婚約破棄してきた強引御曹司になぜか溺愛されてます

田沢みん

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<< 1周年記念特別番外編>>

『あしなが雛の会』会長になりました&初ラブホ 1

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 ニューヨーク出発前に夫婦で雛子の母校を訪問する&初ラブホで興奮するお話です。

*・゜゚・*:.。..。.:* .。.:*・**・*:.。..。.:*・*:.。. .。


 白椿しろつばき学園は、都内にある中高一貫の名門私立女子校だ。
 その学生寮の一階にある『談話室』の応接セットで、雛子はコーヒーを一口飲んでからカップをソーサーに置いた。


「まあまあ、雛子さんは素敵な奥様になられて……」
「奥様!?」

 校長先生から慣れない呼び方をされて頬を赤らめると、隣に座っている朝哉が「なんで照れてるの、俺の奥様」とニヤニヤしながら顔を覗きこんできた。

「もっ、もう! からかわないで」
「からかってなんかいないよ、奥様」
「だからっ」

 そこまで言ったところで向かい側に座っている理事長と校長先生、そしてテーブルの横で丸椅子に座っている寮母の生温かい視線を感じて口を閉じる。

――朝哉ったらふざけすぎ!


 青葉が輝く五月の午後。
 雛子と朝哉が今日ここに来たのは、雛子の『あしなが雛の会』代表就任の報告と奨学金制度の説明のためだ。

 しかしそれは建前。就任の報告も制度の説明もすでに会からの一斉メールで済んでいるし、雛子本人がわざわざ挨拶にくる必要もなかった。
 じつを言うと、雛子がお世話になった学校関係者へのお礼をしたかったのと、朝哉が雛子が住んでいた寮の内部を見たかった……というのが本当の目的だ。


「在学中は本当にお世話になりました。寮に置いていただけなかったら、私は居場所がありませんでしたから」

 婚約パーティーの襲撃事件により、雛子の当時の境遇は一般の人々にも知れ渡っている。今さら隠すこともない。
 雛子と朝哉が揃って頭を下げると、理事長たちが慌てて「どうか頭をあげてください」と恐縮した。

「雛子さんは当時からとても優秀な学生で、寮でも模範生だったと校長や寮母から聞いております。私たちはそんな雛子さんを寮で危険に晒してしまったことを反省しているんですよ」

 理事長の言葉を引き継ぎ校長が続ける。

「寮に男が侵入したと聞いた時は肝が冷えました。しかしこう言ってはなんですが、そのおかげで古かった寮が整備されて、学生たちが快適に過ごせるようになりました。これも雛子さんのお陰ですよ」

「そんな、私は何も……」

「いいえ、雛子さんと……そしてこちらの黒瀬さんのおかげです。秘書の赤城さんから、『じつは雛子嬢のスポンサーはクインパス会長だ』、『彼女はクインパス次期CEOが妻にと望んでいる大切な女性ですのでくれぐれもよろしくお願いします』って聞かされたときには驚いたものですけど、本当にこうしてお二人揃ってきていただけるなんて、私はもう、感無量で」

――ええっ!?

 隣で「あっ、ちょっ、それは!」と慌てている朝哉をじっと見る。
 目が合うと、彼は片手で首の後ろを掻いて気まずそうな顔をした。

――妻にと望んでいる女性……って。

 驚きと嬉しさと恥ずかしさと。けれどやはり嬉しさが勝つ。
 言いたいこと聞きたいことは山ほどあるけれど、それは2人きりになってからゆっくりとだ。


 それから全員で席を立ち、寮の中を案内してもらう。
 雛子が高校を卒業してから五年経っているが、内部はその頃とほとんど変わっていなかった。

 寮母さんが『特待生部屋』のドアを開けると、そこには勉強机と白いシーツのかかったベッドがあるだけでがらんとしている。

「あれっ? この部屋には誰もいないんですか?」
「ああ、ここは元々雛子さん用の部屋だったので、今はどなたも……」
「あっ、ちょっ!」

 寮母さんの説明に、またしても朝哉が挙動不審だ。
 彼の慌てる様子を見て『しまった』という表情を浮かべた寮母に、すかさず雛子がたずねる。

「この特待生部屋は、私のための部屋だった……ということですか?」
「えっ、ええ、あの……」

 チラチラと朝哉を見ながら困っているのを見て、すべてを察した。
 寮の改装工事が行われたのも、新しく出来た特待生部屋に雛子が移ったのも、すべて朝哉の指示によるものだったのだ。

 朝哉が雛子の知らないところで助けてくれていたのは知っている。
 白石メディカを救い、あしながおじさまとして雛子を長年援助してくれていた。
 しかしそれだけでなく、大地の寮侵入事件のすぐ後から赤城を通じて行動を起こしていたのだ。

――まったく彼は、どこまで私を甘やかすんだろう。

 予想外のことをする人だとは知っていたけれど、ここまで大掛かりなことをしていたなんて、ただただ驚くしかない。
 しかも特待生部屋と称してバストイレ付きの豪華な部屋を作ってしまうだなんて、やり過ぎにも程があると思う。

 けれど朝哉はそこまで雛子のことを心配し、大切に想ってくれていたのだ。
 偽りの別れを告げて会うことが叶わなかった彼が、遠くニューヨークで出来る限りを尽くした結果がこれだったのだろう。

 自分だけが特別扱いされるとなれば当然雛子は遠慮する。
 だから『特別室』ではなくて『特待生部屋』。勉強を頑張りさえすれば誰でも入れる部屋だというていでこの部屋を設けたのだ。
 そこまで考えてくれていたことを、今は素直に感謝しよう。そして彼が与えてくれた幸せを、今度は自分が誰かに分け与えればいいのだ。

「理事長、校長先生、成績優秀者には是非この部屋を使わせてあげてください。それと、先ほどいただいた候補者リストから早急に奨学生も選ばせていただきます」

 雛子がニコリと微笑むと、彼女の怒りを買ったかと心配そうな顔をしていた朝哉がホッと表情を緩めた。
 彼が雛子の言葉に補足する。

「私からもお願いします、妻が言うようにこの部屋を優秀な学生のために使っていただきたい。それだけでは他の学生から不満も出るでしょうから、全部の部屋をトイレ付きに改装しましょう。工事の見積もりが出たら私宛てに送ってください」

「えっ、いいの?」
「いいも何も、君がお世話になった場所じゃないか、夫が恩返しするのは当然だろ?」
「朝哉……」

 涙が出そうになるのをグッと堪えて彼のスーツの裾をつかむ。
 玄関先で三人に見送られ、寮を出た。


 門の外に立ち、改めて二人で寮を振り返る。

「懐かしいわ。ここで朝哉にこっぴどく振られたのよね」
「それは二度と思い出したくないけどな」
「けれどそのおかげで今の私たちがあるんだわ」

 朝哉は苦笑しながら寮の二階の部屋をスッと指さす。

「あそこ……」
「えっ?」
「あの右から三番目が、俺と付き合ってた時にヒナが住んでた部屋」

 彼が指さした先を見上げ、雛子がうなずいた。

「そうね、デートの日にはあの窓から外を見て、朝哉が迎えに来てくれるのを待ってたわ」
「……俺、ニューヨークに発つ前の晩もここに来たんだ」
「嘘っ!」

 目を大きく見開く雛子に、朝哉はフッと微笑む。

「本当。窓に向かってヒナの名前を叫びたくて仕方がなかった。でもそれは絶対にしてはならなかったから……自分に誓ったんだ。遠く離れていてもヒナを絶対に守る、いつかきっと、必ず会いに行くって」

 けれどもその後、大地が寮に侵入するという事件を起こしてしまった。雛子を守り切ることが出来なかったばかりかそばにいて慰めることさえ出来なかったのだ。

「すぐにでも日本に行ってヒナを連れ去りたかったけど、歯を食いしばって我慢した。あの時の悔しさや悲しみが、その後の俺の原動力になったんだと思う。あの苦しみに比べればどんな辛いことにも耐えられる。一日も早く上に行くんだ、ヒナを迎えに行くんだ……って」

「朝哉……」
「だから寮のことは俺の自己満足。そんなことをヒナは望んじゃいないって分かっていたけれど、それでも何かをしてやりたかったんだ」

 不意に朝哉がしゃがみ込み、門扉の横の壁を見ながら雛子を呼び寄せる。

「ヒナ、ここを見て」

 そこには小さな金色のプレートが嵌め込まれている。

「あっ、『あしなが雛の会』のプレート。でもこの団体は、この前まで実在してなかったのよね」
「うん、そうだけど、俺はヒナと復縁したら雛の会を創立するつもりでいたから。その誓いの意味で赤城にこれを頼んでおいたんだ」
「ええっ!?」

――本当にこの人は……。

「朝哉はまるでビックリ箱ね。なにが飛び出してくるのかわからない。まだまだ私が知らないことを隠してそうだわ」

「う~ん、もう何も隠していないと思うけど……まあ、男は多少ミステリアスなほうがカッコいいだろ?」

 肩を抱かれ、二人で駐車場に歩きだす。

「ふふっ、朝哉、本当にありがとう。私はいつもあなたに与えられるばかりで、何も返せていないわね」
「ヒナを丸ごともらったから、もう何もいらないよ」
「ううん、朝哉には感謝してもしきれないわ。一生かけて恩返しさせて」

 朝哉はしばし顎に手を当て考えて、そして何かを思いついたらしく勢いよくこちらを向いた。

「だったらさ……今からひとつお礼してもらってもいい?」
「えっ? うん、もちろんだけど……」
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