなさい」
「いや、あれは俺の一方的な願いで……楓花の気持ちを考えずに押し付けた俺が悪い」
「ううん、私も……」
再び顔を見合わせてクスッと笑い合う。
ギュウッと抱く手に力を籠めた。
「はぁ~っ……良かった~! このまま楓花に嫌われたらどうしようかと思った」
「気持ちを疑われて悲しかったし腹が立ったけれど……嫌ったりなんかしないよ」
「そうであってくれればありがたい」
楓花の瞳を覗き込み、顎に指を添えてクイッと上げる。
「仲直りのキスをしたいんだけど……いいかな?」
「うん、私も仲直りしたい」
そっと閉じられた瞼に唇を当て、頬にもチュッと短いキスを落としてから唇に触れた。
ーーああ、俺は本当にこの子の事が好きで堪らないんだな。
ぷにゅっ……と唇の柔らかさを感じながら、天馬は改めてそう思う。
朝からたった数時間の心のすれ違い。それでも胸が痛くて苦しくて堪らなかった。
外科医が本気で恋をすると大変なんだということも思い知った。
目の前の手術に没頭するためにいつもの数倍の集中力を要したし、神経の擦り減り方が半端なかった。というかザックリ削り取られた。
恐る恐る舌を差し入れたら、楓花はちゃんと舌で応じてくれた。ホッとしてそれをジュッと啜ると甘い吐息が漏れてきて、下半身が熱くなる。
顔の角度を変えながら、口内余すことなく舌で舐め回した。溢れる唾液は蜜の味だ。
白いカットソーの上から胸を揉むと、ブラジャーの厚い布地に阻まれた。いつもの柔らかさを堪能したくて、楓花が履いているジーンズからカットソーを引っ張り出し、裾から手を入れる。
ブラのホックを外してまろび出た柔らかい膨らみを手で包み込むと、それは自分のもののようにしっくり馴染み、手のひらに吸い付いた。
ーーうん。これはもう俺のものだ……誰にも渡さない。
カットソーの上から舌を這わせ、白い布地を唾液で湿らせながら、先端の突起を転がした。
「ふ……はぁ……」
それはすぐにピンと芯を持ち始め、硬くなる。
布地越しにもプックリと勃っているのが分かる。
カットソーの裾に手をかけ、たくし上げようとして……その手を押さえて止められた。
「まっ……待って!サンドイッチ!時間が経つと美味しくなくなる!それに仕事中だから戻らなきゃ!」
「大丈夫、楓花の今日の仕事はこのデリバリーで終了だから」
胸を押して離れようとする楓花の手首を掴むと、「えっ?」と動きが止まった。
「元々楓花は休みの予定だったから手は足りてます。このまま夜まで御自由に……って茜が」
「嘘っ!」
途端にボボッと頬を染め、照れたように上目遣いで見上げてくる。
「だからなんだ……そのサンドイッチは茜ちゃんに言われて私が作ったの」
「マジか!」
ーー茜、グッジョブ!
夫の大河は能天気で抜けてるところがあるけれど、そのぶん茜は鋭いところがあるし気が回る。
お店に電話した時だってすぐに俺の意図を汲み取って、向こうから楓花を寄越すと言い出してくれた。
ーーそうか……ヤバかったな。また暴走するところだった。
辻のアドバイスを忘れて、話を聞く前にまたキスをしてしまったけれど……どうやらそこは気にしてなさそうな様子に安堵する。
ちゃんと話をしよう。
面倒なことから逃げないで、嫌な言葉も遮らないで……。
俺たちはまだ始まったばかりなんだ。焦りは禁物だ。
ーーまずは……初めての彼女の手料理を堪能してから……だな。
「それじゃあ楓花の愛が籠った手作りサンドを食べるとしようか。フレッシュなうちにいただかないとな。ほら、一緒に食べよう。もう1人分は楓花のだから」
「あっ、愛?!……は、そりゃあ籠ってるけど……」
「ハハッ、可愛いな」
一緒に美味しいものを食べて、笑い合って、それから2人のこれからについて語り合おう。
休日の予定は大幅に変わってしまったけれど……こんな時間も悪くない。
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