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96、天馬、楓花溺愛の記録 (2) by宗馬

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 楓花小4、大河と天馬が高2の夏休み。

 ナースに呼ばれた宗馬が慌てて病院のロビーに向かうと、血だらけのシャツを着て血だらけの楓花を背負った天馬が立っていた。
 聞くと自分の喧嘩に巻き込まれて楓花が石をぶつけられたと言う。

「俺のせいで颯太が怪我をしたんだ。俺のせいで颯太が……」

「天馬、お前、駅からここまで楓花ちゃんを背負って来たのか」

「そんなのどうでもいいんだよ! 親父、お願いだから早く颯太を助けてやってくれよ!」

 汗と涙をダラダラ流しながらそう懇願してきた。

 宗馬が楓花を抱えて処置室に入ると、追い掛けてきた天馬がガラリとドアを開けて叫んだ。

「親父、楓花は女の子だから傷が残らないようにしてやってくれよ!」

 そして楓花に向かって、
「楓花、傷が残ったら俺が嫁に貰ってやるからな! 絶対だからな!」

 大声で叫び続ける天馬を追い出してから、宗馬は暴れる楓花をナース2人がかりで押さえて処置を始めたのだった。

 


「駅から10分の距離を楓花ちゃんを背負って歩き、おまけに『嫁に貰う』発言。あれは我が息子ながら漢気おとこぎがあってカッコいいと思ったね」

 懐かしそうに遠くを見ている宗馬に対し、天馬は恨みがましそうな目を向ける。

「頼むからこれ以上楓花の前で俺が泣いたとか恥ずかしい話をしないでくれよ。マジで黒歴史」

「あら、そういう歴史があった上で、今こうして2人が恋人同士として並んで座ってるのよ。素敵なことじゃないの。ねっ、楓花ちゃん」

「はい、でも……」

 楓花がジトッとした目で天馬を見つめる。

「なっ……なんだよ」

「私と付き合うとか結婚とか言ってるのって……まさかあの時の責任を取って……じゃないよね?」

「うわっ、ありえないから!……ほら、母さんたちが変な話をするから、楓花のネガティブモードにスイッチが入っちゃっただろ!もうこの話題は勘弁してくれよ!」


 その時部屋のドアがガチャリと開いて、新之助と茂が揃って顔を出した。

「茂さん!……と、おじいちゃん、どうしてここに?」

 新之助はニコニコしながら楓花の隣に座ると、

「シゲちゃんと2人で競馬観戦に行って来て、これから一緒に囲碁でもしようとここに来たら、廊下まで楽しそうな話し声が聞こえて来たんでな」

 茂も天馬の隣に座ると、天馬と楓花を交互に見て頷き、楓花の向こう側の新之助に語り掛ける。

「2人がこうなるって分かっていたら、やっぱりあの時に見合いさせておけば良かったかな。なあ新ちゃん」

「そうだなぁ。だけどあの時は楓花に彼氏がいたからな、まあ仕方ない」

ーーえっ?!

 楓花は思わず天馬と顔を見合わせた。
 何だか以前にも似たような会話があったような気がする……。

「「 あっ! 」」

「お兄ちゃん!」
「大河!」
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